2つのメダリオン
襲い来るモフリストを振り切った俺は、店から離れた広場に来ていた。
どの道、使い魔も呼ぶので店では狭かったのだ。
さて、リーフ以外の2体誰にするかな……。
「みーつけたー」
〈キュッ!?〉
やはり前衛からか?
アタッカーのネクロス、シザーか?
それとも特殊系のバイトやヴァルカン?
「ん~、モフモフ~」
〈キュウ~……〉
まあ、その内全員に食わせるわけだし。
今回はネクロスとシザーにしとこう。
って、その前に
「ティーアさん、何やってるんです……」
「んー? モフモフだけどー」
「いえ、じゃあ、何でここに?」
「みんなから聞いて探してたのー」
「そうですか……」
わざわざ探したのか。
空中からなら確かに探しやすいが、そこまでするとは。
ん? 魔獣屋にメンバーがいたってことはあきらめてない?
よくまあ、金が続くな。
そろそろ全員に従魔が行き渡るんじゃないのか?
「それはそうと、リーフを離して下さい。フードをあげるんで」
「そうなのー? はいー」
「よしよし、ほら」
〈キュウ!〉 モグモグ
さて、どうなるかな?
するとリーフの体に変化が起きた。
耳と尻尾が大きくなり、体毛は艶を増した。
額の紅玉も色が深くなった。
余談だがカーバンクルの語源はガーネット。
つまり額の紅い宝石はガーネットという事なんだろうか?
ルビーとされる事もあるし、宝石状の器官とされることもある。
まあ、宝石の知識など無い俺にはよくわからんのだが。
ふうむ、能力はどうなったかな?
STはなんと2割増し、最高級フードすげえ。
「もういいでしょー?」
〈キュッ!〉
「あれー!?」
何とリーフの姿が消えてしまった。
これは『ミラージュ・ステルス』か?
スキルまで増えたのか。
モゾモゾとコートに潜り込む感触がした。
「むー、どこー?」
「さあ? その内戻ると思いますが」
ここは黙っておこう。
リーフが女性恐怖症になっても困るし。
ティーアさんはキョロキョロしながら去って行った。
ふう、台風みたいだったな。
やっぱリーフは隠れていた方がいいか。
別に出している時は触っていいと言った覚えは無いんだが……。
暗黙のルールってやつが出来てるらしい。
「コール ネクロス シザー」
出現する2大アタッカー。
周囲のやじ馬が引いている。
俺だって敵だったら怖い。
「じゃ、ネクロスからな」
ガチガチ(咀嚼音)
どこに消えるんだと突っ込みたくなるな。
さて、どうなるかな?
メキ メキ メキ
ネクロスの尾底骨の辺りの骨が伸び、尻尾が形成された。
尻尾は鉄線のように棘だらけで2mはある。
接近戦で強力な武器になりそうだ。
もちろんSTも上昇している。
「次はシザーだな」
ガツガツ
カマキリの捕食シーンって迫力あるよな。
ミシ ミシ ミシ
シザーの甲殻が変形する。
黄金の甲殻は所々に突起が生え、頭にはカブトムシの角が。
右の鎌は鋭利さを増し、左の鎌はノコギリ状になった。
ランス状の前足は突起が3本になりトライデント状に変形。
尻尾の針も槍のように長くなり、麻痺毒液でヌラヌラ光っている。
パワーアップした2体が並ぶと、まさに地獄の門番だ。
ギャラリードン引き。
こいつらいれば第2エリアの大ボス単独撃破できるかもしれん。
今度やってみるか。
じゃ、次は工房だな。
魚を売って金を用意しとこう。
「こんちわー」
「おう、いらっしゃい」
「……」
「ん、どうした?」
いかんな。
普通に対応されたら意外過ぎて固まってしまった。
「こいつでメダリオンを頼む」
「おう、アユか。プラチナだな」
タリスマンとアユを渡す。
「そうだ。新しいメダリオンが開発されたぞ」
「ほうほう、どんな効果なんだ?」
「状態異常耐性のアクセサリがあるだろ。その効果をまとめられるんだ」
何と!それは便利だ。
複数の耐性を持つアクセサリは存在するが、それをさらにまとめられるとは。
俺が持っているのは毒と睡眠と盲目を防ぐ『アゲハ蝶の首飾り』、猛毒と石化と麻痺を防ぐ『バシリスクアミュレット』、混乱と魅了と狂化を防ぐ『鎮魂の勾玉』、魔封と呪いを防ぐ『ハーミット・リング』だ。
まあ、要するに穴は無い。
バッドステータスはソロの天敵だからな。
「じゃあ、これ全部まとめられるか?」
「お前も無茶言ってくれるな……。やってはみるが成功する保証は無いぞ」
「予備はあるからやってくれ」
「解った。色は自由だ。何色が良い?」
「じゃあ、黒で」
そして……
「出来るもんだなあ……」
俺の手には白金と黒、2つのメダリオンがあった。
『プラチナ・メダリオン』と『黒曜のメダリオン』だ。
お代は、まあ、俺は宵越しの金は持たないんだ、ってことにしておこう。
当然、スッカラカンだ。
あ、そういや売れそうな物持ってるな。
「そうだ。これ買わないか?」
「なんだそれは?」
「『キング・クラブ』の甲殻の破片」
「! よし、買おう」
「まいど」
後日、この新メダリオンは目玉商品の1つとなった。
もっとも、素材になるアクセサリを持ちこまないと、値が張り過ぎだったが。
別にバラバラのままでも効果は一緒だったが、何かカッコいいじゃないか。
そんなわけで、俺の首には今2つのメダリオンがぶら下がっている。
……あれ? 何か他に金が必要だった気が?
なんだったっけ?
さて、皆さんは骨な彼を覚えていただろうか。




