彷徨える魂
少女に話しかけようとするが、ドキドキして言葉がなかなか出てこない。
断っておくが俺はロリコンではない。
少女からは大人の色気がオーラのように醸しだされていのだ。
「お、お嬢ちゃん、俺たちが見えるの、お嬢ちゃんも死んでしまったのかな?」
優しく声をかけた。
一瞬間が有り、その艶やかな唇がまた動き出した。
「坊やたちバカなの〜 私は死んでないし、幽霊でもないのよ〜ん」
その唇の動きに目が釘付けだ。集中できない。
死をも感じる魅力に取り込まれてしまいそうなのを必死で我慢する。
「私は死の国の神官。ここが出来たときからずーっとずーっと死者を導いているのよ〜」
ここが出来た時から! 死の国の神官! 突っ込みどころが満載だ。
「ということは死神なんですか?」
相手は幼い少女なんだが、俺はすでに敬語だ。
「死神?そうねぇ、そう呼ぶ人もたくさんいるわよ。あとは神様とか、妖精とか、天使なんても呼ばれているわぁ」
「て、天使には見えないなぁ。あ、いや、その衣装のことですよ。」
「あらぁ〜それは貴方がそういう風に見ているだけでしょ〜」
天使なら白い衣装に大きな羽根だろう。そう思ったが口には出せなかった。
「坊やたち、信じられないの〜ね。仕方ないわねぇ〜。でも本当なのよ〜ん あなた達みたいに彷徨っている魂を私が導いてあげてるの〜」
到底信じられることではないが信じざるを得ないオーラが彼女から醸しだされている。
「という事は、俺たちを導くためにわざわざ迎えに来てくれたのですか?」
「あ〜ら、それは違うわぁ〜沢山の人がここに集まってくるから番人してるのよ〜ん。
それに今日はもうすぐお客様が来るの〜 あ、そろそろかしらねぇ」
その瞬間、どーんと鈍い音がした。
キキーッ! 金属が擦れある音がホームに響く。
事故だ!誰かはねたぞ!
悲鳴とともに人が電車に駆け寄る。
「あーら時間通りなのねぇ〜。どうせだから三人まとめて説明しちゃうわよ〜ちょ〜っと待ててね〜」
神官ってのは必ず語尾を伸ばすのか?
「坊やたちおまたせ〜。紹介するわぁ〜こちらが新しい坊やよ〜ん。
この坊や、家庭がうまく行かなくて自殺しちゃったのぉ〜 かわいそうよねぇ〜 電車は痛かったわよねぇ〜ん」
気が付くと少女の隣に、銀行員風の私より年上な生真面目そうなサラリーマンが立っていた。
不幸を集大成したらこうなるだろうというような顔をしている。
突然現れたのだが、もう驚くこともない。
しかし、このおっさんも坊や扱いとは・・・
この駅が出来たときからいるというが一体何歳なんだろう。
「あ〜ら 私たち神には年齢なんて無〜いのよん そんなことどうでもよいでしょ〜 もっと聞きたいことがあるんじゃな〜い?」
彼女が色っぽく体をすり寄せてくる。ぞくっとする。間違いなく大人の色気だ。
三人そろったところでこれからの行動について説明を受けた。
到底信じられない話しと、受け入れがたい事実の説明を聞くこととなった。
どうやら死の国には大勢の神様がいて、またその下で働いている部下も沢山いるとのこと。
これらの人たちも、俺たちの定義で言えば神であり、当然ながらこの少女も神であり神官でもあるとのこと。
少女はこの駅が出来た時に死の国から派遣され、ずっとここにいるらしい。
仕事は、死者の魂を導くこと、また、予定外の死や予定外の生を食い止めること。
この駅は生と死が沢山混ざり合っている重要地域であり、少女はそれを管理する信号機のようなものであるらしい。
ちなみに少女のゴスロリは神官の制服とのこと。
死の国にもロリコンがいるんだろう。
少女に死神かと尋ねたが、そんな質問は意味がない、神は神だという。
それは見るほうが決めることで、好きなように見れば良いとのことだった。
そして信じられない真実を告げられた。
人が死んだ時、元々は神々が魂を天に導いていたのだが、近年は人間が増えすぎたため死人が増加し、とても神だけでは処理できなくなった。
このため、この作業を簡略化し、宗教法人に委託するようになったとのこと。
具体的には、人は死ぬと委託先である宗教法人がお経や葬儀などの儀式を行い、これで魂は天に召されるのだそうだ。
