砂漠にて
空に輝く月と星は、ここがゲームの中である事を忘れるほど綺麗だ。
俺は今、レイドメンバーの一人として砂漠の後半を歩いていた。
時刻は夜。
通常なら避ける時間帯だが今回はあえて夜に挑む。
主導するギルドは『血の棺』と『ビーストロア』。
この日のために入念な調査と準備を行ってきた。
「この先ですね」
「みんな準備はいいか?」
レイさんとダムドが確認をとる。
砂漠の大ボスは『サンドウォーム』体長20mはある大イモムシだ。
こいつは地中を移動し攻撃の時しか姿を現さない。
しかし、対策は考えてある。
「では、行きましょう」
こうして初の大ボス攻略が始まった。
サンドウォームには攻撃魔法が効きにくい。
だが、今回のレイドパーティには魔法使いが20人近く参加している。
すべては作戦通りだ。
「頼む。フェイ」
フェイがフィールドの中央に向かいマジックアイテム「集魔の鐘」を鳴らす。
これは本来、前衛が敵の注意を引きつけるために使うアイテムだが今回は地中のボスをおびき出すために使う。
ゴゴゴゴゴゴ
地響きが近づき、フェイの真下から巨大なサンドウォームが飛び出した。
「今だ!」
合図と共にレイさんと、彼の『眷属化』スキルによりヴァンパイアとなった3人の仲間が種族固有スキル【ヘルファイア】を打ち込んだ。
ヘルファイアはダメージは大きくないが、受けた敵を火ダルマ状態にする追加効果がある。
そして、MPを消費し続けるが解除しない限り敵を焼き続けるのだ。
〈キュアアアアア〉
サンドウォームは絶叫を上げて砂に潜る。
だが、
「よし。予想通りよくわかるぞ!」
ヘルファイアの炎が砂の中にボスの巨体を松明のように浮かび上がらせる。
これなら探知無しでも丸わかりだ。
この作戦のためにあえて夜を選んだのだ。
「よし、来るぞ。魔法部隊用意!」
ドバアアアア
地中からサンドウォームが飛び出すが、そこにはすでに誰もいない。
そこへ
「【シャドウバインド】」
「【ライトニングチェイン】」
「【アースバインド】」
「【ファイアージェイル】」
「【ライトウェブ】」
「【アクアバインド】」
「【フリーズジェイル】」
無数の拘束魔法が襲いかかり巨体を束縛する。
サンドウォームは攻撃魔法に強いが、他の魔法は普通に効く。
巨体はそれだけで武器になるが、動けなければでかい的だ。
「突撃!」
直接攻撃部隊が攻撃を開始する。
俺は今回は拘束部隊だ。
巨体がのたうつが大きくは動かない。
口から吐き出す酸のブレスも正面に立たなければ怖くない。
「拘束が解けるぞ。離れろ!」
直後、サンドウォームは拘束を引きちぎり地中に逃げ込む。
しかし、最大の武器である隠密と奇襲を封じられた以上奴に勝ち目はない。
「落ち着いて対処しろ!」
膨大なHPのため時間がかかったが、遂にサンドウォームは力尽きた。
「やれやれ、MPが持って良かった」
ヘルファイアを維持し続けていたレイさん達だが、結構ギリギリだったようだ。
「思ったより安全に戦えてよかったですね」
「そうですね。フィオ君もフェイちゃんもご苦労様でした」
レイさんと話しているとダムドが大声でみんなを集めた。
点呼をとるようだ。
ちなみに今回はエリアボス戦ではないのでMVPは無しだ。
やられたメンバーは無し。上々の結果だろう。
戦勝を祝いレイドメンバーは解散した。
こうして初の大ボス攻略は大成功に終わった。




