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裏ボス登場

教授、再び。


彼は運営の顧問の一人でもあります。

「横暴だー!」


「断固抗議する!」


「エージェントを返せ~!」


 ……バカが馬鹿な事を叫んでいるな。

って、あれ? 俺は一体?

デュエルはどうなったんだ?


「正気に戻ったかな佐と、フィオ君」


「え? きょ、教授!?」


 そこに立っていたのは1人の銀髪エルフ。

しかし、長い耳や髪の色を除けばよく知る人物に瓜二つだった。

眼鏡をかけた、ナイスミドルな学者風の男性。

影山教授、俺が所属するが研究室のボスである。


「アバターに違和感は無いかな?」


「え? ええ、無いですけど……」


「よし、じゃあ場所を移そうか」


 混乱する俺をよそに教授は一つのドアに向かう。

そこで気付いたが、スタッフと思われる女性に食って掛かる集団は『工房』の連中である。

いや、ガノンだけは頭を押さえて座り込んでいるな。

何かあったんだろうか? 良く思い出せん。


「教授、あいつら何やってるんですか?」


「使うなって言ってた戦闘用NPCを使ったからね。ちょっとしたペナルティを与える事になったのさ」


「ペナルティ?」


「まあ、スキル上昇に条件を設定したりする程度だし、その内解除されるよ。NPC達のプログラムは修正したけどね」


「そうですか……」


 これでアイツらは大人しくなるんだろうか? うん、疑問だな。

アイツらがバカやるのに理由はいらない。

思いついたからやる。

それが奴らだ。


「まあ、勝手にアカウント停止にするわけにもいかないしねぇ」


「え? 運営は自由に切れるんじゃ?」


「それをやるには全プレイヤーの全情報を把握して……と手間がかかりすぎるんだよ。だからサーバーがリストアップしたブラックプレイヤーを運営が処分するのさ。で、彼らはブラックじゃない」


「……アイツらが、ですか?」


「うん。むしろ優良プレイヤーだよ?」


 マジか? 俺の中では『工房=生きた迷惑』なんだが。

そもそも、サーバーがリストアップする基準は何なんだ?

βテストの時みたいな貢献度か?


「答えはNPCさ。彼らはサーバーの目であり耳なんだ。彼らの評価を集計し、あまりにマイナスが酷ければブラックリストってわけ」


「アイツらは高評価なんですか?」


「そうさ。確かに実験は過酷だけど不要な事はしていない。僕からすれば当たり前の事だよ。むしろ生産職用のシミュレーション・システムを用意しなかった運営の落ち度だね」


「教授の基準で言われても……」


「実は以前から彼らは、シミュレーション・システムを用意して欲しいと要望を出していたんだ。明日のアップデートで追加されるから、彼らも強引な実験はしないと思うよ」


「うーん、だと良いんですけどね……」


 連中に理解を示す教授。

この人もどちらかと言えばあっち組だからな。

動機が無ければやらない、か。

ホントそうだと良いんだが。


「で、確かに強引な実験に付き合わされたプレイヤーからすればマイナス評価だろうけど、プレイヤー全体から見ればそうじゃない。彼らの技術は職人プレイヤーの技術を底上げし、その結果多くの有用なアイテムが生み出されている。海の大ボス戦でもその技術は大いに役立ったはずだよ」


「じゃあ、やっぱりあの船のギミックや杭打機は……」


「元々は彼らの技術だね。男のロマンだそうだよ」


 そう言えばβテスト時代、盾にパイルバンカーを仕込みたいとか言ってたな。

よくもまあファンタジーで機械を開発できるよな、と感心した覚えがある。

メンバーに工学系の技術者でもいるんだろうか?


