叫喚の宴
陣形を整えるプレイヤー達。
それをジッと見つめる黄金の昆虫。
プレイヤーは50人。
訓練場はデュエルと同じフィールドを発生させる機能がある。
開始の合図と共に両者は激突するだろう。
聖魔は技術班と壁際に立っている。
使い魔へに指示は一切しないという言葉通りだ。
そして、準備は完了した。
「開始!」
ボッ
合図と同時にシザーが加速する。
翅からの風刃をブースターの様に使い、低空を飛行し一気に突っ込む。
鋭利な鎌は土属性によってより硬質化し、ノコギリ状の鎌はチェーンソーのように旋回する風を纏っている。
ハサミ状の前肢は薄らと光を纏い、三又の槍状の前肢は雷を帯びている。
「防御!」
合図と共に盾持ちが整列し、防御シールドが張られる。
しかし、シザーは直前で地に足を着き、高く跳躍した。
ズン
「え?」
「は?」
ブォン
自分達を飛び越えたシザーに呆気にとられるプレイヤー。
その隙を見逃すことなく、シザーは攻撃肢を振るった。
ろくに反応もできず蹂躙されていく後衛。
前衛が駆けつけた時、すでに後衛は壊滅状態だった。
慌てて盾持ちが隊列を組む。
今度は跳躍にも備えている。
しかし、シザーは今度は正面突破をかける。
シザーの口からブレスが吐き出された。
シュウゥゥゥ
「なっ!?」
「これは!?」
アシッドブレスを受けた前衛の防御が低下する。
次の瞬間、壁役の前衛が蹴散らされた。
「ははあ、あれが防御低下ですか」
「あれの所為で、腐海のブラッド・ウーズが前衛殺しなんですよね」
「スライムに物理は効きにくいですしね」
技術班は呑気に解析しているが、すでに戦場は阿鼻叫喚だ。
盾役と回復役を失い、ほとんど総崩れになっている。
しかもシザーはブレスを足止めに使い、実力者を分断し各個撃破していく。
「麻痺か……。クソ……」
「待ってろ、今……うわあああ!」
もう10人も残っていない。
しかし、シザーは油断する事も手心を加えることも無い。
自然界の捕食者にそんな情けは無いのだ。
ほどなく戦闘は終了した。
プレイヤー達には傷一つ残っていない。
しかし、その顔は青ざめている。
その表情は訴えている。
なんだあれは、と。
あれがモンスターの取る行動か、と。
実際のところ、シザーはまだ新入りであり戦闘ロジックは未熟な方なのだが。
「じゃあ、次はこっちが決めますか。コール ヴァルカン」
新たな50人が進み出る。
戦意は失っていないようだな。
「開始!」
合図と共に始まる砲撃戦。
放たれる火山弾を前衛が必死に防ぎ、後衛が魔法を撃ち返す。
前衛はじりじりと距離を詰めてくる。
ボボボボッ
ヴァルカンの火口が一気に火を噴いた。
上に向かって。
打ち上げられた火山弾は後衛に着弾する。
アイスマンモスの氷柱を真似したのか。
しかも、こいつもまず後衛狙いだ。
さすが俺の使い魔。
考える事が同じだ。
後衛が乱れた所でヴァルカンが自ら突進する。
自分からは動かない砲撃タイプと思っていた者達は動揺する。
残念ながらヴァルカンのパワーは使い魔中トップクラスだ。
ドゴオォォ
自動車に引かれたように吹っ飛ぶ前衛達。
プレイヤーのど真ん中に突入したヴァルカンは、後ろ脚だけで立ち上がる。
ズン
ドバアァ
振り下ろされた前足が地面を抉ると、放射状に亀裂が走る。
続いて亀裂からマグマが噴出し、周囲のプレイヤー達を薙ぎ払った。
下からの攻撃は防御や回避が難しい。
「このっ!」
「アチッ!」
連携を崩されバラバラに攻撃するプレイヤー。
しかし溶岩の塊の様なボディは半端な攻撃は通さない。
逆に高熱でダメージを受けてしまう。
頭突きを食らい、尻尾でなぎ倒され、体当たりを食らい、1人また1人と倒されていく。
残ったメンバーはいったん距離を取り、陣形を立て直そうとする。
「あー、それは行かんよ……」
ヴァルカンは追撃しない。
ただ口腔内にエネルギーを収束する。
そして
カッ
ズバアア
放たれた熱線は、盾持ちの前衛も後衛も等しく吹き飛ばした。
ヴァルカン最強の必殺技を忘れてしまったのが彼らにとっての致命傷か。
それから程なくして勝負はついた。
再び選手交代。
んー? 始める前から、気の所為か沈んだ顔の連中もいるような。
ま、いいか。
次はいよいよお披露目だ。
「コール カリス」
グガアアア
「「「「えええええええ!?」」」」
本日最大の驚愕と悲鳴が会場に響いた。
使い魔大暴れ。
普通のボスとは頭が違います。




