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それぞれの世界

引っ張られた腕は旧校舎を出る頃には解かれていた。ちょっと残念。

すると俺より少し前を歩いていた八代会長が急に立ち止まって、こちらに振り向き


「ねえ?ポチ?」

「何ですか、八代会長?」


すでにポチが定着してる。反応してる俺もどうかと思うが。


「その八代会長って言いかたやめてくれない?なんか嫌」


後輩に苗字を呼ばれるのが馴れ馴れしいとかいうあれか。別にもう呼び方はなんだっていいか、もう会うことは殆ど無いだろうし。


「すみません、会長」

「ちーがーうー!」


何が違うんだ?あー、なるほど。話しかけるなということか。でも、今話しかけたのはそっちだろ?


「会長をつけないでくれる?八代でいい」


なんだ、そういうことか。なら答えはひとつだな。


「いや、後輩が先輩を呼び捨…」

「次会長って呼んだら…」ニコッ


…………


「わかりまし…」

「敬語も禁止」


…………


「わかっ、分かりました。八代…さん」


勘弁してください。ここが限界です。あって間も無い人間にいきなりタメ口きくとかそんなにコミュ力高く無いです。

八代さんは少し不満そうだが、納得したのか「まあ、いいか」といい歩き出した。

俺はこの人がどんな人なのか未だに分からない。あって数時間もたってないから仕方ないか。

結局そのまま校門まで八代さんが少し前を歩き、俺はその後ろについて行くというスタイルで校門まで歩いた。ちなみにずっと無言である。気まずさが尋常じゃない。


「ポチは歩きなの?」


やっと重い空気から解放されたと安堵しながら答える。


「そうですね、歩いて2〜30分くらいかと。八代さんは?」

「ん?あれ」


ただ単に興味本位で聞いただけなのだが、八代さんが指を指したほうを見ると、黒い車が停まってる。車の車種などはよく知らないが間違いなくあれが高級車だってことは分かる。

俺は震える指で高級車であろう車を指す。


「あれですか?」

「そうだよ」


住む世界の違いを見せつけられた気がする。

もともと一緒だとは思ってなかったけど。どちらにせよ、色々とこの場からもう立ち去りたい。


「じゃあ、俺帰りますんで。おつかれさまです」


と八代さんの隣を通り過ぎようとすると、八代さんに腕を掴まれた。


「送ってってあげる」

「いや結構です」


なんでかわからないけど、家を知られたくない。


「送ってってあげる」

「いや、だから大じょう…」

「送る」

「いやでも…」

「乗れ」

「はい…」


はっきり学んだ。この人には勝てないと。俺は掴まれた腕を引っ張られ、車まで連れてかれる。すると、運転席から誰か出てきた。うん、どう考えても執事的なアレだな。綺麗な白髪から細くて優しそうな目、ザ・執事だな。

執事的な人は、そのまま後部座席のドアまで歩き、ドアを開けて


「お嬢様、お疲れ様で御座います」

「ありがとう、山田」


なんと執事的なアレさんは山田というのか。なんか一気に親近感が湧いたな。

八代さんは普段通り後部座席に座る。俺はどうしたらいい?と、その場で固まっていると田中さんがこちらを向いて、あ、間違えた。山田さんだ。


「お嬢様?そちらの方はご友人か何かで?」

「まあそんなとこかな?山田、その子の家まで送ってくれない?」

「かしこまりました。それでは、えー」「ポチよ」「ではポチ様、少々こちらに」「犬崎です」


などと変なコントをしたかと思うと、山田さんに手招きされ車の後ろに呼ばれる。何事かとついて行くと


「お嬢様とはどのようなご関係で?」


細い目が少し開かれた。うわー、目の奥すげー怖い。そりゃそうか、自分の仕えているお嬢様が何処の馬の骨とも分からない男と一緒にいるんだからな。八代さんとも今日初めて会ったから情報ゼロだろう。

だがしかし!それでも俺は冷静を装う!


「ただの友人ですよ」フッ


そこまで長くない髪の毛を少し払う素振りを見せると


「ほう」ギロッ


はい、冷静タイム終了でーす。さらに開かれた目はもう血走ってるとしか言いようがない。落ち着け〜俺、何も悪いことをしていない、むしろ被害者は俺。と心に言い聞かせる。本当に悪くないのに…


「決してつきまとっているわけではないと言うわけですね?」

「ストーカーだったら、こんな堂々としてないですよ」

「堂々と?」


あれあれー、俺なんかまずいこと言ったかな?なんで堂々とに反応したの?もうやベーよ、なんか泣き出したよこの人…泣き出す?


