はじまり <異世界農業に馴染みたい> 1
車が進んでゆき、家々が並ぶ場所の中心部、広場へと進んでから止まる。
やっと目的地についたようだったので、運転手の声を待たずに外へ出る。
ただ車を降りただけなのに、さっきまでと空気の香りが違う気がする。
燦々と振りてくる光が気持ちいい。
8時間ぶりに踏みしめた地面に感動しながらも、固まった体をほぐそうと伸びをする。
バキバキと自分でも信じられないほどの音を立てるが気にせず伸ばす。
俺の背後では運転していた迷彩服の自衛官がせっせと荷物を降ろしてくれているが、
今しばらくはこの感触を味あわせてくれ。
『◎Σα○Q△∀×……』
そんな音を聞いて、周りを見回すと老人がそこに一人立っていた。
深いシワが顔の至る所に刻まれており、苦労が有りありと見える。
『Σα△? β∋∀×∇……』
どうやら、声をかけられているようだが、何もわからない。
そりゃ当たり前だろう、英語すら赤点回避レベルで微妙なのに、
そんな俺が異世界語なんて解るわけがない。
「ええと、その…… あ、そうだ」
自衛官の運転手はどこに行ったのかと周りを見ると、
俺が欲しがってるものが分かっているようだった。
こっちに一言かけてくれてから小さな木箱を放り投げてくれる。
『……???』
話しかけてきた老人は不思議そうにしているが置いといて、
木箱をを受け取って中を開けると、ネックレスが入っている。
それをさっそく自分の首に回して…… カチッと音が鳴る。
すると一瞬だけ、ネックレスが光って収まる。
『い、いかがいたしましたか?』
そこでようやく相手の言っていることが理解できた。
政府の偉い人から渡された翻訳道具だ。
「いえ、別の言語を使っていることを失念してました。
異世界から来た、春日井晴登です」
そう、自己紹介をする。
やはり自分から名乗らなきゃ失礼だろうしな。
『……?? ???』
……あれ? もしかして通じていない?
不良品を掴まされたのか?
『……別の言語? シツネン?』
あ、通じてはいるみたいだ。
「ええと、異世界ではこちらで使ってる言葉と違うんですよ」
『……?? でも、今は話が出来ておるじゃろう?』
「あ、それはこのペンダントのお陰でして……」
そう言って手に乗せて強調させてみる。
こっちの世界で作られたものらしく、魔法を使って話が出来るようにしてるらしい。
『……なるほど! 異世界の人は偉いんじゃな!』
そう言って納得しているよう…… だが、この偉いは嫌味とかじゃなさそう。
なんというか、田舎のお祖父ちゃんがとにかく驚いてて言ってる。
そんな意味で言っている気がする。
『あぁ、こっちですじゃ。 付いてきてくだされ』
そう言って先に進んでいく。
なにやら、第一印象は先行きが不安になるものだった。