現実:土の種類 - 黒土地帯
「どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうな奴隷を操っても、人は土から離れては生きられないのよ。」
★土の種類:
土の性質を決めるものは、腐植と粘土の量・粘土鉱物の種類である。
ネバネバした土をとって「肥沃だ」と判断する根拠には、粘土や腐植の水持ちのよさ(保水力)と養分を保持する能力がある。
土に近代科学のメス(スコップ)が入るようになったのは、「土壌学の父」ドクチャエフ(ロシア)が活躍した150年前のことだ。
彼の少し前を生きたチャールズ・ダーウィンが生物の進化論を打ち立てたことに触発され「土壌の材料となる岩石(地質)や地形・気候・生物・時間という5つの環境条件によって、土も変化する」ことを発見した。
また、穴掘り名人たちが世界中の土壌を調査し類似する土壌を大胆にまとめていくと、世界の土はたったの12種類になった。
農業利用のためではあるがずいぶん大胆に分けたものだが、もちろん細かく見ると同じ土は1つとしてないが、それでもある程度似た土はある。
たとえば、ウクライナのチェルノーゼム・北米のプレーリー土・南米のパンパ土・中国東北部の黒土は、違う言語や地域名を背負っているが土そのものはとても似ている乾燥した草原に発達する肥沃な黒い土で、小麦のタネを撒けば穀倉地帯となり、肥料のやり方も水やり(灌漑)の方法も似ている。
なお、土壌をひとくくりにして名前を付けて管理するのが土の分類である。
12の土を色で大まかに分けると、黒い土が3つ・赤い土が1つ・黄色い土が1つ・白い土が2つ・茶色い土が1つで、残りの4種類の土は土の色と関係なく、凍った土・水浸しの土・乾いた土・そして何の特徴もない“のっぺらぼう”な土だ。
▼黒土地帯:
乾燥気候のステップ地域に生じ、発達した肥沃な黒色土が広く分布し、世界的な小麦等の穀物の栽培産地になっている地帯の事。
黒土帯はユーラシア大陸のヨーロッパでは、ハンガリーやルーマニアの一部・ウクライナ・シベリア西部のステップないし中央シベリア・中国東北部に広く分布し、北アメリカ大陸では西経95゜以西のアーカンソー川以北の平原のプレーリーに分布しているなど、ほとんど世界の各大陸に分布し、農業に適している非常に肥沃な黒色の土壌(成帯土壌)として重要な穀物生産地域となっている。
- 世界三大肥沃土 -
『チェルノーゼム』ウクライナ南部からロシアを経てカザフスタンの北部」に広がる。
『プレーリー土』北米中央平原に広がる肥沃な土壌。
『パンパ土』南米アルゼンチンとウルグアイのラプラタ川流域に広がる。
●チェルノーゼム:
土の皇帝――そう呼ばれてきた土がある、「チェルノーゼム(黒い土)」の事だ。
短草草原ステップにある土壌の養分が豊富でバランスがよく作物の栽培に非常に適した性質の土で、アメリカの長草草原プレーリー・アルゼンチンのパンパなどにも分布するタイプの土であり、世界で最も肥沃な土として地理の授業などでもおなじみの存在だ。
なお、ロシア語で〈黒い土〉を意味する言葉に由来し黒土と訳されることもあるが、単なる黒色の土壌ではなく日本で一般に黒土と呼ばれるものとはまったく異なる。
本来の発音は「チルナズョーム」に近く最後の音節に強勢があるが、日本語では慣用的に「チェルノゼム」しばしば「チェルノーゼム」と表記される。
温帯の大陸性半乾燥気候下の多年生イネ科高茎草本を主とする自然草原に発達する土壌チェルノーゼムは、きわめて養分に富んだ肥沃な土壌で大干ばつの年を除けば生産力も高く、いわゆる黒土地帯と呼ばれる穀倉地帯を形成している。
