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処理隊

さて、死神神官から聞いた「死の国への入り口」だが、近いところでは各お寺や教会にもあるらしい。

しかしここは所属のお坊さんや神父さんが連れてきた魂専用という契約になっており、我々のような「彷徨える魂」は受け付けてくれない。

俺たちが行くのは、これらを管轄する「死の国支所」という施設だ。

この場所は私も良く知っている、観光地化された大きなお寺だっだ。

何度となく行ったことがあり、場所も知っている。

まあ歩きでも2〜3日もあれば着きそうだ。


「さ、行こうか」

俺が歩き出そうとした時、トクが血相を変えた。

「ちょ、ちょっと待って下さい!僕は行きませんよ。僕は彼女の元に戻ってこれから見守り続けるんです!」

「おいおい、無理な事言うなよ。悪いがお前なら、その処理隊とかいうやつに瞬殺されるぞ!」

「いや、抹殺されてもいいんです。僕は彼女の側に永遠にいたいんです!」


はあ、こいつには論理性のかけらもなさそうだ。

出来の悪い部下を持った中間管理職の気分だ。


「おい、良く考えてみろ、彼女は今回の事件なんてすぐに忘れてしまうぞ。単なるストーカーの自殺事件としてな。」

グッ・・トクが黙りこむ。

「それにな、その彼女は多分誰かと恋愛し、結婚をするだろう。

子供も生まれて幸せな家庭を作るんだ。それをお前はずっと何もできずに永遠に見続けることができるか?俺ならそれは地獄以外の何者でもないな。」

トクの目に涙が浮かんできた。

「もう『詰み』だんだよ・・・ 行くぞ。」


トクが慌てて顔を上げる。

「ちょ!ちょっと待って下さい。チョーさんはどうなんですか。入り口に行きたいんですか?」


チョーさんは四角いメガネを指先で戻しながらぼそぼそと話し初めた。

「私としては、神官さまが言われていますので入り口に行くことが我々の行うべき行動であり・・」

俺は口を挟んだ

「いやいや神官の話しは別としてあんたがどう思っているか聞きたいんだが。無事にたどり着けるとは限らんぞ。」

「いえいえ、神官さまもそうおっしゃってます。まあ大丈夫ですよ。こういうものは指示どおりにやっとけばいいんです。」

そして話しは続く。

「私はこの中で最年長者です。経験豊富な私の意見を聞いたほうがよいのではないですか?」

説得力のないゴリ押しだ。どこからその自信が来るんだ。


「ではチョーさん、具体的に今からどう行動するつもりなんだ?」

「それは皆様方で考えてください。私はその案をチェックしますから。」


よく居る丸投げ上司だな、こいつは。


「で、タカさんはどうしたいんですか?」

トクが訪ねてきた。


「俺・・・どうでもいいかな。でも、何もしないというのも抹殺を待つだけだからやっぱり行くだけ行ってみようかなと思っている。

チョーさんも行くっていってるし、お前も行ったほうが良いと思うぞ。

まあ、これからのことを考えながら進んで、入り口に着いたところで結論を出せば良いんじゃないかな。」


「まあ、タカさんがそういうなら・・・」

トクはしぶしぶ了承した。


「ほら、私の判断は正しいでしょ」

チョーさんが得意げに笑顔を見せた。

しかし、俺はチョーさんほど楽観的ではなかった。

そもそも死神の話なんて信じられない。


「さ、皆さんそれでは私に付いてきてください。迷子にならないでくださいね。」

チョーさんが歩き出した。


「チョーさん、どこに行くんだい?」

「バス停ですよ。神官さまは電車はダメだと言われてましたが、バスはダメだとは言われなかったでしょ?」

私は気づいてたんですよとでも言いたげに得意げな顔をした。


「おいおい、たしかにそうだがバスはOKとも言ってなかったぞ、マークされてたらどうするんだ。」

「もしそうなら神官様の責任です。でも神官様の指示ですよ。だから大丈夫ですよ。さあ、行きましょう!」


通勤時間のピークは過ぎたとはいえ、バス停はまだまだ人でごった返してる。

チョーさんは道の真中をどうどうとバス停に向かって歩いた。


「えーっとこれですね。105番のバスに乗ればひとっ飛びですよ。簡単ですね」

チョーさんが後ろ姿のまま案内板を指差して呟いた。


全く無警戒なチョーさんとは対照的に俺はきょろきょろと回りを気にしながらバス停へと近づいた。


その時、背後からなにか殺気のようなものを感じた。

耳を済ますと雑踏の中から会話が聞き取れた。

「・・・こちらα1。オブジェクトは予想どおりバスでの移動を試みている・・・」


予感というか確信を感じ振り返ってみる。


朝の混雑する人混みの中に明らかに異質な全身黒服の男性が10人程度こちらにゆっくりと迫ってきているのが見えた。

それが何かは容易に想像できる。


「処理隊だ!逃げるぞ」


悲痛な驚きの顔のトクと、「へっ?」と事態を飲み込めないチョーさんの背中をどんと突き飛ばし、走った。


処理隊が慌てて拳銃のようなものを上着の下から取り出しこちらを構えた。

「やめんか!一般人に当たったらどうするだ!」

リーダーらしき男が叫んだ!


「こっちだ!」

俺はおどおどする二人の服を引っ張り、反対方向へとかけ出した。


3人とも人混みにぶつかる。その度に「カン!カン!」と金属がぶつかるような音がする。


俺は闇雲に必死で逃げた。もう二人のことを気にする余裕はない。そもそも二人がどうなろうとしったこっちゃない。


「待て!人混みではこっちが不利だ!深追いするな!」

処理隊のリーダーらしき声が後ろで聞こえる。


俺は振り返ることもなく延々と走る!そしてビルの地下へと駆け込んだ。


逃げ切ったか?

そう思い振り返ると驚いたことに二人共着いてきていた。


「あ、皆大丈夫か!」

本当はこの二人が捕まっている間に俺は逃げようとおもってたんだが・・・


「みんな無事でよかったな。」

心にも無いことを呟く自分にちょっと罪悪感を感じた。


「ひどいじゃないですか!神官さまの話しと違うじゃないですか!」

うなだれているトクのよこでチョーさんが怒っている。

しかしそもそも神官はバスはOKとは言っていない。チョーさんが自分の都合の良いように解釈しただけの単なる思い込みだ。


「これで分かったろう。自分でなんとかしないといけないんだよ。

すぐにここも見つかるから早く移動するぞ!」


膝を抱えて震えているトクを無理やり立たせる。

「こ、怖くて足が動きません・・・・」


はぁ、こんな奴らと一緒に逃げるのか。先が思いやられる。


しかし、また面白いことを発見した。

あれだけの距離を全力疾走したのに三人ともまったく疲れていない。

これは武器になるなぁ。そう思った。



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