はじまりの前に
座っている体が揺すられて、少し上に跳ね上げられる。
どうやらまた道のでかい凹みにタイヤを取られたようだ。
前でハンドルを握っている、迷彩柄を付けた男が一言
大丈夫ですかと声をかけて来たので、適当な返事をしておく。
俺の心配なんかより一秒でも早く目的地にたどり着くようにして欲しい。
車越しに窓の外を見れば、所々の蒼々とした草木と
無骨で、見ただけでも堅いのだろうと思わせる岩石の小丘
軽く拭いたのだろう風が、少し埃っぽい、自然がつまったような匂いを運んでくる。
ドゴンッ、と音がして体が跳ね上がった。
これはマズイと思って頭を庇おうとするが、先にガツンッと音が響く。
また車の天井に頭をぶつけた様で、目の前がチカチカする。
前の運転手が大丈夫ですか、と声をかけてくる。
「っ~~、っだ、大丈夫です、気にしないでください…」
それを聞いて、そうですか、と言って何も言わなくなる。
事務的な受け答えにややムッとするものの、言葉にせずにおく。
これが一度や二度のことなら笑って済まそうと思うし、事実そうしていた。
だが、上に頭をぶつけたり、顔が前のシートにめり込んだり、
ドアに体がぶつかったり、ガタガタと揺れる道で気持ち悪くなったり……
そんなこと、最初は数えていたが、20回を越えたあたりからやめた。
運転が荒っぽいのだろうと思ったが、そうではない。
道が悪いのだ。
外を見て思うのは、どこかのテレビでやってた外国の風景みたいだ。
なんかキリンとかゾウとか、ライオンが出てきてもおかしくない。
ここがサファリパークか何かだったら舗装された道を優雅に走り、
綺麗な風景を楽しめたんだろうが、あいにくここは観光施設じゃない。
凹凸のある道を走り、岩で閉じられた道を迂回し、危険な道で急ブレーキ。
もう沢山だった。 今度から自転車を走らせられる地面を尊敬しよう、そうしよう。
馬鹿な事を考えつつ、さっきぶつけた頭を抑えながら、前を向くと
遠くに見える多くの木々と、ここからでも清純としてそうに見える川
そして人口物がポツポツと。
もしやと思って気分が晴れ上がる。
その時に、前の運転手がまた一言、声をかけてきた。
あれが俺の赴任地だ、と。