初探索 沼編
「ここも気味が悪いとこだな……」
死霊の森から逃げ去った俺は、今度は淀みの沼に来ていた。
今までのゲームを遥かに超えるグラフィックのおかげで、気味の悪さも倍増だ。
下水道みたいな臭いまでリアルに再現されている。
「敵がいないな」
森は入るとすぐにアンデッドがうろついていた。
ただし、それほど好戦的ではなく、手を出したり近づきすぎなければフラフラしているだけだった。
シャドウウルフは例外だろう。
「お、何かいるじゃん」
沼の中には魚やエビ、蛙といった生き物がいた。
浅い部分は意外に澄んでいて中が見えるのだ。
網でもあれば捕れそうだ。
売れるかな?
「ん? あれは……」
沼の上を光がふわふわ飛んでいる。
名前は『ウィスプ』、精霊系か。
ゴーストかと思って身構えてしまった。
こいつも攻撃的なモンスターではないらしい。
まあ、序盤だしな。
水の上だしほっとこう。
素材を集めながら進んで行くと、ようやくモンスターが襲ってきた。
1mくらいの蛇『ポイズンスネーク』だ。
名前から毒持ちであることがわかる。
そして、これが槍を選んだ理由でもある。
ソロプレイヤーにとって状態異常は致命的だ。
序盤は薬代も負担が大きい。
長柄の武器を使えば近づかずに戦えるので、直接的な状態異常攻撃を受けにくいのだ。
まあ、ブランクもあったし安全に戦える武器にしたってことだ。
いざ、勝負。
「……結構苦戦したな」
が、小さい蛇を槍で突くのは結構面倒だった。
突き技のスラストが当て難いので、薙ぎ払いで少しずつ削って倒した。
技じゃないとダメージが小さいのは初期だから仕方ない。
少し考え、一度引き返すことにした。
初遭遇した敵が毒持ちってことは結構な驚きだったのだ。
普通は最初のフィールドに毒持ちの敵なんていない。
出口に向かおうと振り向くと
「おいおい、勘弁してくれよ……」
自分の歩いてきた道は、沼から這い上がってきた『グリーンスライム』だらけになっていた。
とりあえず一番近くにいたスライムに槍を突きこんでみる。
しかし大して効いた様子はない。
HPバーの減少は微々たるもの。
これは……
「物理耐性持ちか? 冗談じゃねえぞ……」
スライムは、ゲームによって扱いの違うモンスターだ。
雑魚の代名詞として扱われることが多いが、ものによっては物理耐性、HP吸収、分裂など面倒な能力を持つ厄介な敵として登場する。
そしてRWOのスライムは後者らしい。
「温存とか言ってられないな」
幸いそれほど攻撃的ではないようで、他のスライムが近づいてくる様子は無い。
一体ずつ始末していけば突破できそうだ。
「定番の弱点は火かな? 【ファイアーバレット】!」
ジュッ
スライムのHPが一気に減る。
当たりだ。
もう一発打ち込んで止めを刺す。
「MP足りるかな……」
心配しつつ、道を塞ぐ次のスライムに向って歩き出した。
「結果、足りませんでした……」
俺は大ピンチを迎えていた。
MPが切れただけでなく武器を失ったのだ。
スライムの攻撃は体当たりと体を変形させた触手だけなのだが、狭い足場で戦う内に2匹に挟まれたのだ。
前後から攻められ、ついに回避し損ねた触手を槍の柄で受けた時、ジュウという音と共に柄は溶けた。
全て避けていたので気付かなかったが、スライムの体液は酸のようなものらしい。
石の穂先は耐えられても、木の柄は耐えられなかったようだ。
いや、もしかすると森からの連戦で武器自体の耐久度が落ちていたのかもしれない。
一回町に戻れば良かったな……。
なんとか倒したが魔法は打ち止め。
スライムはまだ10匹はいる。
さて、どうするか……。
まあ、武器も魔法も駄目なら道具しかないよな。
「なんか使えそうなのはなかったかな……」
アイテムを漁っていると、あることを思いついた。
RWOを開発した複数のゲーム会社。
そこが販売しているゲームは当然見たことがある。
ならばこの手が使えるはず。
「ほーら、餌だぞ~」
俺はアイテムボックスからあるものを取り出し、群れの中に放り込んだ。
すると効果は抜群。
スライム達は餌へと群がり道が開いた。
「今だ!」
俺は一気に駆け抜け窮地を脱した。
餌の正体はゾンビの落とした腐肉である。
あるゲームでは、食材でモンスターの気を引くことができたので、もしかしたらと考えたのだ。
「ふう、新しい装備買わないとだな……」
素材も売って金にしよう。
ダメージはゼロだが装備的に、精神的にボロボロに追いつめられた俺は町へと引き返した。




