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雪原攻略 前半

 雪原攻略のために集まったレイドメンバーが吹雪の中を行軍する。

主導するのは『パンテオン』と『ティルナノグ』だ。


 今回の戦いの問題点は足場の悪さ。

ただでさえ巨大なアイスマンモスの突進は避けにくいのに、膝まである雪が動きを阻害する。

雪の下も氷で滑りやすい。

この最悪の戦場で如何に戦闘を有利に運ぶか、何度も話し合われた。


「もうすぐです。皆さん準備はいいですね?」


 先頭を歩くルーシアの声も緊張している。

当然だろう。彼女も何度も調査に参加したのだから。

あの怪物の恐ろしさはよく解っているはずだ。

そして遂に俺達は大ボスの戦闘エリアへと侵入した。


 吹雪の向こうに巨大な影が見える。

ズン、ズン、という音と共にゆっくりと近づいてくる。

現れたのはまるで動く氷山。

全身に氷柱を生やした巨象『アイスマンモス』がレイドパーティを睨んでいた。


「突進が来るぞ!」


〈プオオオオン〉


 言うが早いか咆哮を上げたアイスマンモスは一直線に突っ込んでくる。

その進路上に明かりを灯すマジックアイテムが投げられた。

作戦開始だ。

20名近い魔法使いと、俺の使い魔が奴の正面に立つ。

そしてマジックアイテム目がけて一斉に魔法を放った。


「「【バーンアウト】」」


「「「「【ファイアブラスト】」」」」


 放たれた無数の火炎魔法は雪原の雪を蒸発させ、その下の氷を溶かした。

その結果、完成したのは巨大な落とし穴だった。

マンモスが相手なら、と歴史好きのプレイヤーが出した案だが有効と判断され、今実現した。

そして、アイスマンモスは急停止できず落とし穴に突っ込んだ。


ドゴオォォォォ


 地震の様な揺れと共にアイスマンモスの動きが止まった。

下半身が完全に埋まっている。

巨体が災いし脱出どころかまともに動けないようだ。


「攻撃開始!」


 前衛達が突撃する。

俺はMPが切れるまでティーアさん率いる魔法部隊に参加する。

使い魔たちも同様だ。

ハウルは炎弾を吐き、プルートは火球を放つ。

ヴァルカンは高温ガスを収束し打ち出す。


 もちろんアイスマンモスも黙っていない。

鼻から氷のブレスを放ち、全身の氷柱をミサイルの様に打ち出す。

耳や鼻、牙で殴られれば大ダメージだ。

なにせパワーがでたらめなのだ。


 レイピアを片手にルーシアが突っ込む。

彼女に従う『パンテオン』メンバーの内、ハイドさんを含む6人の頭に光輪が浮かんでいる。

これがパーティメンバーに強力な補助をかける天使のスキル『使徒化』か。

アークエンジェルからパワーにランクアップしたことで、同時に6人にかけられるらしい。


 余談だが天使はアークエンジェルの後プリンシパリティ、パワー、ヴァーチャーの3つの内のどれかにランクアップするそうだ。

レイピアを使う前衛のルーシアはその中のパワーになったという。

ハイ・エルフとダーク・エルフみたいなものだろう。


 暴れまわるアイスマンモスの鼻と耳と牙を6人の壁役が必死に防ぐ。

その間にも打ち上げられた氷柱は後衛にまで飛んでくる。

動きを封じてもこれか。まったくとんでもないな。


 MPの切れた俺はそのまま前衛に参加する。

後ろから魔法が飛んでくるがダメージはほとんど0だ。

システム上、攻撃はまず相手をターゲットとして認識することから始まる。

認識していない相手への巻き添えや誤射は、ダメージが極めて小さくオレンジにもならない。

武器にしても乱戦で偶然当たったくらいなら誤射扱いだ。

逆に言えばオレンジ、レッドのプレイヤーは明確に狙って攻撃を加えた者達なのだ。


 つまりはエフェクトで見にくいなどのデメリットはあるが、魔法の誤射や巻き添えはそれほど問題にはならないのだ。

俺も気にせず接近する。

しかし、既にボスは戦闘ロジックを切り替えたようだ。

全身の氷柱による攻撃に重点を置き、こちらが対処できないほどの数を打ち出す作戦に変えたようだ。

まさに槍の雨だ安全地帯がほとんど無い。


「プルート! 上空の氷柱を壊せ!」


 プルートは即座に飛び上がり炎を纏った鎌で氷柱を打ち砕く。


「ハウル、ヴァルカンは魔法部隊に飛んでくる氷柱を迎撃しろ!」


 これで攻撃に力が裂けるといいんだが。

と、それより盾役が限界だ。交代しようかね。


「おい! 一度回復に下がれ、鼻は俺が抑える!」


「解った。すまん」


ゴォ


ズドォ


 丸太のような鼻をさばき、そらす。

しかし、完全に受け流したはずなのにこの衝撃。

槍が折れるのが先か、握力を失うのが先か。

後ろではアタッカー達が必死に攻撃を加えている。


ブオン  ドコッ


「グゥ……」


 少し離れたところでは他の壁役が、立てた自動車の様な耳の一撃を大盾で防いでいる。

だが、1人ではないからしばらくは持つだろう。

上空からの氷柱もプルートが叩き落としているのでまばらだ。

MPの回復が終わった様で、火炎魔法の爆撃が開始されるとボスは前衛に集中できなくなってきた。

隙を見逃すメンバーではない。

ここぞとばかりに攻める。

うん、そろそろ壁役交代してほしい。

さっきまで2人で鼻相手してたのに、なんで今俺1人なの? へループ!


 じりじりとボスの体力は減っていく。

もう少しで3分の1ってとこだ。

ふと気付くとMPは5割ほどまで回復していた。

このクソ象め、いたぶってくれたおかえしをしてやる。


ブオン


ガスッ


 相変わらず単調に振り下ろされた鼻。

だが今回は


「地獄を見やがれ【バーンアウト】」


ボボン!


〈プルグアァァァァァ〉


 やってやったぞ!

あの面倒な鼻の穴に火属性最上級魔法をブチ込んでやったぞ。

今まで吹雪を撒き散らしていた鼻から黒い煙を吐き出して悶えている。

さすがに効いただろ、一歩間違うとこっちが凍るか殴られてたけど。


「あれ?」


「氷柱が消えたぞ」


「こいつ、うつむいて何やってんだ?」


 突然アイスマンモスがうずくまるようになり、全身の氷柱も消えたのだ。

まだHPは3割はあるのに何のつもりだ?

不思議には思うが攻撃の手は休めない。

しかし、ついに1人が気付く。


「こいつ、腹の下に氷柱を!」


「なに?」


「離れろ!」


ボッ


バシュゥゥゥゥ


ズドォン


 なんとアイスマンモスは腹の下全面に氷柱を集め、一気に発射することでその推進力を以て飛び上がったのだ。

着地でダメージを受けるなど覚悟の上で死地から脱出して見せたのだ。

残りHPは2割ほど。

しかし、真正面から戦って削りきれるのか?


 しかし、メンバーの目は死んでいない。

2の手、3の手を用意するなど当たり前。

全員がプランAの終了と共にプランBの準備をする。

とはいえ危険度で言えばさっきまでとは比べ物にならないくらい危険だ。


「魔法部隊火属性中級魔法用意ー」


「前衛部隊アメンボの指輪装備!」


 さあ、作戦プランB発動だ。



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