幻影の衣
やってきたのは『腐海』。
うろついている敵は植物、菌類、虫、そしてスライム。
ティルナノグ、女性中心なのによく平気だな。
アンブロシアや紫電花を探して腐海をさまよう。
隣には探索要員のフェイとステルス状態のリンクスがいる。
そしてフェイは銀色の浮遊する球体の上に腰かけている。
これはシミラの核だ。
実は俺が、知らないフィールドでのほほんとしているのはこいつのおかげだった。
今、俺達はシミラの粒子状の外殻の中に隠れているのだ。
強力な幻術は高位の隠蔽スキルにも匹敵し、出てくる敵は俺達の存在に気付かず急所を抉られている。
気分は正に暗殺者。
少し離れた所でリンクスも獲物に襲いかかっている。
魔力探知で奇襲を防ぎ、見敵必殺を繰り返してきた俺は隠蔽スキルは低い。
しかし、シミラの能力は並の斥候職では相手にならないほど強力だ。
乗ってきた俺は、わざわざ竜槍杖でなく腰のサマエルで攻撃し出した。
うむ、必殺仕〇人みたいだ。
俺がバカやってる間に、フェイはアンブロシアや紫電花を見つけていた。
最近どうも最初の目的を忘れるな。
しかし、ウニウニ動いてるスライムの背後にそっと忍び寄り、核にズガッと一撃、何か達成感がある。
さらに進むと戦闘音が聞こえてきた。
どうやら中ボスのいる場所まで来たようだ。
近寄ってみると20人位のパーティが『ブラッド・ウーズ』と戦っている。
待つのが嫌なら、ファミレスの名簿の様な順番表に自分のパーティメンバーを入力する事ができる。
そうすると、ホームページのミラーサイトの様にパラレルなボスフィールドに転送される。
まあ、大人数だと入力に時間がかかるから入力待ちの列ができてしまうが。
どうしようか迷ったが、目的の『紫電花』は2つ、アンブロシアは3つ手に入れていたので引き返すことにした。
霊峰よりも簡単に手に入ったな。
まあ、あそこは移動自体が困難だし採取ポイントも腐海の方が断然多い。
他の花もこんな感じで手に入るとありがたいな。
続いて来たのは『亡者の都』。
実は訪れたのは2回目だったりする。
最初に来たのはゼクの下僕を集める時だった。
最初はおなじみの『地下墓地』で試してみた。
『マミー』や『ガスト』などを支配するのはST差もあり簡単だったのだ。
その後、もっと強力な下僕を求め『亡者の都』に来たのだ。
『デュラハン』、『ブラッディ・ボーン・ソルジャー』、『レイス』などは支配しやすかった。
しかし、『ドラゴン・ゾンビ』、『スペクター』、『ワイト』などはなかなか支配できず、結局1体ずつしか下僕にできなかったのだ。
ランク3の強敵なのだから俺は十分な気がしたが、ゼクはせめて2体ずつ欲しかったようだ。
予備が無いと、もったいなくて使えない派らしい。
その後、死霊術も試すと言っていたはずが、なぜか錬金をやっていてビックリしたのだが。
まあ、あいつの事はいい。
花を探そう。
陰気な街を探索して回る。
シミラの幻術はアンデッドにも有効らしい。
近寄るとキモイので竜槍杖で暗殺していく。
プレイヤーもちらほら見かけたが、彼らにも俺は見えていないようだ。
どうやらシミラの幻術は、魔力探知で無いと看破できないらしい。
隠れたままネクロス呼んだらどうなるかな……。
悪戯心がわき上がったが、モンスターと勘違いされると面倒だ。
我慢しよう。
幻術を解除してプレイヤー達に近づく。
ちょっと聞いてみよう。
「よ、どんな感じ」
「あ、どうも」
「この辺の敵はまだ楽ですね」
「ちょっといいか? 『漆黒花』ってアイテム探してるんだけど」
「えーと、そういえば向こうの……」
彼らは持っていないようだが発見されたというポイントは教えてもらえた。
しかも案内してくれるそうだ。ありがたい。
よし、場所さえ分かれば後はフェイ様が頼りだ。
採取の先生、お願いします。
人目を忘れ下僕に頭を下げる。
それを見るプレイヤー達の視線は生温かかった。
その後なんとか『漆黒花』を2つ手に入れた。
お礼に彼らの『ノスフェラトゥ』討伐に協力した。
コウモリを使役しつつ、魔法で攻撃してくるヴァンパイアみたいな奴だった。
まあ、大ボスほどではないな。
彼らも一端切り上げるという事なので、一緒に転移魔法陣で町に戻った。
さて、残る花は土と風か。
どっちも情報が無いな。
まずは他の気になる所に行ってみるか。
ちなみに『ノスフェラトゥ』はソロでも余裕でした。
ソロドロップは『サバトのローブ』だった。
プルートにでも装備させるか。
シミラの能力解禁。
スカウト職真っ青ですね。