選抜試験
結局広場に集まった連中は全員残った。
俺を含めて30人ってとこか。
周りはやじ馬だらけだ。
テストが始まる。
実力はピンキリだな。
槍使いで申告したのでテストの相手は戦士系プレイヤーのようだ。
「次の方どうぞ」
俺の前の奴が負ける。
相手は結構な使い手らしい。
大剣を持ち、重鎧で身を包んだヒューマンの男が試験官だった。
「『パンテオン』のハイド。お相手する」
「あー、ソロのフィオです。よろしく」
「うむ、では行くぞ!」
剣を大上段に構え、突っ込んでくるハイド。
しかし粗い。
振り下ろされた一撃をスルリと横にかわす。
っと、ハイドは片手を剣から離し裏拳を放ってきた。
ザクリ
「ぐあっ!」
しかし、俺はそれを左手に取り出しておいた短剣で受ける。
刃は小手の隙間から突き刺さる。
即座に刃を引き抜き、距離をとる。
「くっ、これは毒?」
惜しい、猛毒だよ。
それもボスでさえ毒殺する強力な、ね。
町に着いてから短剣スキルも買っておいたのだ。
念のために。
ハイドのHPがどんどん減る。
彼が勝つには短期決戦しかないだろう。
ハイドが防御を捨てて攻めてくる。
しかし、単調で俺には当たらない。
そして大振りの一撃をかわしたところで2カ所の鎧の隙間、脇の下と首に槍を突きこんだ。
「【ダブルスラスト】!」
「ぐがっ」
〈YOU WIN〉
メッセージが表示され試合内容も公開される。
〈被弾率 0% 命中率 100% 被ダメージ 0〉
シーン
ハッ、しまったやりすぎた。
周りがドン引きだ。
「うちのサブリーダーを完封って、あなた何者?」
天使の視線がキツイ。
「う~ん、私じゃ相手にならないなー」
デスヨネー。
「猛毒だと? あの短剣なんだ?」
レアドロップとしか……。
「ふむ、もしかして君が黒衣のサモナーなのかな?」
はい。
そうですって、あれ?
周りの視線が彼、レイさんに集中する。
「君のコートはシャドウウルフ素材でしょ? 僕のローブもなんだ。だから色を変えてもわかるんだよ。で、元々の色は黒だ」
む、確かに自分で持っていれば判るか。
「でも、この素材手に入れるには相当の実力が必要なんだ。そうでしょう?」
話を振られた『ビーストロア』の連中がうなずく。
「これでも調べた方でね。スケルトンが僕のスタート地点でもある墓地に、稀に現れることも分かっている」
ほう、そうなのか。
『死霊の森』にはウジャウジャでたが。
「もちろん挑んでみたんだけど、いやはやとんでもない強さだった。3人で互角、5人で安全ってくらいだ」
まあ、正面から挑めばそうかもな。
「ST差がありすぎるのかテイムも召喚契約も無理だった。逆に言えばスケルトンを連れているプレイヤーは自身も強いってことだ」
「今見た彼の実力なら、スケルトンを使役していてもおかしくないってわけねー」
なぜかティーアさんがまとめたがごまかすのは無理かな……。
しょうがない。
「コール ネクロス」
俺の影から骸骨の戦士が現れ、その迫力に周りが後ずさる。
「すいませんね、俺ソロプレイが向いてるんで勧誘合戦にまいっちゃったんですよ」
「そ、それは個人の自由だがソロでどうやってそこまで……」
「ソロだと経験値が集中するから戦闘スキルは成長しやすいんですよ。あと、ボスには単独撃破報酬ってのがあるんです」
「ボスの単独撃破ですって? そんなこと……」
「いや、例の話でも彼は一人でゴブリンキングに挑んでいる。可能なのだろう」
「あー、召喚獣や従魔は人数に入らないみたいなんで」
「ふーん、例えばどんなのが出るのー?」
「俺とネクロスの鎧は『蛇の谷』と『オークの集落』の単独撃破ドロップです」
「ちょっと見せて!……これレザーなのに強度は鉄並みだわ」
……なんだか選抜テストどころではなくなってしまったようだ。




