現実:氷菓 中近東『ファールーデ(半冷凍麺)』・南・東南アジア『ファールーダ(飲料デザート)』:
★氷菓:冷やして供される菓子の総称。清涼感を得るために冷却してから食する菓子。
紀元前4世紀に、現在中東と呼ばれる地域を含む広大な王国を支配したアレクサンドロス大王は、
雪や氷にハチミツや果汁をかけたものを楽しんでいたという。
中世には、アラブ人やペルシャ人、トルコ人が雪や氷を入れた果汁などの冷たい飲み物
(シャルバート、アラビア語で飲み物の意味)を満喫。
これがイタリアに伝わり雪・氷にレモンなどのフレーバーを加えた冷菓に変化したのだろうという。
シャーベットの誕生だ。
▼ファールーデ:(原音はパールーデ)冷凍品 半冷凍麺
ファールーデはイランの伝統的なデザートであり、
元は地中海沿岸の古代トルコ、ペルシャなどが原産のパールーデと呼ばれていた氷菓である。
パールーデは冷たい菓子の初期の形態の一つといえるものであり、
紀元前400年には既に存在していた。
パールーデという名称は原義では滑らかであることを意味する。
そもそも、イランには紀元前よりヤフチャール(ヤフが氷、チャールが窪みの意味)
と呼ばれる氷室があり、冬に出来た氷を夏まで保存する貯蔵庫として使っていた。
「深い溝の脇に高い壁を作って、日が当たらないようにして氷を作るんだ。
それを深く掘り下げた氷室に貯蔵するんだよ」
と乾燥地の現地人は説明する。
古代から冷菓が発達するわけである。
ヤフチャールで作られた氷は、ペルシャの伝統的冷凍デザートとして使われたのだ。
:作成方法
ファールーデに用いる麺を作る際には薄い米の生地を篩を使って押出し、
極細の繊維状の麺を作り出す。
この繊維状の麺はすりおろしたココナッツと形状が似ている。
アーモンドとピスタチオを加えた冷たい乳をこの繊維状の麺にかけた後、
冷やすことでファールーデが完成する。
これがイラン特有のアイスで、
シャーベットっぽいアイスの中にでんぷんで作られた細かい麺が入っているのが特徴です。
現代のファールーデはコーンスターチ(デンプンの意)から作る薄いヴェルミチェッリ
(スパゲッティよりやや太めの2.08mm~2.14mm)という麺に
半冷凍状態の薔薇の香り漂うローズシロップをかけて作るイランの冷たい菓子である。
シロップで作った氷は解けやすく、
かき氷というより、白くて細い冷たい麺が冷え冷えの甘いシロップに浸っている不思議な食感。
このでん粉から作った細い麺を冷やし、凍らせたシロップと混ぜたイランならではの“かき氷”
現代のイランでは、ファールーデはアイスクリームショップ(バスターニー - bastani)
で販売されている他、ファールーデに特化した店舗も存在する。
ライムジュースとともに提供される事が多いが、
「ナッツの女王」とも呼ばれるピスタチオとともに提供されることもある。
なお東アジアには、
米で作った米粉ビーフン、
小麦で作った麺線メンセンや素麺そうめん、
緑豆で作った粉糸(春雨)、
などといった麺があるが、これもヴェルミチェッリと訳される。
ヴェルミチェッリのデンプン麺、ローズウォーターと砂糖 (ローズシロップ)、
そしてフレーバーシロップかライムジュースで作られ、ピスタチオを付け合わせすることもある。
ライムやレモンの果汁をかけて食べるのがポピュラーだが、
サワーチェリーのジャムで作ったシロップを凍らせて麺に混ぜたものもある。
また、フレッシュフルーツを使ったものもよく見かける。
例えばリンゴやオレンジ、メロン、そしてキュウリなど。
(イランではキュウリは95%以上が水分な味も淡泊なフルーツ)
キュウリは皮はむかずにナイフとフォークと一緒にそのまま出し、
バナナみたいに皮をむいて、塩をちょっとかけて食べる。
この他にもサワーチェリーやタピオカ・杏仁豆腐に似た具材と
凍ったシロップを合わせるファールーデがある。
イランで紀元前5世紀に出来たといわれる冷菓「ファールーデ」だが、
イランのシーラーズ発祥の料理であり、いくつか種類があるそうで、
イラン国内で特にポピュラーなのは、
「ファールーデ・シーラーズ」と呼ばれるものが特に有名である。
シーラーズとはイラン南西部の街の名前だ。
なおファールーデという菓子は、
隣国のパキスタンにおいても古くから作られている。
▼ファールーダ:(ファルーダ)冷蔵品 デザートドリンク
インドやパキスタン、バングラデシュなど南アジアで非常に人気のある、
冷たく甘い「飲むパフェ」的なデザート飲料である。
ファールーダの元となった料理、ファールーデはイランの冷たい菓子であるため、
