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リバース ワールド オンライン  作者: 白黒招き猫
サイドストーリー2  ピクシー レポート
221/228

戦慄のY

割り込み投稿しました。

 今、私の目の前には地獄のような光景が広がっている。

体の一部が溶け落ち、声にならない呻き声を上げる亡者たち。

悶え苦しみ、のたうつ鬼たち。

そう、まさに地獄だ。

そして、それを成したのは1人の悪魔。

……まあ、私のご主人様なんですけどね。


「……これは成功なのか?」


 空の瓶を手に困惑する我がマスター。

その目は哀れな犠牲者、ゾンビとグールに向けられている。

そして私は声を大にして言いたい。

失敗です、と。




 時は少し遡る。


「錬金術をやってみようと思う」


 マスターの突然の提案に、私は思わず不安に顔を曇らせちゃう。

だって、料理がアレだったんだし……。

どう考えたってロクなことにならないもん。


 止めたい! 何としてでも止めたい!

でも良い手が思い浮かばない!

同僚のネクロスは『御意のままに』って感じで頼りにならない。

バイトは基本的に頭脳労働は苦手だ。

考えろ、私!


「実は材料と道具は用意してある」


 ハイ、アウト~。

手遅れでした。

もう、どうにでもなればいいわ……。


「これがホントのゴマすりだな」


 棒でゴリゴリと薬草を根っこや種ごとすり潰すマスター。

部位によって分けなくてもいいんだっけ?

不安ね……。


 物自体は森に生えてる一般的な薬草で、そのまま食べても効果はあったっけ。

でも薬屋が加工すると効果がアップ、錬金術で魔法薬にするともっとアップなのよね。

ちなみにポーションってのは魔法薬の通称ね。


 そして私は蒸留水作成を手伝っているのよ。

焚火でお湯を沸かして蓋をする。

そうすると湯気が蓋に着くから、それを集める。

古典的な蒸留方法ね。


 とは言え、効率はあんまり良くないのよね~。

脇から蒸気漏れてるし。

井戸から水を汲んでくるのも結構面倒なのよ。


「よし、こんなもんかな」


 おう! 来た! ついに来た!

覚悟を決めろ、私!

大丈夫! 草に水を加えるだけだ!


「じゃ、フェイ、水をくれ」


は~い、と水を渡す。

緑色のペーストに少量の水を加えるマスター。

色は……OK、変化無し。

棒でかき回しながら徐々に水を増やしていく。

器の中は緑色の液体で満たされていく。


 後はこれを放置して葉っぱの残骸を沈める。

で、上澄みを飲み薬、沈んだ沈殿を塗り薬に使う。

これが一般的なHP回復薬だったよね。


 ふふん、よく知ってるでしょ?

実はモンスターにも職業やスキルの適性があるのよ。

私は採取や錬金の適性が結構高いの。

……多分、マスターよりもずっと。


 このまま行けば、品質はともかく傷薬が完成していたわ。

最低ランクで最低品質でも傷薬は傷薬。

1でもHPが回復すれば傷薬なのよ。

でも、私は忘れていたの。

そして、このタイミングでようやく思い出したわ。

最初にマスターがなんて言ったのかを。


 『錬金術』をやってみようと思う


 そう、錬金術。

『薬の調剤』の頭に『錬金術による』が付くだけで、難易度と危険度は跳ね上がるのに。

ここにきてマスターの情報不足が露呈してしまったわけね。


 なぜか大都市ではなく、こんな隠しエリアの小さな村からスタートしたマスタ-。

馬鹿みたいに強いから生存という意味では心配はない。

でも、大都市に比べて手に入る情報は格段に少ない。


「えーと、混ぜる時に魔力を込めるんだったな」


 はうっ!? 現実逃避してる間に事態が進んでる!

初級編をすっ飛ばして中級編に突入するマスター。

その効果はすぐに表れる。


「あれ? ポーションってこんな色だっけ?」


 闇が広るように、すり棒を中心に色が変わっていく。

緑色の液体はドス黒く変色していき、心なしが粘性も出てるような……。

え? 何? 何が起きてるの?

これ、薬草と水しか入っていないんだよ?

何をどうすればこうなるの?


 黒い粘液はどう見ても健康に悪そうにしか見えないし。

っていうか、ヘドロにしか見えないし。

料理も酷かったけど、これも負けてないよ……。


「で、これは使えるんだろうか? 実験が必要だな」


〈!?〉


 チラリとこちらを見るマスター。

ブンブンと首を横に振る私。

あんな物使うくらいなら、薬草をそのままムシャムシャ食べるわよ。

どんなに苦くても死にはしないし。


 って、そうじゃなくて。

マズイ、何か手は……そうだ!