しかし、たまに儀式の前に体から魂が遠く離れてしまうものがあり、こうなると委託先では処理できないそうである。
これが我々のような「さまよえる魂」ということだ。
これの処理をするのが彼女のような神官の役割であり、以前は沢山の神官が魂を導いていた。
少女も、管轄であるこの駅にたどり着いた魂を死の国の入り口まで導いていたらしい。
しかし、近年の死者増加により状況は変わってきた。
死の国が死者で過密状態になってきたのだ。
また死の国に相応しくない亡霊が増えて治安も悪化したとのこと。
そこで迎え入れる魂を削減することが検討されたが、これの矢面にたたされたのが俺たちのような彷徨える魂であり、排除論が検討され始めた。
そもそも彷徨える魂は、葬式までその場に立ち止まることができなかった問題児だからこれを保護する必要はないのではないか。と言うことだ。
これにより死の国は、神官による死の国への導きを中止。口頭説明にとどまることとなった。
また人員?削減で神官も主要な場所だけにしか配置されなくなったとのこと。
それと合わせて悪しき魂を抹殺する部門が出来た。その名は「処理隊」。
処理隊の本来の任務は悪しき魂を抹殺することなのだが、近年はその暴走がひどく、彷徨える魂を見つけては手当たり次第に抹殺していること。
死の国としてはこの暴走を止める必要があるが、先ほどの問題もありこれを黙認していること。
そして処理隊の暴挙に反対派が生まれ、魂の保護団体というものができた。
抹殺派と保護派の間で闘争が行われているが保護団体は事実上劣勢であること。
ただ、死の国の入り口番人は保護団体派であり、入り口までたどり付いた魂は全員天に成仏させていること。
俺とトクがここまで抹殺されずにたどり着いたのはただの偶然であること。そして大きな駅には処理隊が常にマークしていて、駅から出る電車は細部まで調べられる。すなわちここから電車に乗るのはそのまま処理されることを意味すること。
ただし、この駅内においては少女の管轄内であるため、駅にいる間は処理隊も手出しが出来ないとのこと。
・・・らしい。
「ということだからぁ〜 ごめんねぇ〜 みんな頑張って入り口までいってねぇ〜」
死の国の入り口まで処理隊から逃れて、しかも徒歩で行くのか。
「ちょっと教えてもらえますか。処理隊ってどんな姿してるんですか?わからないと逃げおくれてしまうんで・・・」
俺は尋ねた。当然の質問だ。
「あら〜 私にはどんな姿かはわらないわぁ でも一目ですぐに処理隊は分かるわよぉ〜」
「いや、姿も知らないのに、見てわかるもんですかね?」
「だからぁ〜 坊やたちが一目で処理隊って思う姿をしてるから安心してねぇ〜」
神官である少女が処理隊の姿を知らないとは思えない。しかしこれ以上聞いても無駄のようだ。
この娘は本当に俺たちを導く気はあるんだろうか。
もしかしたら処理隊の狩りの獲物として俺たちは放たれるのではないだろうか。
やはりこの娘は天使じゃないな。死神だ。
どうせなら天使に会いたかったものだ。
トボトボと階段を降りながら考えた。
俺はこの世に未練はないはずだ。でも成仏はしたいしなぁ・・・
しかし処理隊に消されてしまうというのもそれほどいやなものでもない。
俺はどうしたいのだろう?正直言うとどっちでも良い。
無言のまま三人はとりあえず駅前まで歩いた。
三人?そっかまた一人お荷物が増えたんだっだ。
俺は歩きながら新入りの銀行員風に尋ねた。
「で、あんた誰だよ。あ、名前はいいよ、どうせ覚えてないだろうから。
免許証かなんか名前書いたもの持ってるだろ。ちょっと見せてくれや。」
男は無言で財布を取り出し、免許証を差し出した。
どうやら長嶋という名前らしい。
年齢も俺より5つほど上だ。
仕事が辛い上に家族からは嫌われ、仲間はずれにされていて、これがたまらず飛び込み自殺をしたらしい。
「じゃ、あんたはチョ~さんね。」
えっと驚く顔に俺は疲れたように片手を上げて言葉を制した。
「はぁ〜」とため息をつき、さてどうしようかとビルの合間から空を見上げた。
あそこに死の国があるんだろうなぁ・・・




