酒場にて
その日、俺は攻略会議までの時間を酒場で過ごしていた。
といっても飲んでるわけではない。
素材やアイテムの整理をしていたのだ。
「アメンボの指輪があんなに役に立つとはね」
先日のバトルを思い出し呟く。
真昼間なので客は少ない。
しかし、数少ない客の会話が耳に入った。
おそらく中堅クラスのプレイヤー達だ。
「湖が『パンテオン』に攻略されたらしいな」
「あそこの大ボスってデカイ水竜なんだろ? よく倒したな」
「なんでも水上移動のアクセサリーを大量に複製したらしいぜ」
「さすがトップギルド。用意周到だねえ」
大ボス戦は調査と準備がものをいう。
戦う前に勝敗の半分は決まっていると言ってもいいのだ。
「そういや、昨日『戦獣騎士団』と『ワイルドブレイク』も大ボス攻略に行ったらしいぜ」
「へえ、場所は?」
「火山。あそこの大ボスは『フレイムワイバーン』だったっけ」
フレイムワイバーンは強靭な牙と爪、そして尾の毒針が武器で炎まで吐く強敵だ。
しかし、最も厄介なのはその飛行能力だろう。
「で、結果はどうだったんだ?」
「ぼろ負けだと。上級魔法のオーブ山ほど持って行ったらしいけどな」
「おいおい、大損じゃねえか。ギルドの運営にも影響出るぞ」
大方、飛んでいるボスをオーブで撃ち落とそうとしたんだろう。
だが、フレイムワイバーンは魔法防御力が高い。
そしてオーブの威力は魔法を込めた術者ではなく使用者の影響を受ける。
半端な実力者が打ち込んでもレジストされて終わりだろう。
完全な調査不足だ。
正しい戦術としてはこちらも飛行可能な種族をそろえるか、拘束系魔法で拘束し地面に引きずり下ろすといったところか。
「今はデスぺナと損失を取り返そうと必死みたいだぜ」
「つーか、そんなにオーブ買ったら勝っても損じゃね?」
「俺に言うなよ」
「そりゃそうか」
彼ら上位ギルドがトップギルドより一段低く見られがちなのは、時折彼らが考え無しとしか思えない行動をとるからだ。
その理由はひとえに経験不足。
彼らは攻略情報を見て、そのマニュアル通りに戦い急速に力をつけた。
装備やステータスではトップギルドと大差は無いだろう。
だが、彼らは調査し、研究し、自分で作戦を立てる、といったことをしたことがない。
だから未知の敵と戦う時、勢いで、力押しで、あるいは的外れな戦法で戦ってしまうのだ。
トップギルドのつけた道を通っているだけでは、どんなに近づいても並ぶことはできない。
ましてや超えることなどできない。
それに気づかない限り彼らは『上位ギルド』のままなのだ。
「っと、そろそろか」
俺は酒場を後にして会議の会場へ向かった。
2日後『ティルナノグ』主導の元レイドパーティが組まれ、火山の大ボス『フレイムワイバーン』は討伐された。




