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神話の戦い

 スキル『悪魔化』。それは正真正銘最後の切り札。

スキル起動と共に情報が流れ込む。


 悪魔化は一度発動するとゲーム内で1週間以上のクールタイムが必要となる。

そして、クールタイム中の使い魔たちの戦闘経験によって次回の悪魔化時の能力が増減する。

今の俺は溜め込まれていた戦闘データによって爆発的にSTが上昇している。


 さらに体を包む黒いオーラ『暗黒の加護』は一定以下のダメージを無効化し、全状態異常も無効化する。

おまけに攻撃にHP吸収ドレイン効果を与えるというすさまじい特殊能力だ。


 もちろんデメリットもある。

変身中は専用の特殊能力以外は魔法も技も使えない。

『悪魔化』の効果時間は10分しかなく使用後はクールタイムが必要だ。

倒された使い魔は1日呼び出せないので、効果が切れたら今度こそ終わりだ。


 だが、これだけのパワーとスピードなら小細工は不要。

真っ向勝負でも押し切ってやる。


 咆哮を上げて邪竜に襲いかかる。

顔面に拳を叩き込み、よろめいたところにさらにひざ蹴り。

とどめにヘッドバットをブチ込むと邪竜の頭が床に叩きつけられ轟音が響いた。


 追撃を加えようとするが尻尾による足払いが来た。


ブオン


 翼を広げ飛び上がってかわす。

さらに背中にのしかかり、馬乗りになった。


ザグッ


ズバッ


〈ギャァアアアア〉


 両手の鉤爪で翼を引き裂くと邪竜は絶叫を上げてのたうった。

体格とパワーは向こうが上だがまともに食らわなければダメージは少ない。

その少ないダメージは黒いオーラに防がれ、むしろドレインでHPは回復していく。


 振り下ろされる爪を手首を掴んで止め、逆に握りつぶす。

そのまま捻り上げようとするがパワーで勝る邪竜は振りほどく。

直後、邪竜が一度距離を取りタックルをかます。


ズズン


 真っ向から受け止めると床にヒビが入りそのまま押される。

壁に叩きつける気か。

俺は蛇の尻尾から猛毒のブレスを邪竜の顔面に浴びせた。


〈グギャアア〉


 さすがに毒にはならないようだが視界を塞がれた邪竜の突進が止まる。

悶える邪竜の腹を蹴り上げ、浮いたところを逆にタックルをぶちかます。

邪竜の前足が片方おかしな方向に曲がった。

折れたようだ。


 爪が振るわれ牙が食い込み、野獣の様な攻防が続き、邪竜のHPはどんどん減っていく。

HP的には優位だが制限時間がある俺にも余裕は無い。

振り回された尻尾を逆に掴みジャイアントスイングの様にブン回す。


ガゴォォォ


 頭から床に叩きつけられた邪竜はすぐには動けない。

ここで決める。

一回の変身で一度しか使えない『デーモン・ブレス』の発射態勢に入る。


 だが、デーモン・ブレスを放つ直前に邪竜が起き上った。

その口からは炎が漏れている。ブレスだ。

相討ち覚悟か。こっちも今さら止まれない。


 そしてお互いのブレスが放たれる、直前に邪竜の側頭部で白い閃光が弾けた。

邪竜はバランスを崩し炎は見当違いの方向へ飛んでいく。

そしてデーモン・ブレスは邪竜の胸部に直撃しHPを削りきった。


___________________________


 ボス部屋から退却したレイドパーティは満身創痍だった。

点呼を取るが20人近く足りない。

そしてその中には……


「フィオさんは?」


「殿に残って邪竜の足止めを……」


「まだ戻らないってことは、まさか」


 最強プレイヤーの未帰還に意気消沈するメンバー。

しかし、


〈グガァァアアア〉


「!?」


「今のは?」


「邪竜じゃないぞ」


 困惑するプレイヤー達。

さらに


〈ギャァァアアア〉


「おい、これは……」


「ああ、邪竜だ」


「悲鳴だよな?」


 あの邪竜が悲鳴? 最早わけが解らない。

だが、プレイヤー達はフラフラとボス部屋に向かって歩き出す。

表現できない予感を胸に。

そしてボス部屋にたどり着いた彼らは目にした。


 神話の戦いを。


 赤いオーラを纏う邪竜と戦うのは黒いオーラを纏う悪魔。

物語や伝説の様な光景に誰もが言葉を失いポカンとしている。

戦いは悪魔がやや優勢。


 邪竜をブン投げた悪魔がブレスの体勢に入る。

邪竜も負けじとブレスを放とうとする。

次の瞬間、部屋の壁際から白い光線が放たれ邪竜の側頭部に直撃した。

よろめいた邪竜に悪魔のブレスが直撃し、ついに邪竜は力尽きた。


 膨大な経験値とアイテムが流れ込んできた。

しかし、プレイヤー達は放心したように動けない。

部屋の隅から、先ほどの光線を放ったのであろう緑色の小動物が悪魔に向かって走り寄る。


 悪魔から黒いオーラが柱のように立ち上り、やがて消えた。

そこには、槍を持った1人のプレイヤーが座り込んでいた。


____________________________


〈キュイ キュイ〉


 走り寄ってきたリーフが必死にヒールをかける。

悪魔化が解けると俺のHPは再びレッドゾーンになっていたのだ。

正直ギリギリだった。

後10秒粘られたら時間切れだっただろう。

高揚して制限時間をよく見ていなかった……。

リーフの援護がなければ相討ちだったかもしれない。


 アナウンスに目をやる。


MVP報酬『ドラゴン・バスターの称号』が贈られます。


フィオは『悪魔王デーモン・ロード』にランクアップしました。


『使い魔』の使役数が12体になりました。


使い魔がランクアップしました。


『使い魔』の召喚コストが0になりました。


『全状態異常耐性UP』のスキルを習得しました。


 ついに魔王か。

そして、報酬は称号? 竜関連か?

そんな事を考えているとさらにアナウンスは続く。


プレイヤーのプレイログチェック 完了。


一定以上の期間のカルマポイント低値を確認。


プレイヤー依頼のクエストの基準数以上の受注およびクリア確認。


フィオの種族は『聖魔ディバイン・デーモン』に変更されました。


 ……なんかもうお腹一杯だ。

さて、何からどう説明しようかな。

入り口で呆然とするプレイヤー達を見て思わずため息が出た。


 リーフのお披露目も決定だな。


〈キュイ?〉


肩の上の相棒は不思議そうに首をかしげた。


 

なんかラストバトルみたいになってしまった。


そして良いところを持っていくリーフであった。

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