表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悪役令嬢(男)の部下

この世界は何かがおかしい?

作者: 椋星そら

五歳の時に高熱を出して、魘される中で私は私だけど私じゃない人の夢を見た。そこで『私』は恋愛シュミレーションゲーム、所謂乙女ゲームというやつに熱中していて、それはもう生活を捧げているようだった。そして、その夢を見た後に自分のことを思い返せば、『私』が熱中していた乙女ゲームの世界に、この世界はそっくりだったのだ。


だから、私が見た夢は私の前世で、此処は自分が大好きだった乙女ゲームの世界で、ありきたりな転生をしたのだということに気付くのはすぐだった。




問題なのは、私が「誰」に転生したのかである。私、伯爵家次女『シャルロット・ミュラトール』、なんて登場人物はいなかったはず。自分の姿を鏡でまじまじ見ても、この見た目には思い当たる節がない。よく見れば割と整っているとは思うけど。……侍女さんに変な目で見られたけど気にしてない。


そうして一晩考えた末にたどり着いた結論は『モブ』だ。うん、前世でも平々凡々に生きていた私に相応しい役割といえる。きっとこの世界に生きているだけの、名もなきモブキャラに転生したんだ、私。確かに乙女ゲームをやっていただけあって男キャラには人並みにときめくけど、特に主人公になりたかったとかいう願望は無い。巷で流行っていた悪役令嬢転生にも興味が無い、というか、私がそうなったら卒倒する自信がある。


何故なら、モブに転生したことに気付いた私には新たな目指すべき目標ができたのだ。



―――そう、この物語の悪役令嬢『クロディーヌ・ルノアール』の取り巻きになること!







この乙女ゲームはよくあるなんちゃって中世風、剣と魔法のファンタジー世界が舞台だ。主人公は稀なる光の属性を持った平民の少女で、その能力を見出されて王宮の魔法騎士団にスカウト、そこで訓練を積みながら攻略対象と親密になる、といった具合のストーリー。そして乙女ゲームあるあるのライバルキャラ、所謂悪役令嬢――闇の属性を持公爵令嬢クロディーヌ――との衝突もある。攻略キャラたちは誰もが家の身分が高く、彼らとの婚約も噂される悪役令嬢が、「平民如きが親しくするなんて、身の程を弁えてはいかがかしら?」とつっかかってくるのだ。ただこの悪役令嬢、卑劣な嫌がらせなんて一切しない。その代りに次の試験の成績で勝負しなさいとか、殿下に認められたいならこの程度の依頼こなしてみせなさいとか、何かと試練を与えてくるのだ。そしてその試練の最中に攻略キャラと親密になったり、試練の結果が後々攻略キャラとの関係を認めてもらう上で重要なポイントになったり、要はプライドが高い故に平民の主人公にはきつく当たるけれど、それ相応の結果が出れば認めてくれるちゃんとしたキャラクターである。勿論主人公に課すことは自分でもできるし、上から目線でプライドが高いけれど嫌な感じはしない、高嶺の花と言うのが相応しい人。私的に解釈すれば、前述の台詞も、平民が何もなしに貴族と親しくしていては周りからの風当たりが強くなるからと、あえて言ってきたように思える。見えにくいけど優しい人なのだと思っていた。


私は乙女ゲーマーであったと同時にオタクでもあったので、彼女は久しぶりにビビッときた女の子のキャラクターだった。つまり私はクロディーヌというキャラクターが大好きだったのだ。そして彼女には、立ち絵が存在せず名前だけの片腕のような存在がいた。名前的に私は勝手に彼だろいうと思っている『シャルル』というキャラである。何かあれば彼の名を呼ぶ彼女―――その関係に萌えを感じた記憶は強く残っていた。


これはもう、実際に魔法騎士団に入って私が間近で拝むしかない、そう決意するのはとても簡単なことだったのだ。



そうと決まれば私は前世の記憶をフル活用して勉強を頑張った。魔法騎士団は名前の通り、魔法職と騎士職と、職種が二つある。私は、運動は人並みにしかできないので、ここは素直に魔法使いとしての道を選ぶことにした。ここで功績を上げれば家にも恩恵があるし、私は次女だしということで親からも特に反対されることはなく、むしろ応援される形で私は魔法の訓練に取り組むことができた。