これは団粒構造の発達した黒色の厚い腐植層・炭酸塩集積層・母材(ふつうレスなどの石灰質堆積物)の順に重なり、炭酸塩集積層中には特徴的な形の炭酸カルシウム沈殿がみられるからである。
また、草原は草に覆われ木がまったくない、またはほとんど存在しない大地であるが、土地が肥沃なのはこれらの植生によるほぼ1,000年間の有機物の堆積があるから、とされる。
なお、ステップの特徴は黒色あるいは褐色の土壌と乾燥気候であり、中でも夏期に降水量が最大となることである。
この半乾燥気候下の草原であるステップ地帯にみられる黒色の土壌・黒土地帯であるチェルノーゼムの分布する地域で小麦の生産地帯が多いのは、つまりは石灰分に富むチェルノーゼム土がきわめて肥沃なため世界の穀倉地帯をなすからだ。
◎地域:
ウクライナに典型的に分布し、ヨーロッパ・ロシア南部やドナウ川下流地方を中心に発達する黒色の土壌で、特にウクライナから西シベリアの南部にかけてのポントス・カスピ海草原に分布する半乾燥気候下の草原ステップ地帯に発達する黒色の土壌チェルノーゼムの分布する地域は、ヨーロッパ・ロシア南部やドナウ川下流地方が中心の地域などを言い、ヨーロッパの穀倉とよばれているが、ウクライナに典型的に分布するこのチェルノーゼム土が石灰分に富みきわめて肥沃なため、黒土地帯にはオオムギ・トウモロコシなどの作物が栽培され、特に小麦の栽培地として有名で世界有数の穀倉地帯をなし、他の地域の黒土も地質学者によりそう呼ばれるようになった。
中でも、
・東経30度と北緯60度が交わる北西部のサンクトペテルブルク
・東経30度と黒海が交わる二点南西部のオデッサ
・バイカル湖付近のイルクーツク
の3つの都市を結んだ地帯を農業の三角地帯と呼ぶが、ここは不幸にしてチェルノブイリの放射能に冒されてしまった地域でもあります。
また、ステップでは春先の融雪水と初夏の降雨によって草本類が急速に生長する為大量の有機物が土壌に供給されるが、しかし夏季の乾燥と冬季の凍結によって微生物の活動が中断されるので有機物の無機化が妨げられる結果、土壌中に多量の腐植が集積しこの草本などの遺骸からつくられる腐食層が降水量の低い地域(ステップ気候)のために流出を免れぶ厚く蓄積している。
特に、ドニエプルをはさんでウクライナの中央に広がる地方は、最高16%までの腐植土を含み180cm程度の層をなしている地帯で、夏季に生育した草原が冬には枯死して腐植となり、夏の乾燥と冬の低温のためこの大量の植物遺体はゆっくり分解され、したがって腐植に富み草本の根の密な発達で保水性や通気性もよく豊かで、そのためステップの土壌はチェルノーゼム(黒土)と呼ばれる厚い黒色土を形成し肥沃であると言われる。
これはロシア南部では下層に石灰分を含む層があり、これら降水・気温・土地条件が重なり穀物栽培の下限に近い降水量ではあるが土地は肥沃で施肥なく農業が行われるからだが、それに比べて北部のツンドラ気候ETの地域では夏になっても月の平均気温が10℃未満~0℃以上であり、夏のあいだだけ地表付近の永久凍土がとけて少しの草やコケ類が広がる地域なので作物を育てることができません。
なので寒さに強いトナカイの遊牧が行われています。
また仮に今は黒土地帯でも、降水がより少なく乾燥すると植物の生育ができず腐食層・窒素分の少ない栗色土となり、逆に降水が多ければ樹木が生育するが洪水による流出のため表層の薄い腐食層と下層の酸化鉄を含む層の褐色森林土となり、今以上に冷涼ならば植物体の分解が進まず酸性化し灰白色のポドソル層や更に排水が悪ければ泥炭層になり、いずれにしても生産性が低い土壌となってしまう。
