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へべれけ!  作者: へべれけ
第1話
2/72

01-a1

気がつくと闇の中にいた


"あれ?ここは一体・・・何処?"

ぐるっと周囲を見まわして見る

しかし、そこには何もなかった


あるのは闇だけ

どこまでも続くかと思われる、深い闇があるだけだった


理解しがたい状況に急に不安が押し寄せてくる

俺は今までのことを思いに出そうとする


"確か・・・へべれけになるまで酒を飲んで、その後・・・"

まるで二日酔いの様にズキズキと頭が痛む

そのせいか、今ひとつ記憶がはっきりとしない


"空から、光る何かが落ちてきたような・・・"

必死になって記憶の糸をたぐり寄せていると、不意に声をかけられた


「やぁ、ようやくお目覚めかい?」

慌てて声がした方を振り返ると、そこには淡い光に包まれ背中に羽根のある人のようなものが宙に浮かんでいた


それはまるで、おとぎ話に出てくる妖精だった

半透明の衣装から伸びるスラッとした手足は、その美しくも幼い顔立ちと相まって、少年の様にも少女の様にも見えた



「…羽虫?」

「羽虫は酷いなぁ、せめて妖精位言ってよ」


「・・・妖精・・・なのか?」

「まさか!そんな訳ないだろう?」


「・・・」

「・・・」


「えーと…」

とりあえず落ち着こうか俺

今、一番必要なのは情報だ

そして今此処には俺とこの羽虫しかいない

だから、こいつから出来るだけ多くの情報を聞き出すんだ


その為には先ず、冷静になって・・・


「ここは何処だ!?お前は誰だ!?なんでここにいる!?俺は生きているのか!?死んでいるのか!?どうしてこうなった!?それから!それから!!それから!!!」


「少し落ち着いたらどうだい?」

「ふざけるな!こんな状況で落ち着いていられるわけないだろう!」

そう言って掴みかかろうとした時、俺は初めて気がついた

自分に手が無い事に───


いや、手だけではなかった

足も頭も体と呼べるモノが存在しなかったのだ


━━━━━━━━━━


その後、俺はパニックに陥った


叫び、わめきちらし、暴れまわった


まぁ、暴れられるような体はなかったんだけどね


そして今、漸く俺は落ち着きを取り戻した

いや、正確には諦めたというべきか?


「さてと、少しは落ち着いたかい?」

状況を察したのか羽虫が語りかけてきた


俺が戸惑っていると


「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はモーネ、君は?」

「俺?俺は・・・」


そこまで答えて、俺は自分の名前が思い出せないことに気づいた


「(確かあの時)俺は・・・へべれけになって・・・」

「へべれけ?随分と変わった名前だね」

「いや・・・」


そう言いかけて言葉を止めた

直ぐに名前が出てこなかったのも有るが

いろいろ在過ぎて、何かもう全てがどうでもよくなっていたのかもしれない


俺の沈黙を肯定と受けとったのか

モーネは話し始めた


「それにしても驚いたよ、まさか結界の中に入ってくる人間がいるなんてね」

「結界?」


「そう結界さ、本来は位相がずれているから、君たちは入ってこれないはずなんだけどね。もしかしたら君は…」

「そんなことより、ここはどこだ?あの後、俺はどうなった?」


「そうだねぇ・・・まず初めに、へべれけ、君はまだ生きているよ」

「生きている?」


「正確には、君の肉体はまだ生きている…かな?

今、此処にいる君は、いわば魂だけの存在で肉体は"集中治療室"と呼ばれている処にある」

「魂?集中治療室?それってつまり・・・」


「だから、君は生きているって言っただろう?

君が結界の中に入って来た事で、不幸な事故があってね、君の体が損傷してしまったんだ。

だから緊急措置として、君の身体から魂を取り出して保管したんだよ」

「不幸な事故だと?」


「八つ当たりはやめてくれよ?

そもそもの原因は、君が結界の中に勝手に入ってきた事なんだからね。

こちらとしては、最善を尽くしたんだよ?」



何を言っているんだコイツは?

最善を尽くした?

あまりにもな言い方に、一瞬怒りが爆発しそうになるのを必死に抑える

そんなことよりも今は、確認しなければならないことがあったからだ


「俺は…生き返れるのか?」

「生き返ること自体は不可能ではないよ。でも、そのためには必要なものがあるんだ」

「必要なもの?」


「そう、希望だ」

「希望・・・?」


「可能性と言い換えてもいいかな?」

「可能性・・・?それは一体・・・」


「さぁ?」

「・・・は?」


「望むのは君自身なんだよ、へべれけ

希望も可能性も君自身が望むモノだ

だったら、その希望や可能性が"本当"かどうかが判るのは君以外にいないだろう?」

「それって一体どういう・・・」


「僕に出来るのはね・・・

君に仮初めの体を与えて、送り出すことだけなんだ」


「送り出す?」

「そう、これから君を送り出すのさ」


「・・・何処へ?」

「約束の場所・・・運命が交わるところへ」


「約束?運命?」

「それは君自身が自ら見つけ出すんだ」


そう言うとモーネはゆっくりと右手を上げた

すると、あたりがうっすらと輝きだしその光の中に"俺"が溶け込んでゆく


「待ってくれ!俺にはまた聞きたいことが・・・」


「ねえ、へべれけ…もし君が希望を・・・

可能性を見つけることができたなら・・・

君があの物語の・・・なら

みんなを・・・救って・・・」


「おい!それって一体どういう・・・」

薄れゆく意識の中で最後に見た彼女の顔は、まるで泣きじゃくる子供のようだった



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