この世界では、魔法が使える人間が生まれる。勿論、使えない人もいる。そして、魔法が使える人は、一人につき生まれつき一つ魔法の属性を持って生まれる。それを使いこなせるかは本人が持つ魔力――魔法の源が入る器の大きさと、才能次第。訓練を開始するにあたって属性検査というものをしたところ、私はなんと珍しい氷属性の魔法が使えるとのことだった。生まれつき低体温ぎみなのもどうやらそのせいらしい。納得した。そしてなにより、氷は闇寄りの属性で、闇属性と相性が良いのも嬉しかった。



魔法騎士団の入り口はそこまで狭くないが、それでも世間一般に優秀と言われる人間か、もしくは稀な能力を持つ人間でないと入団することができない。それも身分は貴族が殆どで、平民は数少ない。平民は通常の騎士団に入団することが殆どだからだ。


それからというものの、クロディーヌ様に会いたい一心で、またの名を萌えの力で、私は一心不乱に勉学や訓練に取り組んだ。



そのせいで、この世界は何かがおかしいことに気付くのが、遅れてしまったわけだけど。







最初に違和感を抱いたのは、10歳の時。とある貴族が主催するパーティに呼ばれた時だった。


攻略キャラの一人には第三王子がいる。キラキラした、まさしく王子様といった風貌で、彼も主人公と同じ光属性の持ち主だ。王位継承権も下の方だし、むしろこの力を国のために役立てたいと魔法騎士団に入り、瞬く間に出世して、若くして主人公が所属する隊の副隊長になる。ゲームのメインヒーローだった。第三王子には兄が二人おり、姉妹の存在はゲームでは語られてなかったはずだ。



しかし、目の前には()()()と呼ばれる少女とその友人たちがにこやかに話をしている。見た目は、第三王子を女の子にしたような姿だ。……王子に、妹、あるいは姉がいたのだろうか?


残念ながら私はモブなので、攻略キャラや重要キャラとの接点が一切ない。つまり、今ゲームではいつなのかが全く分からないということだ。私はクロディーヌ様に会えると信じて疑っていないので、魔法騎士団に入団するための訓練に没頭し、親を困らせる位には社交に興味がなかった。無理矢理連れていかれるパーティぐらいでしか貴族事情を知ることは無い。だから、そういうことはちんぷんかんぷんだ。


ゲームと同じ世界とはいえここは現実だから、きっと違うこともあるのだろうと思うことにした。







その次に、違和感を抱いたのは14歳の私の誕生パーティの時。

攻略キャラに、騎士職の堅物でかっこいい路線のキャラクターがいる。彼は王家に忠誠を誓う公爵家の人間で、幼い頃から第三王子の付き人のようなポジションだった。そして王子が魔法騎士団に入団を決めると、彼も追いかけるように入団する。彼にも姉妹がいる描写はなかったはずだし、公式ファンブックには兄と弟が一人ずつとあったはずだ。


何故か第三王女が私の誕生日パーティに来ていて、祝いの言葉を頂いた。それはとても光栄なことだ。ただ、彼女の隣には、将来男装の麗人になるだろうといっても過言ではない、前述の騎士さんが女の子だったらこうだろうという風貌の少女が控えていた。彼女が名乗った家名は、確かに騎士さんと同じ。


……現実だし、妹か姉がいてもおかしくないのか、な?

なんだかもやもやが募った。






これはおかしいと思ったのは16歳のとある日。

私の魔法もだいぶ安定し、来年には17歳になるということで親からゴーサインが出て、来年に魔法騎士団の入団試験を受けることになった。ここで、初めて、今までは訓練に必死で目を向けていなかった魔法騎士団自体の情報に目を向けた。どうやら今年は過去最高の成績で入団を決めた魔法使いがいるらしい。このフレーズには見覚えがあった。攻略キャラに、天才と呼ばれる魔法職の青年がいる。彼がその過去最高の成績という肩書をものにする魔法使いだ。勿論、攻略キャラなので男である。


なのに、その過去最高の成績で入団した魔法職の者は、()()()男を凌駕する成績だったというのだ。


これはさすがにおかしいとその噂の人を観に行くと、まるで前述した天才魔法使いが女の子だったらこんな風貌以下略。





今まで三人、攻略キャラだと思ったら女の子だった子を見てきた。そこで、私はとある仮説にたどり着く。きっと、私が近づきたくてたまらなかったクロディーヌ様を見ればその仮説が正しいかどうかすぐにでも分かるだろう。ただ、私は怖くてそれができなかった。







