水晶竜の塔
以前は雑魚すら出なかったという『巨塔』にドラゴンらしき影か。
今行けるところじゃ一番風っぽいが、塔に花ってのもミスマッチだよな。
偵察したプレイヤーによると、塔の内部は螺旋階段を中心に大小無数の部屋があるらしい。
モンスターは『オーガ』や『トロール』を中心に『コボルト』や『ホブ・ゴブリン』の群れが出現するとか。
大規模な調査部隊が乗り込むというので、俺も参加する事にした。
螺旋階段に敵は出ないので、上るだけなら戦闘はしなくていい様だ。
もっとも宝箱が欲しければ部屋に入ってモンスターと戦わなければならないが。
普段からデュエルで訓練しているプレイヤーにとっては、人型で武器を使うここのモンスターはむしろ戦いやすいだろう。
俺はさっさと頂上へ行ってみようとベルクを呼び出した。
しかし、飛び始めたとたん上空から強風が吹いて来た。
とても上昇できず墜落するベルク。
へいへい、歩けばいいんでしょ。
適当に部屋を覗きながら階段を上っていく。
霞んでいた天井が徐々に近づいてくる。
階段は天井の上にまで続いている。
俺が一番乗りかな?
階段を上り天井の穴を通り抜けると、そこには邪竜に匹敵する巨体の竜がいた。
「うおっ! 出た!」
すぐに螺旋階段に戻る。
階段は途切れていたので、おそらくここが最上階だ。
最上階は展望台の様になっていて、周りは空が見えた。
しかし、戦闘するには狭い。
まさか空中戦か?
もう一度顔を出してみる。
竜と目があったが襲ってくる様子は無い。
ノンアクティブかイベントモンスターなのか?
竜は全身に水晶が生えていて鱗は銀色だ。
邪竜とは雰囲気も色も正反対、どこか神聖な感じだ。
眼だけは同じ金色だが。
「何かあったのか?」
後ろから他のプレイヤー達が追い付いてきた。
俺が事情を説明すると、皆様子を見に行き驚いて戻ってきた。
すぐに調査隊全員に連絡がなされ、全員が最上階に乗り込んだ。
しばらく無言でこちらを見つめた後、水晶竜は語り出した。
「やはりここまで来たか、人の子よ。まずは我らの里の封印を解いてくれた事を感謝する」
水晶竜は語る。
自分は古竜という、モンスターのドラゴンとは隔絶した力を持つ超越種の1体であること。
この塔で弟とあるものを監視する任務を負っていた事。
弟が平和な、しかし変化の無い里での生活に飽きていた事。
監視を交代し自分が里に戻ったところで里を封印し、去っていった事を。
「我と弟は我が一族の中でも特に強い部類だ。しかし、我を含め里の古竜全員がかりなら、単身でかけた封印くらいどうとでもなるはずだった。だが、弟の封印を解くことはできなかった。封印を張るためにどれだけの対価を払ったのか想像もつかぬ。下手をすれば精神が歪んでしまっただろう」
なるほど。
あの邪竜は狂ってしまったこいつの弟だったのか。
そしてあの石像は『竜の谷』だけでなく古竜の里も封印していたと。
むしろ里がメインだったのか? まあとにかく、こいつは封印が解けたので任務に戻ったと。
「あんたが監視しているモノって何だ?」
「我らの宿敵の住まう『浮遊島』だ」
「宿敵?」
「『ネフィリム』だ」
なんでも彼ら知恵を持つ竜『古竜』と堕天使の血を引くという知恵を持つ巨人『ネフィリム』は長く宿敵関係だったらしい。
しかし、古竜はネフィリム達の本拠地を魔法で空の上に放逐し一応の勝利を得たという。
その後も監視用の塔で常に見張っているのだという。
「ふむ、そうだな。お前達がネフィリムと戦いたいというなら協力してやろう」
ザワリ
新フィールドへの期待に場がざわめく。
〈全プレイヤーのフィールドマップに『浮遊島』の座標が表示されるようになりました〉
〈飛行手段によって『浮遊島』へ侵入可能になりました〉
「これでいいだろう。飛行手段が無いのなら……」
バサリ バサリ
突然の羽音にそちらを見ると、数頭のワイバーンが窓辺に飛行していた。
「こ奴らに乗るといい」
気の早いプレイヤー達がワイバーンに飛び乗る。
ワイバーンはすぐに飛び立っていった。
タクシーやバスみたいなもんか。
この塔は停留所ってわけね。
水晶竜が黙ってしまったので話は終わりなのだろう。
ワイバーンに乗る者、塔を降りて行く者、完全に解散ムードだ。
気がつけば残っているのは俺一人。
じゃあ、俺も一度戻るか。
「ふむ、汝が我が弟を倒し封印を解いた者か」
と、思ったらここでドラゴン・バスターフラグかよ。
厄介な話じゃないだろうな……。
待ち受ける巨人族。
突入組の運命やいかに。
そして兄は弟の敵に何の用が……。