他の生贄を用意すれば!


 マスターが開いていた魔法薬の本。

その、とあるページを開いて見せる。

実はアンデッドって回復アイテムでダメージ受けるのよね。


「ん? そう言えばそんな事も書いてあったな」


 影の中からネクロスの慌てた、っていうか悲痛な気配が感じられるわね。

安心しなさい、同僚を売ったりしないわ。

そんな事しなくても生贄ならウジャウジャいるからね。

私の故郷の森に。


 元々あのゾンビどもは気に入らなかったのよ。

臭いし、キモイし。

私たちの安全のためにくたばれば良いのよ!

……いけない、いけない。

可憐なピクシーのイメージが壊れちゃうわ。


「じゃあ、作るだけ作ろう」


 そう言って作業に戻るマスター。

毒消し草なども同様に処理していくけど、完成するのはどれも同じ。

黒い粘液だった。

普通の薬までなら使えそうなのに……。


 そうこうしているうちにマスターの作業は終了した。

小瓶に入った粘液は薬というより化学兵器に見えてしまう。


「よし、じゃあ森に行ってみるか」


 賛成で~す。

自分さえ無事なら万事OK。

だって私ピクシーだもん。




 そして現在。


「確かに効いているが……」


 何だか違う……。

どう見ても違う。

黒い粘液をかけられたアンデッド達は壊滅状態に追い込まれているわ。

その様子は浄化とは程遠いけど。

アンデッドって大抵の状態異常に強いはずなんだけど……。


「もしかして、コレってヤバイ薬品になってる?」


 よし、OK。

ようやく気づいてくれた!

これで少なくとも飲めとは言われなそう。

いや、ここは念のためもっと生贄を用意すべきよ。


 何気ない風に沼の方角を指さす。

沼でスライムとかにも使ってみませんか、と。

まあ、ドブに住んでるあいつらなら耐えるかもしれないけどね。


「じゃあ、そうするか」




 そして、やってきたのは沼地。

スライムにウィスプ、バイトと同じ蛇達。

哀れな生贄の仔羊たちね。


〈ピギィ……〉


 スライムがどす黒く染まって息絶える。


〈ギョエェェェ〉


 ポイズンスネークも口から泡を吹いてのたうち回る。

どう見ても回復薬を飲んだリアクションじゃないわね。

マスターも流石に渋い顔をしている。

これは回復薬としては使えないもんね。


「これじゃダメそうだな……自作は諦めるか」


 あ、ようやく諦めてくれたわ。

でも、この大量の在庫はどうするんだろ……。


「これはもういらんな。フェイ適当に使ってくれ。的当てだ」


 よし! ミッションコンプリート!

我々は無事生還した!

そして久々のお遊びだ!


 軽くなった心で小瓶を投げる。

小瓶は沼の水面に浮いていたスライムを薬殺する。

ウィスプも蛇もバタバタ倒れる。

あれ? これってもしかして武器としてなら強い?

そんな考えも浮かんだけど、まあいいか。

こんな危険物手に余るよね。


「おーい、行くぞー」


 あれ? もうそんな時間?

イタズラって時間を忘れちゃうわ。

って、あっ。


 最後の一本、マスターに呼ばれて目標をそれちゃった。

ポチャンと沼に落ちる小瓶。

ま、いいや。


 それにしても、『試作品Y』か~。


・試作品Y:Why? 何をどうやったらこんな物が作れるの? 謎の物質が主成分。


「どうかしたのか?」


 フルフルと首を振って何でもないと伝える。

マスターには黙っていたけど、実はアレ名前がそもそも回復薬じゃなかった。

と言うか、何であるのかも解らない謎アイテムだった。

教えてもガッカリするだけだろうし、黙ってたのは私の優しさって事で。

いや~、(私の身に)何事も無くて良かった~。







 フィオとフェイが去ったあと、沼地に異変が起きた。

スライムが、ポイズンスネークが、カエルやタニシまでもが黒く染まり息絶えたのだ。

沼は彼らの死骸で埋まり、生命の影も見えない死の沼となった。


 この日、RWOにおいて初となる重度の汚染という環境破壊が起きたのだった。

しかし、本人たちにその自覚は無く、気づく事も無かった。

その後、惨劇の原因となった物質はさらなる進化を遂げた。

そして最恐最悪の武器の一つ。

『神の毒』の名を持つ魔剣サマエルが誕生することになる。



フェイはキャラが崩壊しかけてますね……。


命の危機とは恐ろしいもので。

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