精霊の姫と氷の王子の出逢い。
一応頑張った方。
フィアナ・エンハート。17歳。
母方の祖父の屋敷にて、見知らぬ青年と対面中。
エンハート伯爵家の長女に産まれ、黒髪翠眼の中の上くらいのちょっと可愛いかな?程度の顔。
魔力はある方だけど、体が弱い為体力は底辺。
そんな私が何故森のなかを歩いているのかというと、私のとある記憶と異母妹にある。
私が7歳の時に、実の母を亡くし、その数日後父親が愛人と愛人の子(つまり異母妹)を家に迎え入れた時に、日本人としての記憶と一つのゲームの知識が頭に流れ込んできた。
そう、つまり私は転生者だったのです!
そりゃあ、いきなり知らない情報が浮かんできてはまた別の情報が流れ込んできて、そのせいかぶっ倒れて一週間寝込んでおりました。誰も見舞いになんか来ませんでしたけどね。
愛人親子はともかく、父は異母妹に目を向けてばかりで私の事は忘れている模様ですし、使用人達は父親かあの男好きっぽい愛人の命令で朝に朝食を届ける以外に訪ねて来ない。(私の部屋は離れにあるので特に。)
それでも、寝込んでおり元々体が弱い私が生きていられるのは、一重に精霊達が守ってくれていたからなのです。
何故か解りませんが、産まれた時から側におり様々な色を纏った精霊に好かれていて、そして今の私の現状に怒り狂っております。
鬼の形相をしていても綺羅びやかな皆さん。他の人なら怯えるであろうその顔も、私にとっては嬉しくて思わず頬が緩みます。みんな大好き。
愛人親子が家に住み着いて数ヶ月。
緑を司る精霊の可愛らしい女の子に連れられて、こっそり家を抜け出し森の中を精霊に何度も支えられながら歩いていると、エンハートの屋敷よりもはるかに大きい、柔らかな雰囲気の広い庭が目の前に広がっていました。
こんな近くに屋敷があったのか。どうして精霊達は此処に連れてきたのか。混乱する頭に悩まされていると、メイド服を着た一人の妙齢の女性が現れ私を見つけたと思ったら目を見開き、
「旦那様!!庭に小さな奥様がっ!!」
と叫び何処かに向かい走り去っていきました。
私はその大きな声に驚いてその場で固まり動けませんでした。精霊達は私を心配そうに声を掛けたり、手のひらをひらひらと振っていました。
有り難うごさいます。
数分後、若い青年の執事に抱き上げられ一つの部屋に通され高級そうなソファに座らされると、既に居た男性に慈愛に満ちた目を向けられた。
青が混じる灰色の髪に翡翠の目をした、大人の色気を壮大に放つ美丈夫ともみれるおじいさん(?)が鋭そうな目を緩め私を見ているので、思わず顔を真っ赤にしながら俯き、モジモジ手を動かしてしまいました。
だって何か格好いいんですもん。
「君はジュリアの娘かい?」
「!」
その言葉を聞き、顔をおじいさんに向けました。
だって彼が実の母の名前を口に出したから。
「おじいさんは、私のお母様のお知り合いですか・・・?」
詳しく聞いてみると、彼はセルジュ・ユレシア。ユレシア公爵の当主であり、なんとお母様のお父様・・・つまり私のお祖父様だったのです!
というかお母様、公爵令嬢だったのですか。なら何故にあんなお馬鹿さんな父に嫁いだのか。心底不思議に思いましたが、それよりも美人だった母にあまり似ていない私に何故気付いたのかというと、昔に亡くなったお祖母様にそっくりだったらしいのです。
だからさっきのメイドは「小さな奥様」と言っていたのですね。
お祖父様は宮廷魔術士の筆頭で、精霊も見えるらしく彼等から私の現状を知り、笑顔ではありましたが背後にブリザードが吹雪いておりました。怖い。
それからというもの、お祖父様やユレシア公爵家の使用人の願望によりちょくちょく家を抜け出しては、お祖父様の元で勉強やマナー、魔法学について私の体に負担をかけない程度に教えてくれました。
そんなこんなで早十年。私は17歳になりました。
ユレシア公爵家の皆さんに色んな事を教えられ、顔と体が弱い事を除けば、立派な貴族令嬢に仕上がりました。
午前の授業を終え、庭で食後のティータイムをしていたら目の前に颯爽と歩いていた青年と目が合い、彼の美貌に驚いた。
金色の髪に海の様な深い蒼色の目。清廉された中性的な顔。どこぞの物語に出てくる王子様かと思いました。
というか何故にじっと見られているんでしょうか?お祖父様や使用人の男性としか異性の接触がなかったのであまり男性が得意ではないんです。
耳まで真っ赤になった顔を俯かせていると、
