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裏話

また説明会です。


「じゃあ、まずは君の状態から説明しよう」


 教授の言葉と共にモニターが出現する。

どうやら脳の活動モニターらしい。

表示された脳は一言でいうなら真っ赤だった。


「これはさっきのデュエル中の君の脳だ。見ての通り異常に活性化している」


「火事場の馬鹿力の脳バージョンってことですか……」


「そんなとこだね。ただでさえ君の脳は出力が常人より遥かに大きい。そこにこれだ。正直、最新のバイオコンピュータが処理落ちするなんて信じられなかったよ」


 モニターが変わり先程のデュエルの映像が流される。

なるほど、自分の事ながらツッコミ所満載だ。

何なの? あのノイズ。

え? 消えた? ワケわからんぞ。


「元々君は追い込まれると集中力が増すタイプだからね。リアルならパニックなんだろうけど、ここは君の庭である電脳世界。超強敵に出くわしたような異常集中状態に突入したんだろうね」


「スポーツで言うゾーンってやつですか? そう言えば視界が白黒だった気が……」


「おそらく不要な感覚をシャットアウトしたんだろうね。現在は君のアカウントに専用のフィルターを設置したから正常に戻っているよ。さすがにあのままだと君の身体への負担が大きいからね。強制停止させてもらったよ」


「……後遺症とかは?」


「データを見る限り異常は無いね。訓練次第では自分の意志でリミッターを解除できるようになるだろう。おめでとう、レベルアップだよサイバー・ジーニアス」


 うえ、あんまり嬉しくないな。

訓練させる気満々だよこの人。

面倒くさい訓練メニューとか用意しないで欲しいんですけど……。

つーか、ゼミの先輩に教授まで加わったら俺のプライベート時間無くなるんじゃ?

これがブラック企業ってやつか? あ、企業じゃないか、ブラックゼミだ。


「大丈夫、君の将来は私が責任を持つ」


「真面目な顔して言っても……」


「うん、真面目な話だからね」


「へ?」


 言葉通り教授は表情を改める。

どうやら本当に真面目な話のようだ。


--------------------


「佐藤君、君はRWOをちぐはぐだと思った事は無いかい?」


「……あります」


 例えばPK。

現在では大半のVRMMOはPKがシステム上禁止されている。

他にもハラスメントや犯罪に準じる行為は『できない』ように設定されている。

しかし、このゲームは推奨されないしリスクも大きいがPKが『できる』のだ。

性的なものはともかく軽犯罪についても同様だ。


 そして運営は犯罪者をプレイヤー自身が裁く事を推奨するが、直接運営が手を下す事は少ない。

不思議なほどプレイヤーの自主性に任せている節がある。

賛否両論あるだろうが、今のところそれは上手くいっている。

もちろん目に余る重犯罪者はNPCと言う監視者がプレイヤーを客観的に評価し、運営がアカウント停止にしている。

では、運営にはどんな意図があるのだろう?


「RWOには多くの出資者がいる。その中には政府の機関もある事は知ってたかい?」


「いえ、初耳です」


「だろうね。トップシークレットだし」


 おい、そんなもの聞かせるなよ!

俺が謎の黒服に連れて行かれたらどうすんだ。


「ゲームと言うのは現実ではできない事が出来る世界だ。特にRWOのクオリティはまさしく第2の現実だからね。プレイヤー達は現実で抑圧された欲求を開放する。その代表が攻撃衝動、行き過ぎた例が殺人衝動だ」


「ゲーム脳論争ですか……」


「そうさ。ゲーム内の犯罪は倫理観を損ない、現実の犯罪を増加させるから反対。ゲーム内で犯罪が出来れば、そこで満足し現実での犯罪は減るから賛成。未だに結論が出ないテーマだね」


「たしか、万が一の増加を懸念して禁止しているところが多いんですよね」


「だが、逆に犯罪行為オール解禁という過激なゲームも存在するのも現実だね。それに安全安心なゲームにも問題点はある。あまりに居心地が良すぎて、現実を捨てる者が後を絶たないんだ。ゲーム中毒の引きこもりってやつだね」


 それと政府と何の関係が?

