ログイン
「甘く見てたな……」
電話を終えた俺は呟いた。
かつてパーティを組んでいた友人3人と妹も、βテスターの資格を手に入れていたのだ。
妹は友人3人と一緒らしい。
話によると連中は現在最もユーザーの多いとあるゲームのトッププレイヤーらしく、限定クエストの景品として資格を手にしたらしい。
廃ゲーマーかよお前ら……。
残念ながら、連中は第1サーバーで俺は第3サーバー。
βテスト中に組むことはできないが、情報交換は可能だ。
なんとなくやる気が出てきたのも事実だった。
それからしばらく後のテスト前日、俺は第3サーバーのある会場にいた。
周りには1万人の幸運児達。
さすがに1万人は多いな。
だが会場もでかい。
なにしろプレイヤールームは個室なのだ。
説明が進められる会場で、期待に満ちたざわめきが鎮まることは無かった。
「次にログイン時間の説明を行います」
司会は気にせず説明を続ける。
そこで体感時間の加速という言葉が出できた。
楽しい時間は早く過ぎるというが、実際にユーザーからの要望の多い点であった。
RWOはこの技術を実用化にこぎつけ、1日を約30分で体感させることができるというのだ。
ただしプレイヤーのバイタル面への配慮から1日のプレイ時間は8時間、連続ログイン時間は4時間と決められている。
違反した場合は強制ログアウトだ。まあ、体が第一だよな。
説明が終わりテスター達は決められた番号の個室へ散っていく。
じゃあ、俺も行くか。
「へえ……、すげえな」
個室は広く清潔でトイレに風呂からベッドからすべて揃っていた。
部屋半分はVRマシンと周辺機器だ。
触らないよう気をつけないとな。
食事は食堂があるのだが、ルームサービスで注文するとエレベータのような自動配膳機が料理を運んでくれる。
うん、便利だ。
パソコンを立ち上げてみると、4サーバー共同の情報交換サイトが起ち上がった。
最初からのメインサイト以外にも、個人で自由にサイトは作れるようだ。
匿名もオッケーだな。
「ん? 名前?」
気付いた俺は仲間に連絡する。
当日決めてたら遅いと。
VRMMOはキャラネームの取り合いでもある。
4万人もいるのだから急がないと思った名前を付けられなくなる。
結果なんとか間に合った。
部屋に入って5分なら早い方だろうからな。
俺は宏輝だからヒロにしようとしたが、少しひねってフィオにした。
他の連中は
藤堂 拓也・・・・タク
原 英男・・・・・ヒデ
河上 昌行・・・・マサ
と、わかりやすいアバター名をゲットしていた。
妹たちも
佐藤 理江・・・・リエ
伊田 春奈・・・・ハル
伊田 秋奈・・・・アキ
恩田 加代・・・・カヨ
と、無難に名前を手に入れていた。
ちなみにハルとアキは双子の姉妹だ。
その後はアバターの調整や、早速作ったサイトでどんな種族を選ぶかなどを相談した。
タクは鬼人でハンマーやバトルアックス、ヒデは竜人になって大剣や大太刀を振るいたいと意気込んでいた。俺はどうするかな……。
俺も興奮していたらしく、なかなか寝付けなかった。
そして夜は明け、テスト当日の日がやってきた。
まずは4時間ダイブして、向こうでは8日間を過ごすことになるわけだ。
「教授にはなんだかんだでお世話になってるし、期待に応えられるようがんばりますか」
救命ポッドのような機械に乗り込み、与えられていたコードを入力した。セーフティが解除され準備が整う。
じゃあ、行くか。
「ログイン」
そして俺の体は一瞬の浮遊感とともに電脳空間へと旅立った。
気がつくと俺は無数のディスプレイに囲まれていた。
それらは俺のデータを表しているらしい。
これらのスキャンデータにより性別は決まってしまう。
俺には関係ないが、ネカマには地獄だろう。
〈種族を選択して下さい〉
インフォメーションを聞いてハッとする。
特に種族決めてねえ。
物理系、魔法系、使用武器何も考えてなかったわ。
「うーん、癖の無いヒューマンかな……。おや?」
王道に走ろうとした俺の目に「ランダム」の文字が飛び込んできた。
「これは……」
マニュアルには無かったこの選択肢をヘルプで調べる。
すると、
装備ランダム・・・・初期装備がランダムで配布されるが、通常より強いものがもらえる可能性がある。
種族ランダム・・・・初期種族がランダムで決まるが、基本種族以外になれることがある。
スキルランダム・・・初期スキルがランダムで決まるが上位スキルを得ることがある。
「面白いかもしれないな」
ランダムを選択できるのはどれか一つか。
でも、これはβテストなのだ。
解らないことにチャレンジしてこそゲーマーだろう。
よし、決めた。
「種族ランダムで」
次の瞬間、俺の視界は白く染まった。