01-a2
風が頬を撫でる
気がつくと俺は森の中にいた
「こ、ここは?」
よろよろと起き上がり、辺りを見回す
数十メートルはあろうかという大木がたち並び
背丈ほどもある草がそこら中に生い茂っている
「おいおいおいおい・・・どうなってるんだよ、これ・・・」
しばらく呆然としてその場に立ち尽くす
まだ意識が朦朧とする中、妙に鋭くなった嗅覚がそれを捉えた
"水の匂いがする?"
取り敢えず水の確保はサバイバルでは最優先だ
おぼつかない足取りで歩きだす
草を掻き分けて匂いのする方向に進むと
大きな水たまりの様な水深の浅い池があった
"飲める…かな?"
よろよろと水辺に近寄り、水面を覗いた瞬間、そこには化け物のようなモノの影が映っていた
「ギャアアアアアアアァァァァァ!!!!!」
俺は慌ててその場から逃げ出した!
しばらく走ったあと、息が切れて一本の大木のそばで立ち止まり、息を荒らげながらも周囲を見回して警戒する
幸いあの化け物が追って来る様子はない
「なんだっていうんだ・・・本当になんだっていうんだよ・・・」
呼吸が整ってくると、安堵とともに涙が込み上げてくる
俺は頭を抱えてその場にうずくまった
頭に感じるぷにぷにとした感触が、少しだけ心を落ち着けてくれた
"こんな右も左もわからない場所で・・・
あぁ、俺はこれからいったいどうした───"
「・・・ん?ぷにぷに?」
恐る恐る自分の手を見る
そこには、ちょっと指の長い猫の手のようなものがあった
手のひらの部分には"ぷにっ"とした肉球が付いている
とりあえず、反対側の手の指で肉球を押してみると、ぷにぷにとした感触が心をなごませる
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに
「あぁ…癒されるぅ〜って、現実逃避しとる場合か!」
改めて自分の体を見回すと、全身がふわふわの毛に覆われていた
特にしっぽはふわっふわのもこもこで、こんな状況でなければ、1日中撫で回していたい程だ
とてつもなく嫌な予感がして、俺は水の匂いを探した
そしてソレを見つけると、俺は一目散にその場へと向かった
俺は今、池のそばにいる、ついさっき化物の様なモノの影を見た場所だ
意を決して一歩踏み出し、水面を覗き込むと・・・
ソレはやっぱりそこにいた
大きさを除けば、まるでフェレットのように見えるソレは
俺が手を上げると、手を上げ
俺が足を上げると、足を上げた
軽く尾を振ってみると、当然ソレも尾を振った
うん、判ってた
判ってたよ・・・
2、3回深呼吸をした後、思いっきり息を吸い込む
「なんじゃこりゃあああああぁ!!!!!」
俺の絶叫が森の中にこだました
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状況を整理してみよう
1.泥酔した俺は事故にあったらしい
2.その後、光る羽虫にこのフェレットみたいな体にされて
3.森の中で絶賛放置プレイ中…
「ヤベェ…状況以前に意味が判らねぇ」
とりあえず責任者を呼び出してみる事にする
「羽虫さ〜ん、お客様の中に羽虫さんはいらっしゃいませんか〜?」
「羽虫さ〜ん、怒らないから出ておいで〜」
へんじがない、せきにんしゃはふざいのようだ
判ってた、うん判ってた
"フンフン"
大体、呼んだらすぐに出てくるなんて、そんな都合よく行くわけないよな
"フンフン"
ダメだ…心が折れて考えがまとまらねぇ
"ハッハッハッハッ"
「ってか、さっきから何なんだよ!」
そういって振り向くとそこには、巨大な犬のような化物がいた
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「だあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
絶叫と共に森の中を駆け抜ける!
背後から迫る気配は確実に距離を詰めてきている
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!!!俺が一体何をしたっていうんだ!?」
草をかき分け茂みの中に飛び込む
「俺なんか食ったってうまかねーぞ!!!」
地面と茂みの間をくぐり抜けその先へ飛び出す
茂みの先にあったのは広い草原だった
だが何かおかしい、違和感がある
その違和感の正体にすぐに気づいた、人工物としか思えない構造物があったのだ
走りながら見渡すと、細く高い塔のような構造物が草原の周りに幾つか見えた
そして今、俺が走っている先には四角く巨大な、まるでビルのような構造物があった
"あの中に入れば、助かるかもしれない"
俺は、残っている力を振り絞り、全力でそのビルのような構造物へと向かった
そこに待っていたのは絶望だった
その四角い構造物には入り口がなかったのだ
必死であたりを見まわすと、四角い構造物と地面の間に隙間があった
俺は迷わずそこに飛び込む
中はうだるように熱く、騒音が響き渡っていたが、幸いなことに化け物は大きすぎて、隙間には入ってこれないようだった
だが、そいつは唸り声を上げ、俺をここから引きずり出そうと、手足や鼻先を隙間の中に突っ込んでくる
"もうダメだ"そう思ったとき
「こら〜!君は一体何をしているのかな!?」
あたりに場違いな声が響いた
するとその化け物は、慌てたようにどこかへと逃げ去っていった
だがそれは、俺を安心させるものではなかった
なぜならもっと大きな何かが近づいてきたからだ
「まったくもう!この下に何かいるの?」
かがみこむようにして、隙間を覗いてくるソレと目があった
その瞳はとても深く澄み切っていて、俺はその中に吸い込まれるように意識を手放した