悪魔の晩餐
割り込み投稿だと気づいてもらえませんね……。
意外に思うかもしれないけど、実は私フェイが最初の使い魔なんだよね~。
その時、マスターはシャドウウルフを狙ってたらしいんだけどさ。
Stが足りなくて失敗ばっかりだったんだって。
元々シャドウウルフって、そんなに頻繁に出るモンスターじゃないしね。
で、諦めて帰ろうとしたところで出会ったのがこの私ってワケ。
実は私たちピクシーは、死者の森を含めても数か所にしか出ない結構レアなモンスターなのよ。
よく考えてみて? この見た目とスキルなんだよ? いかにも人気ありそうじゃない?
でもβテストで、私以外の妖精系モンスターを連れてる人って見た事ある?
ちなみに私は見た事が無いかな。
プレイヤーのフェアリーさんなら結構いたけどね~。
あのリーフの追っかけさんとか。
まあ、その理由の一つが私たちが、いわゆるノン・アクティブモンスターって事なんだよね。
簡単に言うと自分からはプレイヤーに攻撃しない、下手すると即逃げちゃうタイプのモンスターなの。
私たちピクシーの場合、攻撃するとしばらく付きまとってあれこれイタズラするんだけど。
でも精々妨害が良いとこで、プレイヤーを殺傷するようなモンスターじゃないんだよ?
嬉々として襲い掛かったらイメージが崩れちゃうしね~。
個体数もそんなに多いとは言えないから、マスターは運が良かったのよ。
昼間に木の上にいる私達を見つけるのは大変だしね。
夜になればぼんやり光るから見つけられるんだけど。
かと言って、アンデッドが強くなる夜にあの森をうろつくのは自殺行為。
ゴーストの群れとか最悪だよ?
でもまあ、一番の要因は私がマスターに興味を持ったって事ね!
だって気になるじゃない。
昼夜を問わずあんな所を1人でうろついてるんだもん。
おまけに森で最強のシャドウウルフを狙うような凄腕のくせに、落ち込んでトボトボ歩いてるとこ見たら可笑しくなっちゃって。
ついつい、笑い声を上げちゃったってわけ。
使い魔のスカウトを受けた時もね、何て言うか放っとけなくなっちゃったのよ
だって、見せてくれる素材がみんな品質『悪い』なんだもん。
何だか気の毒になっちゃって。
でも、最後に見せてくれたウィスプのドロップは品質『良い』だったんだよね。
私だって女の子だし、キラキラ綺麗なものは好きなのよ。
即オッケー出したわ。
これが私とマスターの始まり。
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「う~ん、何が悪いんだろう?」
町(規模的には村かな?)に戻ったマスターは採集物を見て唸ってる。
どうも、品質が悪いのを気にしてるみたいね。
でも、マスターの採取スキルはまだ低いし仕方ないんじゃないかな~?
実際モンスターのドロップは品質が良いのも出てるしね。
ん~、でもちょっと気になるトコもあるかな。
例えば葉っぱが傷ついてる薬草。
これって傷つきやすいから、葉っぱに触らないように根っこごと掘り返すやつだよね?
他にも肝心の根っこが千切れてるのとか、密封保存するはずのやつとか結構あるし。
ギルドで依頼受ける時に説明とか受けなかったのかな~?
「まあ良いか。売れないやつは練習に使おう」
あれ? 売るの? ギルドの依頼じゃなくて?
不思議に思った私だけどすぐに分かったわ。
ここ、冒険者ギルドが無い!
冒険者ギルドはクエストを受けるだけじゃなくて、重要な情報源でもあるもんね。
つまりマスターは、初心者に必須の情報を得られない情報弱者だったのよ。
なんて可哀想なマスター。
「……どうしたんだフェイ? そんな雨に濡れた子犬を見るような目をして」
はぁ……、今なら私が代わりに採取して手本を見せてあげられたのに。
当時の私は、まだそこまで積極的に動けなかったの。
空回りするマスターを見てることしかできないなんて……。
じ・つ・は・結構楽しかったのよね~。
だって、私はピクシーだもん!
見てる分には凄く面白かったし!
