現実:食-兵糧-戦闘糧食(コンバット・レーション)
レーション(英語: ration):腐りにくい、調理不要ですぐ食べられる物
本来は「割り当て」「支給」などを意味しており、軍隊で支給される配給品(歯ブラシや手袋など)全てを指す語であったが、最近では作戦行動などに当たって部隊または個別に支給される携行糧食のみを指す場合が多い。調理不要の戦闘糧食である。
その支給品の1つである携行糧食は、近年では携行性や保存性を考慮し缶詰にレトルトパックを組み合わせたタイプが現代では主流となっている。現地の気候などによっては簡易燃料や水清澄剤といったものが同梱されることもある。
また糧食の中には缶などで包装された物もあるため、兵士にはアーミーナイフ(十徳ナイフ)が支給され、有事の際にはアーミーナイフ等で缶を開封するよう軍隊式開封術を訓練している軍隊も多い。
▼駐屯地用兵食ガリソン・レーション
駐屯地や基地の食堂での通常の食事は、特にガリソン・レーション(garrison=守備隊・駐屯地)や兵食と呼んだ。長時間の任務を行う哨戒機や輸送機などは基地で調理した弁当を冷凍して積み、食事の時間に解凍して食べメニューは基地の食堂と同じであることが多い。戦闘機などの機内が狭い機種では食事は想定されておらず、非常食を積むだけである。一方の艦船ではスペースに余裕があるため厨房で調理して提供するが。
アメリカ陸軍創設期ではキャンプ地や行軍中また戦闘中の食事などは、駐屯地食「ガリソンレーション」と呼ばれる配給される簡単なパンや肉、野菜などの食材を調理していた。
そして独立戦争当時の革命議会によって制定されたガリソンレーションの内容は、牛肉と豚肉もしくは塩漬け魚、パンもしくは小麦粉、えんどう豆もしくは大豆もしくは同等の野菜、牛乳、米もしくはトウモロコシ粉、そしてビールかリンゴ酒であった。また、ロウソクと石鹸も基本的な物として配給されていた。もっとも通常、食事の調理は兵隊自信の義務であったため、ロウソクや石鹸の方が味がいいやもしれぬが。
生肉を供給するために、季節が来ると牛や野豚が駐屯地に連れてこられて屠殺され、残りは保存処理がなされた。また、食糧の供給事情も変化するため、配給される食材も変化した。もっとも特に喜ばれていたものは「スピリット(ラム酒やウィスキー)」でがあったのだが。
独立戦争から第一次世界大戦にかけて、レーションはその配給対象として部隊単位や小数グループ、さらには個人に至るまでの幅広い範囲をカバーし、配給手段としても、食堂での給仕から戦闘中やサバイバル中の配食までもが考慮されていくようになっていったのである。
▼戦闘糧食
古くから軍隊では、軍事行動中戦地での食料兵站の量的な問題に頭を悩ませており、また、戦場の劣悪な環境により伝染病が発生しやすいこともあり、これらの食料の多くは
◎ 劣悪な環境にも堪え得る保存性
◎ 摂取カロリー量の確保
を至上目的とし、衛生的かつ大量に輸送するために、
◎ 輸送性、配分性に優れ
◎ 食事や調理、かたずけなど余計な手間の要らないもの
が求められてきた。
その一方で、平時よりもはるかにストレスの溜まりやすい戦場では、食事は栄養補給のみならず、重要な娯楽でもあり、兵士の士気にも関わるため、味の改良も求められている。
そもそも軍隊は24時間稼動しているが、彼らが勤務中に軍から提供される食事は、もちろん全てがパックに入ったコンバットレーションではない。むしろコンバットレーションの連食は栄養が極端に偏る為、軍でも避けるように指示されている。その為、何処の国の軍隊も戦闘中で無ければ極力生鮮食品を調理した温食を戦場の兵士に食べさせるように努力しているし、基地や駐屯地に居る時は、当然のことながら作りたての食事を提供して、兵士の士気を低下させないように気を配っているのだ。よって今日の「コンバットレーション」と呼ばれる食品は、さまざまな配慮がなされている。
調理不要の缶詰やレトルト食品、ビニール袋に真空密封包装されたクラッカーやパンなどが、一つのパッケージに収められたものが主流で、皿も食卓もない屋外でも食べやすいようスプーンなどの簡単な食器が付く。