なお、旧ソ連の国土は緯度線上に沿って東西に伸びる幅広い4つの地帯に大別する事が出来る。
これを北から南に向かって列記すれば、
1)ツンドラ(凍土帯)
2)タイガ(針葉樹林帯)
3)ステップ(大草原帯)
4)砂漠帯
となる。
ツンドラ(凍土帯)を越え、タイガ(北方性針葉樹林)の南にあるのが芝を中心にした耐寒・耐乾燥性多年生植物の共生が作り出す植生の形態であるステップ(大草原) であり、これは旧ソビエト国内でももっとも肥沃で農業に適する黒土帯と一致する。
またタイガとステップの中間帯は森林ステップと呼ばれ、このステップ地帯は旧ソ連国土の約9%で、ほぼ200万平方キロにも及んで、ロシア平原からウクライナにかけて広く分布するこの土壌は厚い黒色のA層が1m近くもあるきわめて養分に富んだ肥沃な土壌なのである。
●プレーリー土:
カナダからアメリカ合衆国のロッキー山脈東麓の草原地帯にはプレーリー土とよばれる黒色土が発達し、小麦・トウモロコシの大生産地となっている。
またプレーリー土はブルニゼムとも言い、米国中西部の草原プレーリー下に分布する土壌を典型とするチェルノーゼムと並んで肥沃な土壌型であり、米国では背の高い草の草原が特徴である。
暗褐色で構造の発達した腐植層・褐色のB層・淡色のC層(多くはレス起源)の順に配列、炭酸カルシウムなどの可溶性塩類は雨量が多いため洗脱され集積層は認められない。
米国中西部の温帯ないし冷温帯湿潤気候下の背の高い草原および疎林の植生下に発達する成帯性大土壌群・褐色土壌に混ざった中間的な土壌の型で、天然の落葉樹林の外側の乾燥地域に産出する。
なお、乾燥が進むとプレーリー土はチェルノーゼムと一緒になるが、プレーリー土はチェルノゼム地帯よりやや降水量が多く、湿潤な地域で見られるチェルノーゼムとする考えがある。
土壌断面は、
A帯では有機物質に富む暗い色の層準
B帯は褐色の漸移的な層準
C帯は基盤岩または母材
の3部に区分されるが、チェルノゼムと異なって炭酸塩の濃集はない。
●パンパ土:
南米アルゼンチンとウルグアイのラプラタ川流域、湿潤パンパと乾燥パンパの間に広がるパンパ草原にも農業に向く黒色土が発達して、小麦の栽培・牧牛の飼育が広く行われている。
なお、湿潤パンパと乾燥パンパの境界は年間降水量550mmで内側の湿潤パンパでは小麦・とうもろこし・アルファルファの栽培が多く、乾燥パンパはこの西側に広がり牧羊が多い。
●黒土:黒色土は中国語で黒色草原土・黒土と呼ぶ。
中国の東北部は気候は寒冷だが土壌は肥沃であり、同国最大の食糧生産地となっていて、黒色土は黒竜江省の農地の約半分を占めるが、乾燥地域の石灰質土壌に属するチェルノーゼムとは異なる。
『東北平原』は、中華人民共和国黒竜江省西南部から吉林省西北部にかけての、大興安嶺山脈と小興安嶺山脈および白頭山の間に位置する中華人民共和国最大の平原である。
土壌の黒土がウクライナのチェルノーゼム土・アメリカ合衆国ミシシッピ川流域にあるプレーリーのプレーリー土と並んで世界三大黒土帯の一つだと称しているこの平原は、中国に於ける主要食糧生産地となっていて、大豆・唐土・馬鈴薯・小麦・玉蜀黍・亜麻・甜菜・向日葵等が栽培され、穀物生産の約二割を担う貴重な黒土地帯であり、東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)は中国の食糧庫と呼ばれるが、また大慶油田もあり石油の産出でもある。
