資格と試練
黒の遺跡前半には『インプ』などの悪魔系モンスターや『レッドキャップ』などの鬼系モンスターが現れる。
どちらかというと質より量で、奇襲を得意としている。
人が来ないためモンスターが溜まっており、駆除に少し時間がかかった。
ハウルとリンクスが周囲を警戒し、俺は怪しいところを調べていく。
しばらくして俺は壁に妙なものを見つけた。
「魔法陣?」
壁には円の中に星型という典型的な魔法陣が2つ刻まれていた。
ありがちな模様だが星の角と線の交点、計10ヶ所に黒い宝玉がはまっている。
それが2つ。怪しい。
調べてみようと手を触れると黒い宝玉の一つに赤い光が灯った。
光は徐々に増えてゆき遂に10の宝玉全てが赤く光った。
もう1つの魔法陣にも触れてみると、同じように光が灯っていく。
そして20の宝玉に光が灯ると魔法陣全体が輝き、壁に人が1人通れるくらいの転移魔法陣が現れた。
「当たりか。でもこんな目立つ仕掛け、今まで誰も気づかなかったのか?」
不思議に思いつつ転移魔法陣を起動した。
そこは例えるなら教会の中だった。
ただし、雰囲気は正反対。
名称は『黒の祭壇』。
ここの神様は邪神とか暗黒神とかそういうたぐいの神だろう。
そんなことを考えていると声が響いた。
〈20の強き魔を己が力のみで打ち破りし者よ……〉
20の強き魔? ボスか?
己が力のみ……。そうか! そういうことか!
さっきの仕掛けを動かす条件は20体以上のボスの単独撃破だ。
これは確かに俺以外いないだろう。
〈汝、さらなる力を望むか?〉
「望む」
〈それが闇の力であったとしてもか?〉
「かまわない」
〈ならば、その力を持って資格を得るがいい〉
声が消えると祭壇の中心に魔法陣が現れ、そこから黒い闇が吹きあがる。
そして、その中から現れたのは
「『グレーター・デーモン』かよ……」
ヤギの頭と下半身、蛇の尾に蝙蝠の翼。
腕には鋭い鉤爪を持った典型的な悪魔が咆哮を上げた。
「コール ネクロス ギア」
転移時に使い魔たちが消えていたので新たに呼び出す。
しかし
「呼べない?」
何の反応もない。
「なるほど。正真正銘、自分の力だけでってことかよ」
思えば久しぶりのタイマンだ。
相手の大きさは3mほど。
第1エリアボス『ガーゴイル』に近い。
爪の攻撃はかわせるが尻尾は面倒だ。
「そらっ!」
ザシュ
突進を回避し尻尾を狙う。
幾度かの攻防で尻尾を切り落とす。
〈グガアアアア〉
グレーター・デーモンが翼を広げて飛び上がる。
だが、この狭い祭壇では飛行能力は生かしきれない。
壁を蹴ってジャンプし奴の上を取る。
「【ファイアブラスト】!」
〈グガッ〉
「【サンダーブラスト】!」
〈ガグッ〉
「【ガイアランス】!」
〈グギャアアアア〉
隙を逃さず上級魔法の三連発。
さすがにだいぶ効いたようだがMPの消費も激しい。
1人ではMPポーションを使う暇がないからな。
「そろそろ、くたばれよ……」
かなり追いつめたのだが、とたんに奴は防御に専念しカウンターを狙いだした。
くそ、やりにくい。俺自身がカウンタータイプだからな。
こうなれば力押しだ。
「【アイスブラスト】!」
魔法と同時に駆け出す。
吹雪を隠れ蓑に接近する。
距離があったので奴は直撃を回避する。
しかし、十分だ。
「【マルチスラスト】!」
スキルに応じて増加する連続突きが胸部を捉える。
しかし、僅かにHPが残った。
爪によるカウンターを避けるため後ろに飛ぶ。
だが、
「ブレス?!」
大きく息を吸い込んで放たれる【デーモンブレス】。
体勢の崩れた俺は回避できない。
防御魔法も間に合わない。
しかし、グレーター・デーモンは大きく目を見開き驚愕した。
突然、光のヴェールが現れデーモンブレスを防いだのだ。
「【エアロブラスト】!」
直後に放たれた魔法がグレーター・デーモンのHPを削りきった。
「悪いな。本当は1対1じゃなかったんだよ」
〈キュイ〉
フードからリーフが顔を出し得意げに胸を張った。




