幽霊船の裏
久々の更新です。
食堂での衝撃のイベントを終え、僕達は再び船内の探索に戻っていた。
マスター達4人の口数は少ない。
別に緊張しているわけじゃないし、仲違いしているわけでもない。
単純にさっきのイベントの後遺症が残っているだけ。
マサさんは無事だけど1人じゃ会話にならないからね。
でも、味覚の再現の善し悪しってのも状況次第だね。
不味いものは果てしなく不味いんだから。
「お、また絵がある」
「こりゃまたキモイ絵だな……」
荒れ果てた廊下には装飾品や調度品はほとんど無い。
でも、たまに絵がかかってるんだ。
気持ち悪い内容の絵がね。
最初の絵は船が遭難している絵だった。
まるで、この船の辿ってきた道を見せられているみたいだったな。
船員たちが次々と死んでいき、ついに船長も力尽きる。
しかし、骸と化した船乗り達は立ち上がり航海を続ける。
やがて同じ境遇の死者たちが集まり、同胞は増えていく。
だが
「こいつがソウルイーターか?」
「だろうな。この外見……タコ人間って言えばいいのか?」
「う~ん、某邪神小説の深海の住人みたいだな」
目の前の絵は幽霊船に襲い掛かる異形の怪物が描かれていた。
その姿は人間の頭に軟体動物を乗せたような不気味なもの。
そいつが亡霊と化した船員たちを捕らえ、喰らっている。
凄く気持ち悪い光景だ……。
「βテストでもこんなのあったよな」
「そう言えばあったな」
ああ、そっか。
どうりで憶えがあると思った。
あの地下墓地のダンジョンの壁画と似てるんだね。
どっちもアンデッドダンジョンだったし。
「そういや、アンデッドが出始めたな」
「雑魚ばっかだけどな」
そう、下の階では見かけなかったアンデッド系モンスターが出現し始めたんだ。
確かに甲板にはアンデッドがウジャウジャいたし、まったく居ないはずは無いと思ってたんだけどね。
逆になんで下層にアンデッドがいなかったんだろう。
何か理由でもあるのかな。
「しっかし、碌な物が無いな」
「確かに」
「これじゃ、案内料で赤字だろ?」
「まあ、下層で集めた食材はあるけど……足りないな」
普通、こういうインスタントダンジョンは結構儲けがあるはずなんだけどね。
じゃないと態々探す意味がないし。
沈没船なんかだと一攫千金が狙えるみたいだし。
最奥にドーンとあるタイプなのかな?
「お、階段だ」
「もうかよ。そろそろ登りきるんじゃないか?」
「アタリ。甲板だ」
結局大したお宝もなく強敵が出るわけでもなく、甲板に出てしまった。
アンデッド達は隣の僕らの船に群がってるから、こっちに気づいていないみたいだ。
今ごろ気が付いたけど凄く明るい。
マストの上で燃えるセントエルモのおかげだ。
「なんか不完全燃焼だな。あの人魂落としてくる?」
「馬鹿言うなって」
「自分からトラップ起動させる馬鹿がいるか」
暴れたりないタクさんが物騒なことを言い出す。
でも、ホントにこれで終わりなのかな?
って、あの? マスター? なんでマスト上ってるんですか?
「お、人魂とやる?」
「馬鹿言うな。偵察だよテーサツ」
「ああ、なるほど」
結局みんなでマストを登ることになる。
大丈夫だよね? セントエルモ、襲ってこないよね。
そんな僕の心配を余所に無事見張り台に登り切った。
セントエルモに近づいた分、下より明るいね。
「おお~、頑張ってるな」
「あははは。リエちゃん腰引けてら」
「あいつ、船幽霊嫌いだからな」
「お前のせいでな」
「そうだったな。おーい、頑張れよー」
幽霊船の甲板に溢れているアンデッドは主にスケルトンとゴースト。
スケルトンは弓で攻撃しながら梯子を掛けようとしてる。
ゴーストはそのサポートって感じだね。
とはいえ大航海時代は船乗りたちのギルド。
海戦はお手の物だ。
さほど苦労することもなく襲撃をさばいている。
それより問題は震えながら船幽霊を相手している妹さんチームだろう。
女性陣には生理的に厳しい相手だからねぇ。
あ、リエさんがマスターの声に気づいたみたいだ。
キョロキョロ周りを見渡してる。
マスターは挨拶のつもりなのか手を振り出した。
う、マスターに気づいたリエさんの顔が般若のように歪んでいく。
さて、ここで冷静に考えてみよう。
クルージングに行くと騙されて幽霊船に連れてこられた妹さんチーム。
周囲には海のGである船幽霊がわんさか。
必死に戦ってるところにかけられた暢気な声。
高みの見物をしている(ように見えても仕方ない)兄の姿。
うん、キレてもしょうがないね。
あ、マズイ! 完全にお怒りになってる!
