05-a1
5月の連休の午後、開け放たれた窓からは乾いた爽やかな風が吹いて来る
「んーーー」
机に向かっていた茜が大きく伸びをする
「ハァ」
軽く1つ溜め息をつくと茜は窓の外を見つめた
空には雲ひとつなく、日向にいればすこし汗ばむくらいの日差しが降り注いでる
「・・・ねぇ、へべくん」
窓の外見つめたまま茜はつぶやいた
「んー?どうした、茜」
俺は寝床にしているカゴの中から身動ぎもせずに答える
「最近、妖魔が出無いなーと思って」
「妖魔が出ない?」
俺は半身を起こすと茜の方を見た
そう言えば以前、茜は妖魔は大体一週間ごとに出て来ると言っていた
そしてその言葉通り、俺が茜と出会って以降、茜はおよそ週に一回の割合で妖魔と戦っていた
しかし最近、俺の知る限り茜が妖魔と戦った事は無い
だが・・・
「それは問題が有る事なのか?俺には良い事の様に思えるんだが・・・」
「うん、確かにそれは良い事なんだけど。
でも、なんかピリピリはしてるんだよねぇ・・・」
「ピリピリ?」
「うん、妖魔が現れる時にね、なんか、こう、ピリピリってするんだよ。
でも、最近そのピリピリするのがすぐに消えちゃうっていうか、なくなるっていうか・・・」
「ピリピリねぇ・・・」
今までに妖魔が現れた時も、茜はその事に気づき、迷いなく妖魔のいる場所へと向かっていった
茜には妖魔を感じる何か特別な力があるのかもしれない
しかし、俺にそんな力は無い
「うーん、良く判らん!」
そう言うと俺は、茜のベットの上に仰向けに倒れ込む
「そっか」
そう言うと茜は再び机に向かった
暫くの間、俺は茜のベットの上でごろごろしていた
だが、あることを思い出して、起き上がるとポーチの中にいろいろと詰め込み始める
準備を終えて、俺が窓から出て行こうとした時、茜は俺を呼び止めた
「ちょっと待って、へべくん。はい、これ付けて」
机の引き出しから何かを取り出して俺の首に手を廻す
「これは?」
「蚤避け、ちゃんと首に付けといてね」
眩しいほどの笑顔で釘を刺す
「・・・はい」
俺は力無く頷いた
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ポーチを背負って塀の上を歩いていく
通い慣れた道なので迷うことはない
もちろん目的地はあの空き地だ
あの日以来俺は、猫の親子に毎日のように餌を届けている
母猫の足の怪我はすでに治っているが、最近は子猫たちも外を歩き回るようになって、母猫も苦労しているようで、たまに衣装ケースの中にないこともある
ちなみに、俺が以前からこのポーチに入れて、おやつがわりに食っていたビスケットは、ペット用のものであることが最近わかった
近所の動物達を、あのビスケットを使って餌付けしていた事を考えれば結果的にはそれでよかったのかもしれないし、茜からしてみれば小動物である俺に対して気を使っていたのだろう
しかし、自分が食べていたものがペット用だったという事実は、色々な意味で俺を複雑な気持ちにさせた
そんなことを考えて、軽くブルーな気持ちになりながら歩いていると、何時の間にか空き地に着いていた
俺は空き地の端の草むらに近づいていく
すると、草むらの中から小さな影が3つ飛び出してきた
その小さな影は俺に飛びかかると、俺を地面に引き倒し、そのまま俺にじゃれついて来た
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"かわいいは正義"
と言う言葉がある
それは紛れもない真実だ
子猫たちが生まれてから1ヶ月ほど経過していた
その大きさは、既に俺の四分の一程度の大きさになっているので一度に3匹にじゃれつかれると、実は結構命がけだったりする
実際、この子たちは俺で狩りの練習をしているのではないかと疑いすら覚える程、本気でじゃれ付いて来る
だが、そこが良い、そこが良いのだ
軽く尻尾を左右に振ると、それだけで子猫たちはその動きを追い飛びついてくる
いや、もうね、子猫の愛らしさに勝るものなどこの世に存在するだろうか?
いや、無いって感じですよ
そんな訳で俺は、毎日のようにここに通っている
そして、今日も又ここへとやってきたのだが
今日は、いつもと何かが違っていた
いつもは飛びついてきた後、すぐにじゃれついてくる子猫たちの様子も、どこか怯えているような感じがする
すると、母猫が近づいて来た
母猫は俺を威嚇するように唸ると子猫たちを衣装ケースの中へと運んでいった
とりあえず俺は、ポーチの中からビスケットを取り出すと衣装ケースの中に放り込んだ
その後、空き地の端に生えている木の上に登る
俺は注意深く周囲を見回してみたが、最初は何も感じなかった
しかし神経を研ぎすませ、ゆっくりと感覚を周囲に広げていくと、"ゾワリ"と神経を逆なでするような嫌な感覚を感じた
俺はその嫌な感覚がするほうへと走り出した
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俺は自分の感覚を頼りに走り続ける
以前、花見の時に来た遊歩道を抜け、嫌な感覚は土手の向こう河川敷の方から来ていた
土手を駆け上がりその向こう側へ抜けようとした瞬間、急に嫌な感覚が消える
俺がその場に立ち止まってあたりを見回すと、少し離れたところに人が倒れていた
俺はその人に駆け寄る
幸い気を失っているだけで、命に別条はない様だった
さらに周囲をよく観察してみると、まるで何かにえぐられたような跡がそこかしこに付いていた
それは、まるで茜が妖魔と戦った跡を連想させた




