表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
へべれけ!  作者: へべれけ
第1話
5/72

01-b2

「あ、気がついたんだ。ちょっと待っててね」

そう言うと、その巨大な少女はそっと扉を閉めた


"なんなんだよあれは!"

予想していた事とはいえ、実際にそれを目の当たりにした俺は、動揺して再び部屋の扉が開くまで何もできずにいた


部屋の中に入ると少女は後ろ手に扉を閉める

その時になって、漸く退路を断たれ事を自覚した俺は、ベッドの下に潜り込んだ


「大丈夫だよ、何もしないから・・・」

そう言うと、少女は持ってきた深めの皿を床に置き、紙パックから牛乳を注ぐ


牛乳の匂いが鼻孔をくすぐると、急激な飢餓感が襲ってきた

そういえば、最後に食事をしたのはいつだろう?


警戒しながら近づくと、少女はゆっくりと皿から離れた


恐る恐る皿に近づき、軽く牛乳を舐める

一口含むと、もう止まらなかった

無心に牛乳を飲み続ける


そんな俺に少女は話しかけてくる

「私は茜、茜だよ。君の名前は?どうしてあそこにいたの?」


「うーん、首輪がないってことは、野良なのかなぁ・・・」


そう言いながら、俺を撫でようとしたのか

巨大な手が迫ってきたので一瞬身構える


「あ、ごめんね。何もしないから、大丈夫だよ」

そう言って少女は手を引っ込めた


しばらく様子を見た後、再び牛乳を飲み始める

その後しばらく、俺は牛乳を飲み続けた


こんなに牛乳を飲んだのは、生まれて初めてじゃないだろうか?

そして腹がふくれると、急に睡魔が襲ってきた


"いやいや、これじゃ本当にただの動物だよ"

そう、自分で自分にツッコミを入れながらも、俺はベットの上の箱の中で丸くなる


さっきまでの過剰とも言える様な警戒感は、腹が膨れたせいかいつの間にかなくなっていた

いや、もしかすると警戒感が薄れたのは、この部屋の中に漂う少し甘ったるい様な匂いのせいかもしれない


穏やかなまどろみの中で何か暖かなものが体を撫でている

ゆっくりと沈みゆく意識の中で、この少し甘ったるい匂いはこの少女のものなのだと感じた



━━━━━━━━



あれから数日がたった

俺は今も茜の部屋にいる


結論から言えば、ここは巨人の国などではなかった

それどころか、ここは俺が生まれ育った世界の日本だった


実際、茜のしゃべっている言葉は日本語だし、教科書も日本語で書かれていた


茜が学校に行っている間に、あかねの教科書を見たりして状況を確認した結果だから、ほぼ間違い無いだろう


ちなみに、茜には俺のしゃべっている言葉が分からないらしい

動物が鳴いている様にしか聞こえないみたいだ


周りが大きくなったのではない、俺が小さくなっていたのだ

あの時、水たまりに映った俺はフェレットのような姿をしていたが、大きさもそのぐらいになっていたのだ


俺を追いかけたあの化け物は、多分ただの野良犬だったのだろう


羽虫は、俺の体はまだ生きていて、集中治療室にあると言っていた

最初、俺は自分の体を探し出そうと、住所を思い出そうとしたが、激しい頭痛に阻まれてできなかった



「どないせいせーちゅうんじゃい・・・」

いや、本当にどうしたもんだろう?

こんな小動物に一体何ができるというのか?


なんかもう、すべてを投げ出したくなった俺に茜は優しかった


お小遣いをやりくりして、猫用のトイレを買ってきたり

親に内緒で、こっそり食事を持ってきたり・・・


あぁ、そういえば、茜は俺のことを親には内緒にしているみたいだ

まぁ、ママさんは、娘が何か隠していることに気づいているみたいで、茜が学校に行っている間にこっそり部屋に入ってきたりする


そんな時、俺は見つからないように隠れている

見つかったら碌な事にはならないだろう


ちなみに、茜のママさんは美人だ


小学生の子供がいるとは思えないくらいナイスなプロポーションの持主で、かすかに香る化粧の匂いも色気を引き立てている


こんなママさんの子供なのだから、茜も将来が楽しみだ






そしてさらに数日が経ち、もうこのまま茜に飼育されたままでもいいかなと思っていた頃に、それは起こった


眠っていると冷たい風が体を撫でた

顔を上げると、茜が窓から外に出ていくのが見えた


時計を見ると午後10時を回っていた

こんな時間に小学生の女の子が窓から抜け出して外に行くなんて普通じゃない

俺はすぐに茜の後を追った


茜の匂いを追って夜の街を駆け抜ける

角を曲がろうとした時、何かに触れた感じがして、その瞬間全身のけが逆立つ


"なんだこれは?"

言いようの無い不安に駆られて駆け出す


いくつかの角を曲がり、大きな道路を横切る


その時、不安の正体に気づく、まだ午後の10時を回ったばかりだというのに車が全く通っていないのだ

いや車だけではない、人の気配そのものがしない・・・


そうだ、この感覚を俺は前に一度経験したことがある!

俺は目の前の公園へと足を早めた




そして、"それ"はそこにいた

公園の中心近にある広場

その中央部近くに街灯に照らされて、"それ"は不気味に蠢いていた


闇の中から抜け出たようなその体は、陽炎のように揺らめき、蠢く数本の触手の様なモノが伸びていた


そして、その体の真ん中あたりには、まるで人の顔のようなものが浮き出ている

そんな、明らかにこの世のものではない化物の前に、茜はいた





"まずいまずいまずいまずいまずいまずい!"





考えるよりも先に体が動いた

化物に向かって一直線に走る


今の俺に何ができるかわからない

何もできないかもしれない

それでも茜を見捨てることはできなかった


"せめて、茜が逃げる時間だけでも稼げれば"

そう考えて怪物に駆け寄ろうとした瞬間…


辺りはまばゆい光に包まれた!


光が収まり漸くあたりを見回すと、そこには信じられないものがあった

頭が真っ白になり、思考が止まる


ただ一言、一言だけ思わず言葉が溢れた





「・・・魔法少女・・・だと?」


























へべれけ 第1話 「運命の環の中で…」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