南の戦線
町に侵入したモンスターを撃破しながら駆けまわる。
中央付近で悲鳴を耳にする。
そちらに向かうと4人パーティがリーパーと戦闘中だった。
空中からの攻撃に苦戦している。
「一度離れろ!」
叫ぶと同時に跳躍し、屋根を蹴ってさらに跳ぶ。
そしてリーパーの乗る蛇に槍を突き出す。
リーパーもさせじと鎌で防ごうとするが、それはフェイント。
バトンのように槍をくるりと回し石突きで本体のローブを狙う。
「【グランドスイング】!」
ゴッ
リーパーは直撃をくらい地面に落ちる。
「今だ!」
声をかけると4人はすぐにリーパーを囲んで攻撃を開始する。
蛇をベルクが仕留めるが武器や防具扱いらしくHPは減らない。
だが、地上に落ちたリーパーは戦闘力が半減する。
それ以上援護する必要もなく倒された。
「ありがとうございます」
「いや、このクエストではみんながチームみたいなもんだ。気にしないでくれ」
「はい。でも感謝ですよ」
「それより、あそこの補給基地に行くといい」
「何かあるんですか?」
「ああ。職人プレイヤーが『ネットボール』ってアイテムを配布している。リーパーを地上に引きずり下ろすための道具だ」
「そんなものが……」
4人と別れ再び町中を駆け回る。
まだ戦闘は始まったばかりだ。
「なんだか敵が増えてきてるな……」
「そういえば……」
町の上空を飛びまわる敵の数が明らかに増えている。
だが、北、西、東からの増援要請は無い。
「南か」
「心配してた通りですね」
「いまさらだ。とりあえず100人ほどで様子を見よう」
「危なかったら順次増員ですね」
「俺は先行します」
言い残してベルクに乗り、南へ向かう。
遊撃部隊を削りすぎれば今度は町中の敵が野放しになる。
まずは状況を確認しなければ。
「これは……」
状況は予想より悪かった。
地上のアンデッドの侵入は防いでいるが、空中の敵にはもう対応できていない。
門もどれだけ持つかわからない。
「何をやっているんだよ……」
空中には10体以上のリーパーが飛び回り、プレイヤー達は完全に翻弄されている。
人数から考えてもかなりの数のプレイヤーがやられた後だろう。
俺はベルクから飛び降り、指揮官らしいプレイヤーに詰め寄る。
「何で増援要請をしない! それ以前にこの適当な戦い方はなんだ!」
本来、役割分担をし組織立って戦闘しなければならない状況だ。
だが、彼らは皆自分勝手に戦い各個撃破されている。
考え無しで力任せな戦い方、これでは敵の方がまだ統制が取れている。
「うるさい! トップギルドどもの力は借りない!」
「そんなこと言ってる場合か! このままじゃ持たないぞ!」
「黙れ! 俺たちだってやれるんだ!」
「戦っているのはお前たちだけじゃないんだぞ!」
「知ったことか!」
「……もういい」
最悪だ。
こいつらは自分達の見栄に、他のプレイヤーを巻き込もうとしている。
その根底にあるのはおそらくトップギルドへの劣等感だろう。
開始時からトッププレイヤーだった俺には奴らの気持ちなんて解らない。
だが、こいつらのやり方は間違っている。
俺は町中に設置されている通信ポイントに駆け込み北、東、西、遊撃、全部隊に通信を送った。
「緊急通信。こちら遊撃部隊のフィオ。南は陥落寸前だ。連中は拒絶しているが増援を送らなければ確実に落ちる。防衛に影響の無い範囲で人員を回した方がいい。それと、北門のギアを南門に回す」
通信を終え、南門に戻る。
ちょうど100人の増援が到着しリーパー達を次々に倒していく。
突然の増援と、その鮮やかな戦いぶりに南門のプレイヤー達が呆然とする。
100人はみなトップクラスの実力者だ、弱いわけがない。
しかし、多勢に無勢。万単位のアンデッドを前に門が軋む。
俺は門の上に立ち、切り札を1枚切る。
「行くぞ!【バーンアウト】!」
火属性最上級広域魔法【バーンアウト】俺のMPの3割を消費する大技だ。
そして、一時的に敵がいなくなった門の前に飛び降りる。
「コール フェイ ギア」
町の上空で戦っていたフェイと、北門を守っていたギアを呼び寄せる。
「そう簡単には通さないぞ」
そして俺も押し寄せるアンデッドたちに槍を向けた。




