渓流攻略 前日
渓流は大規模な発掘ポイントとレアな魚が魅力のフィールドだ。
ボスは珍しい徘徊型で鉄壁の防御を誇る『キング・クラブ』だ。
しかし、ついにその攻略の糸口がつかまれた。
有効なのは雷属性だが、火属性と氷属性による温度差攻撃で甲殻を脆くする事が出来るのだ。
甲殻が砕けた下の肉は柔らかく、防御力は低い。
それを発見した人物は今工房にいた。
「おい、そろそろ返せよ」
「追加料金払うから待ってくれ。石化大剣がもう少しなんだ」
「はあ、解ったよ」
「そうか、ありがたい。……そういや、こないだの蟹の甲羅調べてみたぞ」
「そうか、近いうちに討伐に行こうと思ってたんだが」
「あれは硬くて軽い。ライトアーマーやブレストプレートに最適だな」
「そうか。俺のライトアーマーはミスリルだし討伐したら頼もうかな……」
「まともに食らう事なんてめったに無いくせに、防具にも金賭けるんだな」
「いいんだよ。金は使ってなんぼだろ」
「ま、確かにな」
冒険者ギルド
「うーん……」
俺は今、2枚の受注書を見比べて迷っていた。
どちらも内容は蟹討伐。
ただし片方は午前、片方は午後だ。
依頼を出したメンバーの質は大差ないようだ。
「と、なると集まるメンバーしだいか」
口にはしないが初回特典が欲しければ午前に行くべきだろう。
人気もそっちの方があるようだ。
しかし、俺は午後に行こうと思っている。
理由は今までの経験。
何度か蟹とは戦ったが、午後それも日の高い日中の方が動きが鈍かった気がするのだ。
はっきりと確認したわけではないが、蟹は気温が高い時間帯が苦手なんじゃないだろうか?
少しでも可能性があるなら、有利な展開で戦いたい。
朝より昼にしよう。
さて受注を、と思ったら
「おお、フィオさん! 蟹討伐に行くなら協力してくれよ!」
「あ、待って。僕達も行くんです。ご一緒して下さい」
何というタイミングの悪さ。
発注パーティー両方とランデヴー。
うわ、荒れそう。
俺自身を置き去りに、ワイワイガヤガヤと揉めている。
さすがに逃げちゃまずいよな……。
どっちにもつけず傍観する情けない俺だが、救いの主は現れた。
「何の騒ぎなの。これ」
現れたのは天使様。
パンテオンのリーダーであるルーシアだった。
『亡者の都』の中ボス『ノスフェラトゥ』は倒せたのだろうか。
ルーシアは手短に事情を聴いていく。
うむ、慣れてるな。
さすがギルドリーダー、俺とは大違いだ。
「なるほど。そんなの簡単じゃないの」
お、結論が出たようだ。
丸く収めてくれよ。
「彼が両方に参加すればいいのよ」
……はい?
ナンデスト?
「おお、そうだな!」
「フィオさんなら連戦くらいわけ無いだろう」
ルーシア~、あんた俺に恨みでもあんのか!
全然救いの主じゃねえ!
俺、迷ってた意味無いし!
周りも納得してんなよ!
しかし、流されやすい俺は結局、蟹2連戦をすることになった。
うう、ヘビーな1日になりそうだ……。
そして当日 渓流
そこには100人を超えるプレイヤーが集まっていた。
しかも職人系が多い。
「これ、どうなってんの?」
「え? ああ、討伐チームが戦ってる間に発掘するつもりみたいですね」
「なるほど」
確かに倒せなくても足止めにはなるもんな。
作戦はこうだ。
前衛部隊が蟹の正面で気を引き、後衛は魔法で甲羅に温度差攻撃。
蟹の関節を狙えば動きも阻害できて一石二鳥だ。
ある程度したら打撃武器で甲羅を砕き、魔法も雷属性にして一気に叩く。
甲羅をいかに早く砕くかが勝負のカギだ。
むこうに疲労は無いがこっちはスタミナと集中力を使うからな。
「コール ハウル プルート ギア」
使い魔も火と氷の属性持ちを呼び出す。
アダマンタイト・ゴーレムに進化したギアは前衛。
俺は魔法部隊で、いざという時は後衛の盾になる。
さて準備は完了。
第3エリア開始時からの、ある意味一番の有名ボス。
その一戦目がついに始まる。
ポケットの中の、オーブ屋からもらった新アイテムの試作品。
あのヘドロが材料なだけあり、かなりイカレた効果がある。
そいつの存在を確認しながら渓流に足を踏み入れた。