兵員の興味を惹き、ストレスを和らげ、兵士の士気向上や気力の維持に効果のあるとされるチョコレートやガム、飴などの菓子類が付属することもある。
調理困難な状況で食品を温めるためにヒーターと呼ばれる固形燃料・コンロや生石灰と水の反応熱を利用したものが付属されており、温かい食事を摂れるように配慮されたものもある。
▼コンバットレーションの形態:
携行するレーションには大きく、
○ 個々の兵士に配分されるもの、
● 部隊(小隊や分隊単位)で配分されるもの
に分けることができる。また、その量も
◎ 1回分の食事セットとなっているもの
◉ 1日分がセットになっているもの
があり、さらにいくつかメニューのバリエーションがあり、食事に飽きさせない工夫がなされている。
○ 個人向けレーションには、現地の飲用に適さない水を濾過・沸騰させて飲む場合も多いことから、湯や湯冷ましに入れて飲用するティーバッグや粉末ジュース、インスタントコーヒー、ココアや粉末スープ類が付属し、食事に彩りを添えたり、食後の娯楽に供するための配慮がなされている。
● 部隊単位で配分されるものには食材として提供されるものが主で、調理して食べることができるため、現地で入手可能な食材を利用して工夫を凝らした料理に仕上げることも可能である。
また、食事という個人の好みによる部分が非常に大きく、一部にはタバコや酒類などの嗜好品が同梱されているものや、国家によっても食文化や食のタブー(ベジタリアンであることや宗教的な忌避など)に配慮して、特定の食材を含まないレーションも存在している。よって一概に「レーションとはこういうものである」と言い切ることはできない。
古くは「配給品」であることから、蝋燭や石鹸、歯磨剤などの消耗品を含むものも多かったが、現在ではこれらは食料とは別に配給されるため、今日のレーション中には含まれないことが多い。
▼各国のバリエーション:
レーションは「兵士を戦闘可能な状態に維持する」「大量に生産・消費され、補給路遮断を考慮して長期間保存されることがある」「戦地に置かれ、火も水もない状況での維持食たりうる」「末期の食事になるかもしれない」といった様々な条件のもとに作られている。高いストレスと死の恐怖に晒される交戦地域では「食事」も兵士や将官の士気に響くため、ある程度自国民の味覚や好みに配慮し、バリエーションを増やしたレーションが多い。
レーションの中身は「包装に至るまで各国の事情を表現している」と言われており、どこまでも味のみに特化したフランス、全てを諦めティータイムのみを重視したイギリス、戦争なぞどこ吹く風デザートにワインつきのイタリア、あくまでどこまでも肉料理にこだわるドイツ、異色の「米飯に合うおかず」という形態の日本、実用本位と言う名のマズ飯なアメリカ、寒地で凍るため加熱前提のロシア・中国など、国ごとに内容物が違う。中にはモンゴルのように大量の軽食様の食品を袋詰めしておき、兵士は常時それをつまんで過ごすというレーションもある。
また、係争中でない国同士の軍人は表面上は紳士的に接しており、特に複数の国の将兵が一堂に会した時は余った、いや喰い飽きた・・・・・・そう自己紹介を兼ねたレーションの大交換会が催されることもある。最も高く評価されるのはフランスのレーションだが、"異色"の日本も好評を得ており、自衛隊がカンボジアに派遣された際での交換会では参加国32ヶ国中で「戦闘糧食II型」が最も人気があったといわれている。
一般でもやはり皆「味」がもっとも気になるところであり、よく「一番美味なのはどこの国のレーションか」等と議論になる。各所のWEBサイトなどではフランスを筆頭に、イタリア・ドイツや日本が好意的に評価されているが、逆にほとんどの場で「一番マズイ」として槍玉に挙げられ、またレーションネタでオチをしめる役回りが多いのが、あの米国人にすら「不味い! でかい!! 喰いきれない!! 「味」ゆえに人は苦しまねばならぬ! 「味」ゆえに人は悲しまねばならぬ!!! ああ、こんなに苦しいのならば、悲しいのならば「味」などいらぬ!!!」と言わしめた米国のレーション MRE(Meal, Ready-to-Eat)であるそうな。




