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妖狐抄  作者: 北風とのう
風の章
9/19

-3

 実は残った家臣たちにも戦う気などはさらさら無かった。王宮に立てこもって、一応、独立国の気概を示しておいてから、降伏して王宮を明け渡せばよい。そうすれば逃げて追いつかれた時よりも殺される確率は低い。そう考えていただけだ。ナジーブも含めて、誰もまともに戦おうと思った者はいなかった。


 しかし皇太后は怒り、ハラハラと涙を流す。そして会議を後ろの方で聞いていたイシスにむかって「イシス、あなたならどうしますか。このままコーサラ軍にこの国をあけ渡すのですか」と詰め寄った。そこでイシスは前に出てきて発言をした。

「では戦わずに先発隊を捉えて捕虜にしましょう」

イシスの提案は以下のとおり。

一、王宮の城壁の内側、左右に木製のやぐらを建てる。

二、そして広場の四方には馬止めの柵を立てる。さらに広場中に多くの杭を打って、それを縄で結んで馬も人も自由に駆けられないようにする。

ここまでは常識的な策だ。しかしこの次の策は奇妙だった。

三、大量の黄砂を櫓に上げておき、広場の向かいの森から火の手が上がったら、その黄砂を広場に向かって蒔く。

 家臣と軍部の全員がいぶかしがったが、イシスを絶対に信頼するナジーブが、イシスの言うとおりにしろと命令する。黄砂を蒔くだけなら、敵兵を殺すわけではないので、後で降参した時に自分たちが殺される事はないだろうと思われたので、皆はしぶしぶカシスの提案どおりの準備をする事にした。


 櫓が立てられ、馬止めの柵が広場の四方に立てられ、さらに広場中に杭が打たれて縄が張り巡らされる。イシスは兵に指示して大量の黄砂に何かの薬を混ぜ、それを櫓の上に運ばせた。そしてナジーブたちは近くに住む民を非難させ、王宮にこもる準備をした。


 さらにイシスは農民から有志を集め、森の木に火をつけるための燃える粉を渡して、その使い方を注意深く教えた。何度も強調したのは、

一、敵の騎兵が森を通る時(おそらくは夜)に見つからないように周辺に散って隠れている事。

二、騎兵が広場に出たら、一斉に森に火を付け、自分はすばやく逃げる事。三、合図があったら今度は別の粉を蒔いて、火を消す事。


 コーサラの騎兵が王宮に到達したのは、翌日の早朝、よく晴れて風の無い日だった。予想したとおり、騎兵たちは夜のうちは森に隠れていたが、夜明けとともに一気に広場になだれ込んできた。馬止めの柵なんて全く役に立たない。森側の柵はわずか五分で壊されてしまう。

しかし馬は張り巡らされた縄が足に引っかかるので、うまく走れなかった。コーサラ軍は「こしゃくな小細工をろうしおって」と怒ったがそれでも馬をなんとか引っ張って広場の中央に集める。騎兵はすぐに広場の縄を切ろうとしたが、王宮の櫓に気が付くと、そこから放たれる矢を防ぐために、先に矢避けの板を組みあげなければならなかった。その最中に王宮からナジーブと騎兵二十騎が出てきたので、縄を切る閑もなく広場の中央に陣取って、ナジーブたちと対峙する。


 常識では考えられない事だ。圧倒的な兵力の差があるのに城を出て対峙するとは。もう降伏を言い出そうとしているのか。コーサラ軍の司令官はカシ軍の不可解な行動に疑問と一抹の不安を感じたが、十倍の兵力の差にカシ軍が何もできる訳がない。そう自分に言い聞かせて、大声でナジーブたちに降伏するように呼びかけた。

「自分たちは先発隊で騎馬二百騎。本体には三万の兵がいる。どう考えても、お前たちに勝ち目はない。戦えば民にも迷惑がかかる。すみやかに降伏して王宮を明け渡せば命まではとらない」

 カシ軍の兵たちは極度に緊張した。馬止めの柵も五分と持たなかった。二百の敵兵を前にして、なぜ自分たちは城壁の外に立たされているのか。

王宮の中でも家臣たちはその声に聴き耳をたてていた。なんとかナジーブの気が変わって速やかに降伏して欲しい。


 しかしナジーブは一歩前に出て、堂々と言う。

「ここは我々の神の住まう地であり、我々は先祖代々ここに住んでいる。コーサラの栄華の話はここにも届いているが、我々は自分たちの主権を放棄するつもりはない。早急に引き取られよ。さもなくば痛い目を見るであろう」

コーサラ軍たちは笑い出した。二百の騎兵を相手に何を言っているか。そして弓を構える。するとナジーブたちは早々に王宮の中に入り、城壁の扉を閉ざした。


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