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堕天使の苛立ち

第2サーバー、第2の町。


 所属するプレイヤーの大半が犯罪プレイヤーである悪名高い大ギルド「ディアボロス」のホームで、ギルドリーダーのイコンは苛立ちを強めていた。

犯罪プレイヤーが徹底的に駆逐された第3サーバーと違い、第2サーバーは犯罪プレイヤーの勢力が強い。

だから町中にギルドホームがあっても文句は口に出せない。


「くそ、何であんな仲良しごっこしてる連中が……」


 彼にはある目的があり、その為に全プレイヤートップを目指していた。

しかし、第2サーバーは最下位でありトッププレイヤーといわれているのは第3サーバーのプレイヤーだった。


「何であんなコウモリみたいな奴が……」


 そのトッププレイヤーは悪魔(聖魔だったか?)であり、ギルドに所属していないソロプレイヤーだ。

時と場合によって誰とでも組むそのプレイスタイルはイコンからすれば浮浪者だった。


「クソッ! 何で上手くいかない!」


 イコンこと伊藤敬太は秀才と言われる人間だった。

勉強ができ成績は良く、教師からの評判も良かった。

彼は両親の誇りだった。


 専門学校を出た彼は就職し、すぐに頭角を現した。

仕事ができミスも無く、同僚や上司からの評判も良かった。

そして、20代で係長に抜擢され将来の重役候補と言われた。


 全ては順調だった。

結婚もしたし、昇進もした。

1日12時間会社にいる事もあったが、期待に答えようと苦にしなかった。

彼の欠点が露呈し、1人の若者が死ぬまでは。


 管理職となった敬太に仕事を覚えたばかりの部下が付いた。

しかし、そこで敬太の欠点があらわになった。

彼は優秀であり挫折した事がないために、部下の失敗を理解出来なかったのだ。


 なぜ出来ないか、解らない。

解らないという事が解らない。

例えるなら、怪我をした事が無い者に傷の痛みは解らないといったところだろうか。


 彼は1人の会社員としては優秀だった。

しかし、人にものを教える、あるいは人を導くということができない人間だったのだ。

優秀なだけでは人の上に立てない。

それを体現したような人間は、上司や管理職には向いていなかった。


 当然部下は成長しない。

だが、敬太にとってそれは部下の非だった。


 失敗すれば大勢の前でも怒鳴りつけた。

さらし者にすれば懲りると思ったのだ。


 出来ないお前が悪いのだと言った。

反省してやる気を出すと思ったのだ。


 解らなければ深夜まで会社で自主勉強させた。

自分も深夜まで残っているのだから問題ないと思ったのだ。

 

 当然部下は体調を崩し、不眠症となってしまった。

その相談に来た部下に彼は「良く寝て疲れを残すな」とだけ言った。

部下にしてみれば答えにもなっていないが、不眠症を敬太が理解できるはずもなかった。


 半年もすると、部下は感情が希薄になり集中力が無くなった。

うつ病を併発したのだった。

現在は管理職は部下のメンタルヘルス問題の講習などを受け、相応の知識を身につけ、対応する事が義務付けられている。

しかし、とんとん拍子で管理職になった敬太は、本来であれば必須の知識を持っていなかった。

メンタルヘルス方面には興味も無かった。


 周囲も部下の様子がおかしいと感じたが、敬太に対する信頼があだとなった。

彼が、「やる気がないからだ」と言えば周囲はそう思い込んでしまったのだ。

上司への報告も彼の主観で行われた。


 古いタイプの上司は部下を呼び出しパワハラじみた説教をした。

敬太も彼を呼び出し説教を繰り返した。

お前には適性が無いからやめろとまで言った。

それがうつ病患者に対するタブーだと気付かずに。

考えもせずに。


 そして、出来ない事に対する罪悪感と無力感、肉体的、精神的疲労を募らせた部下は自殺した。

会社、そして敬太に宛てた遺書も見つかり、遺族は烈火のごとく怒った。

会社と敬太に合わせて億単位の訴訟を起こした。


 会社は大騒ぎになった。

敬太も上司も部下のためだったと釈明した。

しかし、パワハラじみた言動や部下からのSOSを無視した事実は受け入れられず、会社は敗訴した。


 有能な幹部候補は一転して腫れものとなった。

立場の悪くなった上司は、彼を切り捨て保身に走った。

彼は半ばクビの様な形で会社を去ることになった。

多額の慰謝料が原因で妻とも離婚した。


 彼は全てを失った。

だが、どこで何を間違えたのか理解できなかった。

自分に非があるとは思えなかったのだ。


 そんな時、RWOのβテストの話が耳に入った。

VR技術は様々な分野でシミュレーションとして活用されている。

プロのテスターは高待遇だ。


 これだ、と敬太は思った。

思うようにならない現実より、仮想現実で自分の優秀さを証明してやろうと思った。

VR技術会社への最高の自己アピールになると考えた。

事実RWOのスポンサーには、優秀な参加者をスカウトしようとする動きがあった。


 そして運は彼に味方し、βテストの権利と天使という初期種族を手にした。

後は貢献度でトップを取るのみ。

自分のためだけに動き始めた秀才は、倫理などたやすく踏み越える。

彼は自分を強化すると同時に、他者の足を引っ張りトップに上ろうと考えたのだ。


 

現実にありそうな話。


ゲームで中傷された電脳の天才と現実で挫折した秀才。

対照的ですね。


次はゲーム内での話。

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