そして一年後の入団試験。私はすんなりと合格し、割と優秀な成績で魔法騎士団への入団が決まった。緊張する暇もなく、配属する隊が告げら、挨拶に向かう。



隊長はここにいると言われ、執務室へと向かった。この後きちんとした顔合わせがあるらしいが、私は先に隊長に挨拶するようにと言われたのだ。何故か理由は分からない。軽くノックして、入室許可を告げられたので、扉を開けた。


「今日から第三部隊に配属になりました、シャルロット・ミュラトールです、よろしくお願い致します。」


直角に腰を曲げ、礼をする。顔を上げ、隊長の顔を今一度確認すると、背中を嫌な汗が流れた。


「第三部隊隊長のクロード・ルノアールだ。お前の氷属性は俺の闇属性の魔法と相性が良いからこの隊に俺から指名した。今日から俺の片腕として働いてもら―――」



話を聞き終わる前にショックで倒れた。






つまり、だ。


この世界は、私が前世愛してやまなかったゲームの世界というのは間違いないだろう。




そして、私の仮説は正しかった。


この世界は、()()()()()()()()()()している。


第三王子は第三王女に、彼の傍に控える騎士は女騎士に、天才魔法使いの青年は男すら上回る天才魔法使いの女性に、そして―――



―――隊長は、クロディーヌ様が男だったらこうだろうという美しい見た目だった。






どうやら私は悪役令嬢の取り巻きになるつもりが、悪役令嬢(男)の部下になってしまったようだ。


……この場合は悪役子息というのかな?なんて、現実逃避をしても、辛くなるだけだった。クロディーヌ様にお近づきになりたかったのに……。








目が覚めると隊長にひどく心配され、体調管理がなっていないと怒られ、謝り倒して、現実を受け入れられないままに隊での仕事が始まった。そうなると忙しいので慌ただしいままに日々が過ぎていく。隊長は何かあれば「シャルロット」と私を呼びこき使――仕事を与えて下さりやがるので、仕事中は暇なんてなかった。入ったばかりなのもあるだろうけれど。


隊長の顔にはクロディーヌ様の面影がばっちりあるので、これはこれでいいのか?という気すらしてきた。男だけど。でも、性格はクロディーヌ様だし。男だけど。


「はぁ……」

「仕事中にため息をつくな。集中できてない証拠だ」

「申し訳ありません」


貴方のせいですけどとは口が裂けても言えなかった。







そうして数週間働いていて気付いたことがある。隊長と攻略キャラであった女の子たちは、ゲームとは性別が逆転しているものの、交流があるということだ。

なかなか良い雰囲気だと見ていて思う。というのは、私は何故か隊長の側近扱いになっていて、隊長の傍に控えるのが定位置になってしまっていたからだ。隊長と攻略キャラの交流には絶対口を挟まないけど。



そして重要なのが、忘れていたけれど、隊長たちの年齢から計算すると二年後には主人公が入団してくることだ。この流れでいくと、主人公はおそらく男だろう。ということは、乙女ゲームというよりは最早ギャルゲーになってしまっているが、主人公が誰かを落とすにあたって隊長と敵対イベントが発生する恐れがあるのだ。そうなると今現在良い雰囲気である隊長と攻略キャラの関係が壊されかねない。むしろ、もしかしたらこの中に隊長が好きになるキャラが現れるかもしれない。ゲームではクロディーヌが誰を好きかは明言されてなかったけれど。


もうこの際性別には目を瞑るしかない。

確かに彼女――のはずだった彼は、尊敬に値する人物だし、好きなキャラに変わりはない。男体化が地雷ではなかったのが幸いした。





だから、私は新しい目標に向かって突き進むことに決めた。





―――これから来るだろう主人公、そして彼が立てるフラグを叩き折って、隊長と意中の相手が結ばれるようにサポートすること!






この先斜め上の展開を突き進むことになるなんて、私はまだ知らない。


 

 

初めての投稿なので、お見苦しい点があれば申し訳ありません。

小心者なので、感想レビュー閉じてます、すみません。

ほぼ説明みたいになったので、気力があれば続くかもしれないです。


⇒思いの外反応頂けたのが嬉しくてさっそく続きを書いてしまいました。

「フラグ建築は何かがおかしい?」に続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