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格の差

「後ろでコソコソ? 彼らは前線ギリギリに補給ポイントを設置していたんですよ」


「うるせえ、なにがトップギルドだ!」


「あなた方も彼らに助けられたんでしょう?」


「偉そうなことほざくな! てめえら何様だ!」


「考え無しに突っ込んで、被害を拡大させたあなた達が彼らより貢献したとでも?」


 ……おっかねえ。

普段穏やかな人ほど怒ると怖いってホントなんだな。


 怒りに燃えるレイさんは、しかし冷静にクリフを追い詰めていく。

理路整然と話すレイさんに対し、クリフは支離滅裂に喚いている。


 『ワイルドブレイク』の連中もさすがに引きはじめた。

と、その時クリフと俺の目が合った。

うわ、嫌な予感。


「てめえ! てめえが余計な事したせいで……」


「フィオ君達が駆けつけなければ、南は落ちていたはずですよ」


「てめえには言ってねえんだよ! 黙ってろ!」


「……ふぅ」


 処置無しといった感じにレイさんが首を振る。

そのままクリフはこっちに来た。


「てめえ……、悪魔なんだって?」


「ああ、そうだが?」


 俺はフードを外す。

浅黒い肌に黒髪黒眼、『魔眼』スキルによって目には紫の魔法陣が浮いている。


「ふん、何がサーバー最強だ。運が良かっただけだろうが」


 まあ、運の良さは否定しない。

しかし、実のところST自体は上位種族と大差は無い。

戦闘に特化したスキル成長と『使い魔』が強さの秘密である事は否定しないが。


「どうせ仲間モンスターに頼りきりなんだろ」


 そのセリフに場が呆れに包まれる。


「知らないって怖いな……」


「さっきの戦闘で何見てたんだろ」


「見てる余裕なかったか、節穴なんだろ」


 ヒソヒソと聞こえる声にますますヒートアップするクリフ。


「転生条件見つけたのも俺なんだけどね」


 だから堂々と種族を明かすことができた。


「あれが正しいって証拠がどこにある!」


「このクエストが証拠じゃないか」


 結局こいつは何がしたいんだ。

賞品が欲しいのか?


「あー、そうだ。俺の好みの賞品無かったからお前らにやるよ。それでいいんだろ?」


「な?!」


 クリフが真っ赤な顔のまま口をパクパクさせる。

周りからの視線はもはや絶対零度だ。


「……見下しやがって!」


「原因はそっちにあると思うけどな」


 もう、相手するのが疲れてきた。

口調も投げやりになっていく。

元々クエスト中の一件から印象は最悪だったのだ。


「一目置かれたいなら、こんな所でからんでないで結果出せばいいだろ」


「黙れ……」


「それこそ悪魔転生にチャレンジすればいいだろ?」


 そうだよ、何でこいつらチャレンジしないんだよ。

んー、ああ、そうか。


「攻略情報が無いと不安か? なら今度情報サイトに……「だ・ま・れぇー!」」


 遂にブチ切れたクリフはバトルアックスを大上段に構えて突進してきた。

周囲から悲鳴とどよめきが上がる。

クエストによって今の町は戦闘フィールド扱いなのだ。


 おいおい、デュエルじゃないんかい。

犯罪プレイヤーになっちまうぞ。


「くたばれぇ、くそがぁぁぁ!」


 レイさんは額に手を当てている。

ダムドはやっちまえと目で訴えている(気がする)。

ティーアさんはじゃれつく子犬を見るように楽しげに見ている。

ルーシアは絞められる前の鶏に向けるような眼でクリフを見ている。

よし、反対者はゼロだ。


 確かに速い。

STはトップギルドのメンバーと大差ないだろう。

だが


「単純なんだよ。イノシシ野郎」


ブオン


ドガッ


 振り下ろされたバトルアックスを半身になってかわす。

わざと切らせた髪が数本、宙を舞う。

HPは減らないが攻撃はヒットしたことになる。

クリフのカーソルがオレンジに変わった。


ズン


「があっ!」


________________________________________


 プレイヤー達は見た。

フィオの左手にいつの間にか握られていた短剣が、鎧の隙間を縫ってクリフに突きたてられているのを。

短剣は現実でいえば肝臓を貫き、腸を引き裂き、膵臓を抉っていた。

攻撃を受けた部位によってダメージは変わる。


 そしてこれは急所を狙った完璧なクリティカル。

あの一瞬で狙えるものなのか?

クリフのHPが一気に8割も失われた。


 短剣が引き抜かれフィオは離れる。

クリフは信じられないと言った目でフィオを見ている。

彼は主武器の槍も魔法も使われずに敗北したのだから。


_______________________________________


「これは『ロトン・ダガー』っていって、ダマスカスの毒短剣だ」


 クリフのHPバーは紫になり、徐々に減り続けている。


「そのままだと死ぬよ? オレンジペナルティは痛いぜ」


 クリフは慌てて毒消しを取り出そうとして気付く。

アイテムはすべて使い果たしていることを。

ギルドメンバーに目をやるが首を振られる。

彼らもアイテム切れの、MP切れなのだ。


 どうしてこうなった?

怒りの冷めたクリフの頭の中を、疑問と後悔が埋め尽くす。

その考えがまとまる前に彼の体はポリゴンとなって爆散した。



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