バリスタをこっちに向けてますよ!
「おいおい、なんか怒ってるぞ!?」
「あれ、おかしいな……」
「馬鹿! 降りるぞ!」
「こっちにバリスタ向けてるぞ!」
大慌てで撤収する僕たち。
船に帰ったらまた一悶着あるんだろうなぁ。
気が重い。
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「ここがラストか」
「お宝があると良いんだけどな」
僕らが登ってきた階段の反対側の一室。
ここが最後の部屋らしい。
甲板後部では舵輪が独りでにカラカラ回っていて、動かせなかった。
「リーフ、モンスターの反応は?」
〈キュイ、キュイ〉
僕は首を振ってNOと答える。
話の流れ的にはソウルイーターがボスとして現れるはずだ。
だが、最後の部屋からは何の反応も無し。
どうなってるんだろう。
「考えても仕方ないし行こうぜ」
「そうだな」
バン!
タクさんがドアを蹴り開ける。
瞬時にマスターが部屋に突入する。
でも
「何もいない、か」
「めぼしい物も無いな」
部屋に沈黙が満ちる。
これで終わりなら幽霊船には何の旨味も無い事になる。
大航海時代の人たちもガッカリするだろう。
この幽霊船だけがハズレって可能性もあるけど。
「ま、仕方ない。戻るか」
「そうだな……」
テンションダダ下がりのマスター達。
とはいえ、何時までもここにいてもしょうがないから引き返すことにする。
骨折り損のくたびれ儲けってやつかな……。
「なんか戦利品があればなぁ」
「この絵でも持ってくか?」
船内で何度も見かけた絵がここにもあった。
壁画じゃないので確かに持ち運びは可能だろうけど……。
って、あれ? この絵って……。
「おい、これ……」
「ああ、これだな」
最後の絵に描かれていた光景。
同胞を食われ打ちひしがれる亡霊船長。
ソウルイーターは船長をあざ笑うように見下ろしながら去っていく。
絵の中に。
「それっぽい絵を見た奴いるか?」
「いや……」
「特に……」
「……」
「フィオ?」
ある。
それっぽい絵を見た覚えがある。
この船の内装よりさらに荒れ果てた、不気味な船内が描かれた絵。
あの時は気にも留めなかったけど。
そう、あの絵があったのは
「船長だ……」
「は?」
「幽霊船長のいた部屋だ! あそこに気味の悪い絵が飾ってあった」
「まさかスタート地点とはなぁ」
「まさに振出しに戻る、だな」
船長室に戻った僕らは1枚の絵の前にいた。
いや、絵というにはあまりにもリアルすぎる。
まるで写真だ。
「幽霊船っていうより沈没船だな」
「確かに」
「さて、どうなるかなっと」
マスターが絵に手を伸ばす。
すると、その手は絵に沈み込むように飲み込まれた。
手を引くと無事に戻せる。
「アタリだな」
「ここからが本番ってワケか」
「知ってりゃさっさと進めたのかね……」
「船長イベはやらないとなんじゃないか?」
「絵を全部見るのが条件かもしれないぞ?」
あれこれ話し始めるマスター達。
でも全部推測に過ぎない。
今やるべきことは。
〈キュキュ!〉
「おっと、悪い」
「検証は後だな」
「じゃあ、行こうか」
「おう」
さあ、ここからが後半戦。
そして本番だ。
ちょっと間を開けすぎましたかね。
RCWを優先してましたので。




