はじまり <異世界農業に馴染みたい> 2
目の前の爺さんは見た目によらず、速いペースで歩いている。
さっきから俺が小走りで追いかけ、一息ついて歩くとまた距離が空いて走りと繰り返す。
後ろを付いて来てくれてる自衛官は難なく歩いているが、
逆に言えばそこまで鍛えた人でなければついて行けないのだ。
本当は軽く話しながらこの国の事を教えてもらおうかと考えていたが、
喋る余裕がさっきからできず、口から出てくるのは切れる息の音だけだ。
『ここですじゃ』
そう紹介されたのはそれから10分くらいしてからだ。
と言っても、時計は持っていないのでそれくらいだろうって感覚なのだが。
「ハァッ…… ハァッ…… こ、こちらですか…」
目の前には周りと比べて一回り大きな岩と扉。
まさにくり抜いて作りましたよって雰囲気が伝わってくる。
『ここは昔、ドワーフの職人が作った家なんですじゃ』
異世界だなんだと聞いていたが、そんな種族も居るのか。
「へぇ…… 他の家よりも少し大きいみたいですね」
珍しいものに触れながら、思ったことをそのまま言葉にする。
『はい、異世界の方が滞在するということで、用意できる一番の家を用意しました』
「一番って、そんな気にしなくても……」
俺はただ勉強をしに来た学生だというのに、
そんなのに気を使って貰う必要なんてないだろう。
『どうぞ、中へお入りください』
「は、はぁ、失礼します」
案内されて、家の中に入る。 お、案外綺麗になってるんだな。
家具とかも備え付けられてるようで助かる話だ。
石で出来てるのだろうテーブルと椅子があり、物入れなのだろう岩のタンス、
棚のような出っ張りが多々出ていて、幼い子供が一人。
……ん、子供?
『祖父さま、片付けました』
そういう子供の姿は金髪碧眼で、多少長い耳にボロボロの布服。
まさにどこかの掲示板やらで好まれそうな姿をした子供だな。