……見てる分にはね。
「う~む、もう少しマシな食材が欲しい所だな……」
料理スキルを鍛えようと調理の準備をするマスター。
器具は雑貨屋で買った安物だけど、まあ最初だし十分でしょ。
問題は並べられた食材の方。
野菜とかは店で買ったんだけど、肉や魚は売って無いのよね~。
どうもプレイヤーが店に売らないと流通が始まらないみたい。
でも、ここにいるのはマスターのみ。
で、マスターが持ってるのは
シャドウウルフからドロップした狼の肉
ポイズンスネークからドロップした蛇の肉
以上
……無いわ~。
「あれこれ考えてもしょうがない。チャイナでは両方食うんだ。何とかなるだろ」
中国で食うのは狼じゃなくて犬じゃなかったかな。
蛇も毒蛇じゃなかったような……。
まあ、昔や他の国では食べてるみたいだし、大丈夫。
だと思うけど……。
「くそ、繊維が多いな。煮た方が良いか? 蛇は……こっちも煮るか」
マスターの包丁さばきは結構上手いわね~。
短剣スキルでも取ったのかな?
でも、肉を塩で煮込んだだけってどうなんだろ。
素材の味を生かすって言っても、素材はアレだよ?
嫌な予感がするな~。
「よし、後は煮込むだけか。くそぅ、何で調味料はあんなに高いんだよ……」
あ、そうか~。
予算の問題だったのね。
塩はともかく香辛料とかやけに高いもんね~。
中世ヨーロッパって感じ?
蛇はともかく狼は結構臭いキツイしね~。
マスターとしても、できれば臭い消しに色々使いたいんだろうけどさ。
流石に練習にそんなにお金はかけられないか~。
……まさか味見しろとか言われないよね?
言われたら逃げよう。
20分後
「出来たみたいだな……」
やってきました運命の時。
マスターが一息にカパッと蓋を取る。
そこに現れたのは
全ての具が混然一体となった、汚泥のごとき黒い液体。
涙が出る様な鼻を突く異臭。
〈『腐った塩茹で肉』が完成した〉
「なんでやねん!?!」
思わず怒声を上げるマスター。
私だって同感だよ。
腐敗ってのは細菌が繁殖する事だもん。
加熱殺菌状態の鍋の中でどうやったら腐るのよ。
おかしいでしょ。
「……」
マスターは町の外に出ると穴を掘り、無言で廃棄物を投棄した。
そして、穴を埋めると貼り付けたような笑顔で私に向き直った。
「いきなり煮物はレベルが足りなかったみたいだな」
なんて悲痛な笑顔なんだろう……。
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「フェイ、沼に行くぞ」
ログインしてきたマスターは私を呼び出すと唐突に告げた。
どうやら情報収集をしてきたみたいね。
目的は2つ。
1つはポイズンスネークを配下にする事。
ポイズンスネークは【熱探知】っている有効範囲の広いスキルを持ってるらしいの。
マスターはそれを【シンクロ】のスキルで共有したいんだって。
そっか、同僚が増えるのか~。
で、もう一つなんだけど。
マスターはまた料理をやってみるつもりみたい。
なんでも『狼の肉』も『蛇の肉』も食材としてのランクは高い方なんだって。
まあ、現時点ではだけど。
だから、もっとランクの低い食材を使えば失敗しないんじゃないかって事みたい。
失敗とかそういう問題じゃない気もするけどなぁ……。
ともあれ、マスターがそう決めたのなら仕方ないか~。
不安だけど。
「よし、今度こそ!」
マスターは竿と網を手に気合を入れる。
実は、前にも一回釣りにチャレンジしたけど上手く行かなかったみたい。
何だか生産系がグダグダみたいね~。
でも、上手く行ったとしてどんなものが釣れるんだろ?
沼で、低ランクかぁ。
思いつくのは……。
魚は良いとして、他には?
……カエル、ザリガニ、タニシとか?
うわ、ヤダヤダ絶対食べたくない!
ねぇ、マスター。
止めにしない?
時系列に乱れがあるかな? 細かい点はご容赦を。
フェイが徐々にシリアス口調に。