一部のファルーダは未だデンプン麺の入った飲み物でもある。
伝統的な作り方では、ローズシロップ、セヴィヤン、オオバコ (ispaghol)、
バジルシード、ゼリー片、タピオカを混ぜ、乳や水、アイスクリームを注いで作る。
現代ではファールーダは、
パキスタン、インド、バングラデシュ、スリランカ、ミャンマー、中東で
夏季に人気のある飲料となっており、
レストランや浜辺の屋台では常時注文可能である。
推察するに、おそらくペルシャと違って冷凍までできない地方では
それを再現しようにも冷たく甘い飲料までにしかできなかったのでしょう。
「今はこれが精一杯」「冷たく甘いもう一杯」
それがやがて伝統となって今に至るのでは。
●歴史:
ファールーダの元は、イラン発祥の料理であり、
18世紀前半、ナーディル・シャーの治世にインドへと入ってきたと考えられている。
氷は冬の期間に集める、もしくは山の頂上から運ばれ、
ドーム型の構造物の地下部分に当たる大きな部屋(氷室)に保管される。
これにより、砂漠地帯の中においてさえも夏季を通して氷が利用可能となる。
この利用方法はファールーダのような氷菓を作るために開発された。
後に、技術が進歩すると、ローズシロップや砂糖をセヴィヤンとともに加えるようになった。
*セヴィヤン(Seviyan)、またはセーミヤンと呼ばれる。
春雨のような細い麺(デュラムセモリナ小麦粉から作る細麺。ヴェルミチェッリとほぼ同意。)であり、
それを牛乳、バター、砂糖で煮詰めて食べるキール(ミルク粥)
という甘いデザートに米の代わりに使われることもある。
なお、ファールーダを作る際に使用される、このセヴィヤンという麺だが、
通常インドでも、麺はコムギから作るにもかかわらず、
ファールーダに使用するセヴィヤンは特別にクズウコンから採れるデンプンからわざわざ作っている。
逆に言えばコムギから作る麺ではだめなのである。
現代では、ファールーダには様々な種類がある。
インドで作られているファールーダはクルフィー、半透明の白い麺、
味付けされたシロップを使用して作るものであるが、
麺状でないものもあれば、果物を混ぜ込んだものもある。
また、ファールーダの中にはミルクセーキとして提供されるものもある。
●種類:
・ファールーダの中でも有名な「アンドレア」は
様々なローズシロップを滑らかなミルクと未成熟のタピオカを使用して作る。
・ラブリー・ファールーダは
カルダモン風味の甘くて濃い牛乳に、麺とナッツを入れて冷やしたもの。
・インドのファールーダはパキスタンのファールーダとは一般的に異なる。
・パキスタンや北インドにおいては、
ファールーダはアイスクリームのサンデーフロートとして提供されることが多い。
また、材料としてはトゥルシーシード、茹でたセヴィヤン、ローズシロップ、乳が使用される。
主に夕食後に提供される。
・パキスタンのファールーダ
ファールーダはパキスタンで人気のある飲料であり、特に夏季には非常に人気がある。
ラホールから自動車で約40分の地点にあるカスールの街は極めて独特なファールーダで有名であり、
伝統的に明るい茶色のクリームを主原料として、
砂糖のシロップとセヴィヤンを加えて混ぜることで作られる。
・バングラデシュ南部の海岸で一般的に見られるファールーダは
ケタキ(タコノキエキス)、ピスタチオ、タピオカ、ココナッツミルク、マンゴーを材料とし、
乳、セヴィヤンを加えて作るが、他地域と異なり濃い黒茶を加える事もある。
・ファールーダはタイ料理の飲料nam manglakに非常に似ている。
nam manglakは細かく刻んだゼリー、タピオカ、ジュズダマに
砂糖、水、ローズシロップを加えて混ぜた料理である。
イラクのクルド人もまた独自のファールーダを作り、セヴィヤンを多く加える。
この飲料は台湾の飲料、タピオカティーに似ている。
・モーリシャスには「アールーダ」(alouda)と呼ばれる飲料があり、
これはファールーダという音が転訛したと考えられる。
アールーダは材料や味の面でファールーダとほぼ同一である。
・南アフリカにはファールーダと呼ばれる飲料があり、
食事中もしくは食後に飲むためのミルクセーキとして提供されることが多い。
◯比喩:
ファールーダはセヴィヤンという麺を細かく刻んで作ることから、
ヒンドゥスターニー語の慣用表現では、時に暗喩表現として使用されることがある。
悪評の立った者に対する定型句として、
「名誉はファールーダへと変わった」
(名声がズタズタにされる、名声が地に落ちたの意)という文句がある。