「まささん、子犬を散歩させる」の巻
(旅行の前の空き時間に、子犬の散歩に付き合わされるまささんなのでありました)
リードを付けた愛犬を好き勝手に遊ばせながら、ねねさんは愛情こもった声かけをします。
「テバ~、(ごにょごにょごにょごにょ←韓国語)」
「(心の声:何言ってるのかわかんねーよ。でもまあ、可愛がってるのは間違いないみたいだ)」
「(ごにょごにょごにょごにょ←韓国語)」
「……」
「(ごにょごにょごにょごにょ←韓国語)」
「……」
「(ごにょごにょごにょごにょ←韓国語)」
「……」
「(ごにょごにょごにょごにょ←韓国語)」
「あの~」
「なんですか、まさちゃん?」
「その犬、普段から韓国語で躾けてるんですか?」
「韓国人のわたしの犬だから、韓国語で躾けるのはとーぜんよ! まさちゃんだて、自分で犬飼たら、日本語で躾けるでしょ? それと同じ事です」
「なるほど。正論です」
「でも、この犬、ちゃんと日本語もわかるね。賢いよ」
「ほうほう」
「だからまさちゃん、ちょとだけ、この犬と遊んでやてくれる?」
「えッ!? ボクがですか?」
「大丈夫。テバはひとのこと咬まないよ」
「まあ、ねねさんがそう言うのなら……」
「じゃ、決まりね! 早速コレ持て!」
有無を言わせずリードの端を手渡されるまささん。にやにや笑うねねさんの様子をうかがいながら、テバはまささんの足下でクンクン鼻をひくつかせます。
「(心の声:おお、匂いを嗅ぎに来てるな)テバ。初めて会うな。これからもよろしくな。おッ、おまえ、男の子か」
頭をなでてやろうと手を伸ばすまささん。
ところがテバは、それを避けるようにして猛ダッシュをかまします。
「わわわッ」
そんなテバに、思わずまささんが引きずられるます。
リードが伸びきり、急制動のかかるテバ。
なお走りたそうなテバを気にして、今度はまささんが必死のダッシュ。
緩むリードに合わせて、ふたたびテバが駆け出します。
擬似的な追いかけっこが続くこと数分間。ついにまささんの体力が尽き果ててしまいます。
「ゼイゼイ(心の声:畜生。こいつ、完全に遊んでやがんな)」
まささんの予想は、おそらく当たっていたのでしょう。テバは、動きの止まったまささんの足下で「遊んでよ~遊んでよ~」とばかりに、くるくる回って飛び跳ねます。
まささんは、足に巻き付くリードをかわすので精一杯。
とうとう飼い主であるねねさんがリードを取り戻すことになりました。
「まさちゃんは、完全にテバに遊ばれてたね!」
「仰るとおりで」
荒い息で舌を伸ばすテバに向け、「おまえ、いま俺をヒエラルキーの下に置いたな。ねねさん→自分→俺の順に」と心の中で文句を告げる、まささんなのでありました。