なお、東北平原は細かく分類すると東北部の三江平原・北部の松嫩平原・南部の遼河平原に三分され、中央部は肥沃な黒土からなり中国の大切な穀倉をなすが、北部とくに三江平原には未開発の湿地が多くこれを「北大荒」と呼ぶ。
◎東北部の『三江平原』は、ロシアと国境を接する位置にあり、黒竜江(アムール川)・ロシア中国の国境を流れハバロフスクの近くアムール川との合流点に中露の領土争いの対象となってきた中州 黒瞎子島(大ウスリー島)があるウスリー川・白頭山の山頂火口のカルデラ湖から発する松花江の三つの河川が運搬してきた物が堆積して出来た平原なので、三江平原と言う名前になっている。
平原の大部分は沼地であり、作物としては春小麦の産出が多いが、これは満州国時代より国策として送り込まれた日本人入植者(満蒙開拓移民)約27万人の開拓団などにより開墾が進み(なお敗戦時、彼ら満州での民間人犠牲者の数は東京大空襲や広島への原爆投下・沖縄戦を凌ぐ。敗戦時に旧満州にいた日本人は約155万人といわれるが、その死者20万人の4割を開拓団員が占め、その大半が老人・女性・子供で、中国人に買われた孤児や婦人が約1万人いたため、中国残留日本人問題となった。)、第二次大戦後は中国政府によって集団農場や軍隊による農地開発が行われ、さらに文化大革命時には多数の都市青年たちや反革命分子とされた人々がこの最果ての地に下放され開拓に従事させられたためで、こうして無数の血と汗と涙・数多の屍の上に、現在は「北大倉」と呼ばれる中国随一の穀倉地帯までになっている。
◎北部の『松嫩平原(松花江・嫩江平原)』の海抜は150-200メートルほどで、松花江と満州事変の激戦地である嫩江の堆積物からなる平原である。
面積は約18万平方キロメートルで東北平原の半分以上を占めているが、その中で耕地面積が5.6平方キロメートルである松嫩平原は黒土地帯で、中国の重要な穀倉地帯・牧草地帯である。
◎また、中国東北部・満州南部を流れる大河 遼河によって造られた『遼河平原』(遼河流域で起こった中国の古代文明の一つ遼河文明がある)と、この平原を合わせて『松遼平原』と呼ぶ事もあり、東北平原の大部分を占めている。
●レグール土:
インド中央部のデカン高原には玄武岩が風化してできた土であり間帯土壌のひとつレグール土という黒色土が発達し、肥沃なことから小麦や綿花の栽培に適し広く行われて、その特徴から黒色綿花土(黒綿土)とも呼ばれることもある熱帯黒色土壌として、サバンナ気候下に分布する類似の土壌の代表的存在である。
雨期の風化作用で粘土の生成もおこるが、乾期には表土が収縮して割れ目を生じたり、また下層に炭酸カルシウムの集積をおこしているが、これはラトソル化作用が一般に進みやすい熱帯にあって、若干の腐植と炭酸塩を含むためである。
インド亜大陸は、過去にアフリカプレートとインドプレートの分離を生じた海洋底拡大に伴い大規模移動した為、本来引き伸ばされたその地殻は他の大陸と比較すると極めて薄かったのだが、途中インド洋レユニオン島のあたりでマントルプルームがホットスポットとして活動し合計3万年に亘る玄武岩噴出を引き起こしたと推定され、その為デカン高原は2,000メートル以上の厚さを有する洪水玄武岩の何枚もの層を構成基盤とする海抜1000メートル前後の高地となり、その玄武岩の風化物を母材とする土壌はサバンナ気候帯にほぼ一致した分布を示しているが、表土の腐植含有率は意外に低く(5%以下)、その黒さは母材中のチタン鉄鉱の残留粒子に由来している。
したがってレグールの場合、サバンナの気候と草原植生に調和した成帯性土壌とみるよりも、含鉄母岩の鉱物成分に特徴づけられた間帯性土壌の一種といえる。