「この山田、幼少の頃からお嬢様に仕えて友達など一度も見たことがありませんでした。なんせあんな性格ですから…」


感極まって泣くってこういうことをいうのかな、と思うくらい号泣してる。しかし友達がいたことがない?


「本当にいなかったんですか?みんなに慕われてそうですけど?」

「それはですね…」

「ねぇー?何話してんのー」


車の中から八代さんが待ちきれなくなったのか、窓を開けてこちらを呼ぶ。


「ではこの話はお嬢様からお聞きください」

「えっと、了解です」


山田さんは丁寧にお辞儀をし、八代さんと反対側のドアを開けた。俺は軽く礼をし、車の中に入った。



「あ、家ここです」


といって止まったのはごく普通の二階建ての一軒家。


「ふーん、普通の家ね」

「まあ、一人暮らしにしたら大きすぎますけどね」

「一人暮らし?家族は?」

「色々とありまして…今は一人ですね」


俺としてはそんなに深刻に言った覚えはないのだが、八代さんはそう捉えなかったようだ。すごく申し訳なさそうにしてる。最初に見たときはそんな印象は受けなかったが、そんなに悪い人ではないのかもしれない。


「送ってくれてありがとうございました。じゃあ帰りますんで…」


とドアを開ける前にドアが開いた。どうやら山田さんが外から開けてくれたようだが、いつの間に出たんだ?この人?


山田さんと軽い会釈を交わし、俺は家へと歩き出した。


「ポチ!」


なぜか俺と一緒に車を降りた八代さんに急に呼ばれた。


「はい?なんですか?」

「やっぱりさん付けはやめて」


理由は分からない、しかしその言葉には強い信念のようなものが感じ取れた。眼力すごい。


「わかり…わかったよ、八代」


これから何があるかわからない。


「うん、また明日ね。ポチ」


ただ今日だけは何も起きずに、穏やかな1日出会ってほしい。


「また明日、八代」


その言葉が合図のように互いに背を向け、歩きだ…


ガチャ

「兄さんお帰りなさい」


開くドア、鍵を取ろうと鞄に手を入れてる俺、固まる八代、山田。


「お前くんの早くね?」

「お母さんが、『裕翔より先に家に入りなさい!これ合鍵ね!』って言ってたもので先に来ました」


さすが母親だな、どんなになっても息子のことをよく分かってらっしゃる。今はそれどころではないな。


「ぽ、ポポポぽ、ポチ?さっき一人暮らしって言ってなかったっけ?」


まず落ち着け、状況がうまく読めてないのは八代だけじゃない。当事者である妹、犬崎綾いぬざきあやが一番落ち着いてる。


「言いましたね、俺もさっきまで一人暮らしだと思ってましたよ」

「兄さんが帰ってくるのが遅いからご飯作っちゃいましたよ?部活とか入ってましたっけ?」

「いやまあ、入ったって言えば入ったけど。それよりも!お前学校終わりに来るって話じゃなかったか?幾ら何でも早すぎるだろ?」


俺の家族、もとい妹のいる地元はここから電車で来るにしても最低5時間はかかるはずだ。


「はい、転校しましたから問題ないです」

「転校っておま!?」

「ポチ、説明して「お嬢様、今日は源五郎様との食事がございます、そろそろお戻りください」


山田さんに言われて悔しそうな顔をする。たぶん外せない用事なのだろう。何はともあれ好都合だ。


「八代さ…八代、明日説明するから今日は帰ったほうがいいですよ?」

「本当に説明する?」

「はい、明日ちゃんとせつめ「兄さん、この偉そうな女は誰ですか?兄さんのことをポチなどと呼ぶなんてろくな女ではないですね」


やめてください、ごめんなさい、これ以上挑発しないでください。あいつにとっては挑発していると思ってないだろうが、一言一言の棘がすごい。さすがの八代も怒るかと思っていたが


「そう、ごめんなさいね?ちょっとした遊びだからあまり気にしないで?」


あれー、怒るどころか大人の余裕。キラキラしたオーラが見える。八代はこちらに微笑むと車に乗り込む。すぐに走り出すかと思ったが、窓が開いて八代が顔を出した。


「そうそう、犬崎くん。明日のことよろしくね(おい、ポチ。明日説明しろよ?)」

「りょ、了解です」


それだけ言うと今度は本当に車は走っていった。裏の言葉まで読めるとはさすが俺だな。さて、残る問題は


「兄さん、あの女誰ですか?説明お願いします」


今日はもう疲れたから寝かせてくれ。いやマジで。





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