「凄いですね。其処にいるのは皆貴方の精霊ですか?」
「えっ、あっ、はいっ!」
彼に話し掛けられたのと、精霊が見えるのかという驚きで若干声が裏返った。
そんな私に彼はクスリと笑い此方に寄ってきた。
思わずアワアワしていれば、私の前の席に座りニコリと笑った。
「初めまして。私はシューゼ・アイゼリオン。ユレシア殿に魔法学を教わりに来ています。」
「!アイゼリオン公爵家の・・・。」
アイゼリオン公爵家とは、代々騎士を輩出している武を極める一族で、魔を極め魔導士を輩出しているユレシア公爵家の対を務めている。
彼はそのアイゼリオンの後継者であり、
「(攻略対象者じゃないですか!)」
前世の記憶にある乙女ゲームの攻略対象者であり副会長であり「水帝」であります。一番最初にヒロインに接触する人で難易度はあまり高くはなかったはずでしたね。
・・・あれ?ヒロインの名前は確か・・・。
「貴方のお名前を聞いても?」
「ふぇ!?あっ、フィアナ・エンハートと申します!」
「エンハート・・・?」
考え込んでいた所で話し掛けられ、変な声を上げてしまった。
「・・・・・・。」
「あっ、あの?大丈夫てすか?アイゼリオン様。」
「あぁ、いえ。失礼ですがレイシア・エンハートという女性をご存じですか?」
「えっ、あっ、たっ多分異母妹だと思います・・・っ。」
思い出しました。ヒロインの名前はレイシアでしたね。まさか異母妹だとは。性格もゲームと違いましたし。でも異母姉はいなかったはず・・・。私はイレギュラーでしょうか?
「多分、ですか?それはどういう・・・」
「わっ私、小さい頃から体か弱くてずっと離れの部屋に居たんです。父も義母も異母妹を可愛がっていましたから。それに私の部屋を訪ねて来ることもなくて、それで、その・・っ」
「落ち着いて下さい。大丈夫ですから。」
改めて自分の現状を思い返したら何だか悲しいやら悔しいやらでつい早口で喋ってしまい、アイゼリオン様に優しく宥められた。うぅっ、すみません。
「私の世話は精霊達に任せてしまっていたので部屋から出ることもなくて、えと・・・正直父や義母、異母妹に使用人達でさえ顔が分からなくて。」
「それは・・・。」
流石に予想外だったのだろう。その綺麗な顔を歪め、嫌悪を示していた。私、嫌われたでしょうか?
「今まで貴方は大丈夫でしたか?いくら精霊に助けられたといっても一人では危ないでしょう。」
優しい声にアイゼリオン様の顔をじっと見てしまいました。嫌われてはいないのだろうか?
「はっはい。精霊達が母の実家・・・ユレシア公爵家に連れてきてくれて、お祖父様や使用人の方達に優しくして頂きましたから。」
そう言うとアイゼリオン様は安堵の表情を浮かべ、そしてかつてのお祖父様と同じ様に笑顔ながらも背後にブリザードが吹雪いておりました。本当に怖い。
「ちっ。あの毒花は学園以外にも相当な被害を出しているようですね。忌々しい。」
「あっ、あのっ、アイゼリオン様?」
「シューゼで結構です。」
「あっ、はい。私の事も名前で良いですよ。」
「では、フィー。あの女に近づかないで下さいね。もし接触してしまったら私に連絡を。貴方の事は私が守ります。」
ゲームと同じく腹黒キャラなんですねとか、何故に名前呼びなのかとか、守ってくれるんですかとか色々言いたいことはありますが、とりあえずまずは。
異母妹が迷惑かけて申し訳ありませんでした。
フィアナ・エンハート
17歳。
黒髪翠眼。
異母妹には劣るが、れっきとした可愛らしい美少女。
他人とあまり接してこなかった為、若干人見知り。
得意魔術は、癒し、精霊術。
このあといつの間にか学園に転入することになり慌てるが、親友や後輩が出来たりしてほんわか過ごす。精霊に好かれる魔力と体質、本人の見た目から「精霊姫」と呼ばれている。
シューゼのことは無自覚に一目惚れ。
シューゼ・アイゼリオン
17歳。
金髪蒼眼。
本物よりも王子らしい見た目で中性的。
学園の生徒会副会長であり、「水帝」。そして攻略対象者。
得意魔術は、水や氷全般。魔術より剣術が得意。
フィアナの魔力と精霊に好かれることに目をつけ、勝手に学園に転入させた。
媚びた目と声をしたヒロインに嫌悪感を持つが学園の秩序の為にヒロインの取り巻きをしている。すきあらば潰そうと画策中。
フィアナに一目惚れしており、ユレシア公爵(爺馬鹿)と上辺だけの話し合い(どす黒い空気感。)に勝ち、婚約にこじつけた。
別名「氷の王子」