あっちを立てればこっちが立たない。

これはもう宿命だ。

ゲームを通じて何がやりたいんだろう。


「まず1つ。政府は仮想空間を通じた人材発掘を考えている。リアルでは平凡な人間が、仮想空間ではカリスマ的な影響力を発揮する事があるだろう? そういった埋もれた優秀な人材を見つけ出そうっていうプロジェクトが進んでいるんだ」


「じゃあ、ガノン達は……」


「そう。彼らは実はリアルでは普通の学生なんだ。だが、RWOでの彼らは組織運営のプロの目に留まるほどだ。倫理観などは後で矯正すればいい。だからまずは有能な人材を釣り上げる」


「そういえばβテストでも企業に自分をアピールしようとしている奴がいましたね」


「実は出資している企業にもそこを期待しているところは多いんだよ」


 汚い、と言ってはいけないんだろう。

人材の不足や質の低下は常に問題視されてきた。

解決策も必死に探していたんだろうな。


「で、もう一つ。政府はゲームを倫理教育の場にしたいんだ」


「は? 倫理教育?」


「そう、『できる事』と『やって良い事』は違うってことを教え込みたいのさ。特に子供にね。100回言って聞かせるよりも一回体験させた方が身に染みるだろう? そして学校でテキストを読ませるよりゲームの方が判りやすい」


「……つまり、あえて犯罪を実行可能にしておいて、やったらキツイお仕置きをするってことですか」


「そうだね。ついでに言えば悪いことをしたら罰せられるという、その過程が重要なんだよ」


「過程……」


 確かに運営が頭ごなしに裁いても、親に怒られたのと同じでやる奴はやるだろう。

しかし、NPCとはいえ多数の他人に白い目で見られ、懸賞金が懸けられて追われ、同じプレイヤーに犯罪者として裁かれればどうだろう。

少しは心に響くものがあるのではないだろうか。


 そして、その経験がリアルにおける犯罪抑止につながる可能性。 

犯罪を犯したらどうなるかなど考えるまでもない。

だが、その想像力を働かせることができない者もいる。

彼らに対する教育としてのペナルティ。


「君が犯罪プレイヤーを積極的に駆除するのも、それを期待してるからなんだろう?」


「ええ、まあ……」


「ま、全ては試験段階の話だよ。大多数の一般プレイヤーには関係のない話さ。ただね、VR技術は多くの可能性を残している。その先駆けであるVRゲームが干渉を受けるのは必然なのさ」


「そういえば、ゲームに見せかけたハッキングブロック技術が研究されたとか聞いたことがありますね」


 機密データが宝、ファイアウォールが城、ワクチンプログラムが兵士や騎士。

そこにハッカーやウイルスプログラムがモンスターとして侵入してくるのだ。

本来ハッキングには高度な技術が必要で、対抗する側にも同レベルの技術が求められる。


 しかし、これにVR技術を使用することで防御側は素人でも戦力にできる。

複雑なデータの解析、改竄、構築、消去といった攻防を、アバターの殴り合い斬り合いにできるのだ。

そうなった場合はプロのゲーマーの方がハッカーよりも強い。

上手くいけばハッカーの送り込んだウイルスを生け捕りにしたり、ハッカー自身のデータの断片を得ることもできる。

ゲームの強さが生かせる職ができればゲームは『無駄な遊び』ではなくなるのだ。


「まあ、まだ研究中の技術だけど近いうちに実用化するだろうね。他の分野でも電脳技術は積極的に導入されていくはずだ。そして、そうなった場合君は忙しくなるよ」


「え? 俺に何の関係が? 将来はGMでもやらせるつもりだと思ってましたけど」


「電脳世界の仕事が増えれば電脳の申し子の活躍の場も増えるってことだよ。ゲームのGMより重要な仕事なんて、これからどんどん出るだろうね」


「……教授は俺に何をさせたいんです?」


「一言で言えば後輩の指導だね」


「後輩?」


「現在確認されているサイバー・ジーニアスは君1人だ。だが、5年後、10年後なら?」


 間違いなく世界中に新たなサイバー・ジーニアスが生まれている。

そして彼らは皆、進歩し続ける電脳技術の最先端に配置されるだろう。


「彼らは理解者を求めるはずだ。頼れる味方を求めるはずだ。それができるのは君しかいない。私の研究成果も彼らの心を救うことはできないからね」


「俺は教授に救われましたよ」


「そう言ってもらえるとありがたいね。私は私にできることをするさ。まずは君というビックリ箱をできるだけ解析する。自分が何者かわからないのは不安だからね」


 そう、それは教授に出会うまで俺が1人抱えていた悩み。


「次に世界の学会にサイバー・ジーニアスの事を発表する。そして、彼らが実験動物扱いされないように取り決めを作る。……おそらく私にできるのはここまでだろう。ここから先は君にバトンタッチというわけだ」


「解ってます。後輩は俺が守る、ですよね」


「よし、では明るい未来を手にするために……」


「ために?」


「明日から早速リミッター解除の訓練だ!」


 いきなりかよ!

だが、モルモットに拒否権などない。

はあ、やるしかないか……。



一応番外編はここで一区切りになります。


活動報告参照。

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