ある港町にて
ちょい短いですが、さっそく1話作ってみました。
フェイ視点のサイドストーリーです。
リーフのサイドストーリーも試しに1話作ってみようかな。
両方の反応見て作成の順番決めようかと。
本格的な更新はもうしばらくお待ち下さい。
はいは~い、今日は~。
それとも、今晩はかな? ま、どっちでもいいか。
ここゲームだし。
私はフェイ。
最強の魔王様に仕える妖精女王だよ~。
まあ、元だけど。
今はキュートな小妖精からやり直し中よ。
さてさて、あたし達使い魔とリーフはこのRWOでは特別な存在なんだよね。
知ってる人は意外と少ないんだけど、私たちはβテストからAIデータをコンバートされてるのよ。
βテスターの一部に与えられた特権ってやつらしいよ?
経験豊富なAIって単純に優秀だしね。
それはプレイヤーにとっての特典なんだけど、実は私達にとっても特典なんだよね~。
どうだろ? 解るかな~?
答えは単純明快、私たちはβテスト時代の事を覚えてるんだよ!
あ、何だそんな事か~とか思った?
私達にとっては重要な事なんだけどな~。
面白い事もいっぱいあったし。
そうそう、マスターが生産系苦手なのって昔からなんだよ~。
あ、勘違いしちゃ駄目だよ? 別にマスター自身が壊滅的に不器用とかそういう訳じゃないの。
悪魔っていう種族の特性が、そう決まっちゃってるんだよね。
悪魔は破壊の化身であり創造とは無縁、みたいな?
リッチに格闘家やれって言ったり、オーガノイドに裁縫やれって言ってるようなものかな。
適性って残酷だよね~。
最近だって凄いの造ったんだから。
今、私がいるのはどっかの港町なんだけど、あちこちで木材の売り買いがされてるの。
何故かというと、今は空前の造船ブームだから!
東西南北の新大陸を目指すプレイヤーが挙って船を求めてるワケよ。
マスターとヒデさんがここに来たのも、船を買う資金を得るためだし。
マスターの仲間にはマサさんってドワーフがいるのよ。
生産系を一手に引き受けてるのはマサさんなんだけど、造船はまだ訓練中なのよね~。
マスター達は訓練用の木材を大量に集めて、余った分は売って資金にしてるワケ。
もちろん、上質なやつはキープしてるみたいだけどね。
で、木材ってランク低い方が扱い易いんだけど、高い方がスキルの伸びが良いんだって。
だから、マサさんのスキルが上がるとランクの低い木材は効率が悪いから要らなくなるの。
それで、ある日余った木材でギルドメンバー全員が造船にチャレンジしてみたのよ。
実は造船って、スキルとは別のプレイヤーの感性とかが結構出るらしいの。
例えば、妹さんの造った船は奇怪なオブジェだったんだよね~。
当然、水に浮かばなくて沈んじゃった。
まあ、皆初めてだったし上手く行く方がおかしいんだけどね。
ところが、ビックリ。
我等がマスターフィオ様の造ったイカダが、船として成立しちゃったのよ!
皆(マスター自身も)、雷でも落ちたみたいな衝撃を受けてたわ!
妹さんは血の涙を流さんばかりに悔しがってたしね。
まあ、あれだけデザインにダメだしされればヘソ曲げちゃうよね。
私もあのオブジェはどうかと思うし。
それで妹さん、「ホントに乗れるか確かめてやる!」って言いだしたんだよね。
止めた方が良いと思うし、皆(マスター含む)も止めたんだけど、妹さん暴走すると止まらないんだ。
そこで私思いついたの。
船はアイテムだから鑑定が通じる。
で、私は実は鑑定持ち。
だから私、採集得意
って、違った違った。
安全かどうか鑑定すれば良いんだよ。
では、早速~って鑑定したんだけど……。
〈舟幽霊のイカダ〉 ランク『-3』
・水に浮かぶが速度は出ない、一般的なイカダ。ただし、海で使用すると半径10m以内に最低5体の舟幽霊が出現する。舟幽霊は倒しても即座に再出現し、その数は再出現のたびに多くなる。
まさかのマイナスランクでした!
そして舟幽霊とは何かと聞かれれば。
お答えしましょう舟幽霊。
ハイッ!
〈舟幽霊〉 モンスターランク『2』 霊体系
夜の海にのみ出現するアンデッドモンスター。マイ柄杓常備の親切仕様。もちろん底は抜けていない。ランク2の中では単体の能力は低いが、海を埋め尽くさんばかりの大群で襲い掛かる厄介なモンスター。近接時には柄杓で殴りかかり、遠距離では水魔法を柄杓から放つ。
特徴としてはプレイヤーに攻撃するだけでなく、船に水を流し込む行動を取る。水を流し込まれると船の積載重量が増加し、限界を超えると沈没する。基本的に船縁に張り付いて攻撃してくるが、とり付く場所が無くなると、ところてん式に前列が船に押し込まれる。押し込まれた個体は船内に侵入し、所かまわず放水する。
イカダに目を向けると、妹さんは既に10体以上の舟幽霊に襲われてた。
そしてイカダはあえなく沈没。
妹さんは辛うじて救出されたけど、しばらくマスターとは口を利かなかったわ。
自業自得な気もするけど、恐るべしマスター! ってとこよね。
あれ? これって褒めてるうちに入るのかな?
って、当のマスターがいないんだけど……。
どこ行ったんだろ? ん~、ん~、あ、いたいた。
何かな、あのイベント会場みたいなの。
お祭りかな?
ピクシーって楽しい事に目が無いんだよね~。
私は幻覚でも見てるんだろうか? 〈注:口調は違いますがフェイです。現在余裕ナッシング〉
今、私の眼にはエプロンを着け、コック帽をかぶったマスターの姿が映し出されている。
マスターが料理? あり得ない。
いえ、ありえてはいけない。
マスターがキッチンに立つ時、そこに地獄の扉が開かれるのだから。
そして始まるのは阿鼻叫喚の惨劇。
残るのは朽ち果てた勇者たちの骸のみ。
そう、あの日、あの時。
初めて惨劇を目にした瞬間から、私の中ではそれが絶対の真理となっているのだから
マスターがコンロのスイッチを入れると火が灯る。
禍々しい赤黒い炎が。
マスターの表情が曇り、会場がどよめき、審査員の顔が引きつる。
私の表情はどうなっているだろう。
ピクシーらしく笑えているだろうか。
自信が無い。
マスターが魚に包丁を入れる。
すでに死んでいるはずの魚が苦しげに悶える。
理解不能だ。
変わっていない。
絶望するほどβテスト時代と変わっていない。
いや、下手をすれば悪化している。
私の脳裏にβテスト時代の記憶が甦る。
マスターの料理(?)が終わるまで、その懐かしい記憶で予行練習をしておこう。
これから起きる惨劇に備えて。
お気楽なフェイがまさかのシリアスモード。
彼女の知るフィオの生産(凄惨)ブラック・ヒストリーとは?