ゲームと現実
トップギルドはその実績から、中堅ギルドやパーティの指導を頼まれる事がある。
その日、ビーストロアの訓練場ではデュエルによる訓練を行っていた。
連携が上達するし、複雑な対人戦に慣れればモンスター戦はずいぶん楽になる。
もっとも対人戦に偏り過ぎると、そもそも人間と体の構造の違うモンスターの攻撃に対応しづらくなるが。
「そこがあいつらの怖いとこなんだよな……」
ギルドマスターのダムドは呟いた。
脳裏に浮かぶのは戦友でもある聖魔の下僕。
モンスターでありながら卓越した技量を誇る使い魔軍団。
新しいアイテムの効果の紹介ということでトップギルドのメンバーもお披露目に参加した。
内部に工房を備えた拠点や訓練場のある拠点、ホテルの様な外見の物もあった。
しかし、あの馬鹿のエリアは根本から間違っていた。
突然、目の前に金色の巨大昆虫が現れたメンバーなど虫嫌いになってしまったほどだ。
神殿に入ってほっと一息ついたところで、ウェルカムしてくれたのは死神と骸骨。
ドッキリ番組でもここまでやるモノは少ないだろう。
本人に悪気が一切無いので怒るに怒れない。
そんな事を考えていると気になる者たちがいた。
前衛2、後衛1の3人組。
装備は良いしスキルもSTも高そうだ。
しかし、妙に動きが雑というか無駄が多い。
特に無駄に技を連発して、相手に隙を突かれるのが良くない。
初心者に良くある、モンスターとばかり戦い対人戦の経験の足りない者の動きだ。
しかし、上級者に匹敵しそうなSTがあるなら普通はデュエルも経験があるものだが……。
どこかに籠って延々スキル上げをしていたのだろうか?
少し興味が出たダムドは後で話を聞いてみようと決めた。
2時間ほどの訓練が終わるころには、3人の動きもだいぶ良くなっていた。
やはり経験は重要だ。
疲れてへたり込む3人にダムドは近付いた。
「よう、お疲れ」
「あ、どうも」
「お世話になってます」
「もっとラフに行こうぜ。そんなに年変わらなそうだし」
「そうかな」
「解ったよ」
そしてポツポツと話を聞いてみる。
何でも彼らにはやり遂げる目標があり、その為にひたすらスキルを鍛えていた。
しかし、それだけではダメだと気付き訓練に参加したそうだ。
見上げた向上心だった。
しばらく話していると1人がポツリと聞いた。
「なあ、あんたはPKするプレイヤーってどう思う?」
「は? PK?」
「ああ」
こいつらもしかして元……。
少し考えて話す。
「俺は良くないと思うな。最低限のマナーだろ?」
「……」
「ゲームの中だからって言っても恐怖心は本物だ。聞いたこと無いか? パンテオンの天使はPK嫌いだって」
「知ってる」
「あいつな、友達と一緒にテストに参加してたんだよ。でもその友達が始めていきなりPKされたらしい」
「それで嫌いに?」
「いや、それだけじゃない。その友達はショックでテストを続けるのが怖くなって棄権したんだそうだ」
「え……」
「悪魔転生にしてもそうだ。倫理観にうるさいこのご時世、大人も子供もをキャッチフレーズにしたこのゲームで悪事なんて条件付くわけ無いだろ」
「でもシステム的には……」
「こいつはテストだからな。実際PKはゲーム進行の妨げになるってデータが出てる。製品版では多分禁止、あるいは制限がつくさ」
「そう、だな……」
「実際、悪魔転生の情報はデマだったわけだしな」
「ああ、ホント馬鹿だよな……」
「それと、オレンジを狩りまくった某有名人なんだが……」
ビクリ
3人が反応した。
なるほど、大体読めてきたな。
「あいつがオレンジを狩りまくったのは、そいつらの為でもあったらしいぜ」
「え?」
「ど、どういうことだ?」
「あいつの知り合いに有名な学者さんがいるらしいんだけどな、その人は犯罪プレイは危険だって言ってるらしい」
「危険?」
「ああ、何千人、何万人かに1人、ゲームと現実の区別がつかなくなる奴が出るらしい。普通なら大きな問題は起きないけど、もしそいつがPKだったら?」
「……現実で人を殺すかもしれない」
「軍のVR訓練だって、言っちまえば兵士の心理的な殺しのハードル下げるための物だろ?」
「ああ。聞いたことある」
「ま、そんなわけであいつなりに考えての行動らしいぜ」
あんまり態度には出さないけどな。
この話だって聞かなきゃ話さなかっただろうし。
「で、このサーバーは重犯罪がほぼ無くなった結果、進行速度はトップになったわけだ」
「そして最も遅れているのは第2サーバーか……」
しばらくすると3人は出て行った。
その顔は深い迷いに染まっていた。
さて、教えるべきことは教えた。
後は彼ら次第だな。
いつの間にか、リーダーとしての貫録を身に付けたダムドは3人の背を見送った。
またまた登場の3人組。
ダムドも成長しましたね。