「まあ、そういう訳で彼らの一部プレイヤーへのマナー違反によるマイナスは、プレイヤー全体への貢献によるプラスの前じゃあ誤差の範囲なんだ。運営が、自分で定めたシステムを無視して勝手に処分するわけにはいかないんだ。アカウント停止になんてしたら技術レベルが2段は落ちるだろうしね」


「目の前にいるのは、その一部プレイヤーの1人なんですけど……」


「ははは、こんなの現実の社会じゃあありふれてるよ。自動車は排気ガスを出すし、工場は廃液を流すだろう?」


「これゲームですって」


「うん、ここから先はこっちの部屋でね。彼が聞き耳を立ててるし」


 チラリと視線を向ける教授。

その先にいたのはガノンだ。


「いやはや、凄いよ彼は。運営が引き抜こうとするのも解るなぁ」


「は? 引き抜き?」


「さ、こっちこっち」


 パタン




「チッ、面白そうな話してたのにな……。……ウエッ、今度は吐き気が……」


-------------------------


「で、引き抜きってどういう意味です?」


「うん。ガノン君たちにはペナルティの1つとして、定期的な報告を義務付ける事になってるんだ。ただし、これにはスカウトという側面もあるんだ」


「えーと、外部スタッフになるってことですか? あいつ等が?」


「そう。毒を持って薬となす、ってね。首輪を着けて上手くコントロールしようって腹なのさ。幸い彼らの大半は学生だ。将来的には正式なスタッフとして引き抜くつもりなんだろうね」


 え? あいつら学生だったの?

いや、確かに社会人であのはっちゃけ暴走は無いか。

でも、なんだか釈然としないな。


「俺に関してはどうなんです?」


「君は僕のひも付きだからね。運営からの直接スカウトは来ないと思うよ。後、今回の件で言えばあのドリンクは修正が入るかな? 設定はしっかりやるべきだね」


「はい? あれがどうかしたんですか? 設定?」


「うん、実はガノン君の脳波をスキャンした結果、例の『死亡ビタンD』は電子ドラッグに近い代物であることが分かったんだ」


 電子データによって直接脳に影響を与える新世代ドラッグ。

それが電子ドラッグだ。

従来の薬物より肉体的な依存性や副作用は弱いがドラッグはドラッグだ。

脳内麻薬をドバドバ出させていれば、いずれは廃人なのだから結末は変わらない。

法的にも取り締まっている。


「何でそんなものが作れたんです? セーフティはあるはずでしょ」


「ところが抜け道と言うか穴があってね。悪魔の生産スキルパラメーターはマイナスで固定されているんだ。そしてそれは変わらない。むしろスキルが上がるほどひどくなって行くわけだ」


「ああ、やっぱり……」


「で、マイナスパラメーターで生産スキルを使うと本来なら100%失敗する。でも、それじゃ面白くないからとランダムクリエイト方式に設定したんだよ。そうしたら、危ない結果を弾くセキュリティが完全に機能してくれなくてね」


「ランダム? 決まっていないってことですか?」


「うん、その通り。正確には各プレイヤーごとに違うってこと。君以外の悪魔が同じアイテムで、同じ作業を行っても違う物ができるんだ。これは膨大な乱数の組み合わせで決定するんだけど、君はたまたまヤバイ結果を引き当ててたんだよ」


「一種のバグってことですか……」


「そうだね。アレの前身をβテストで一度でも飲んでくれていれば事前に対処できたんだけどねぇ」


「え? 俺のせいですか? て言うか前身? あのヘドロを飲めと!?」


「まあまあ、それについてはもう修正を開始しているから大丈夫。幸い悪魔は君以外いないからね。完全なランダムを廃止してある程度限定するか、もしくは悪魔用の生産レシピを用意するよ」


 悪魔の生産レシピ。

何て嫌な響きだろう。

しかも、それが導入されても決して明るい結果は望めない事が解ってしまう。


 いや、それでしか作れないアイテムとかも用意されるとしたら?

そうだ、どんな物も使いよう。

その結果が『魔剣サマエル』なんだ。

うん、良いじゃないか悪魔レシピ。


「じゃあ、本題だね」


「あ、はい」


 ここまでが前座か。

長いよ、教授。

本題って、俺の記憶があやふやな理由なんだろうな。

あの時何が起きたんだ?



説明会になってしまいました。


ガノンたちがなかなか罰せられなかったのは、コンピュータがそれを判断していたからでした。


感情ではなく合理性による判断。

現実の裁判でも理不尽な判決ってありますよね。


とりあえずは首輪が付きました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] さすがにガノン達の被害者に補填くらいは出しますよね? 被害者のことはプラスがマイナスを上回ったとはまた別の話ですし [一言] 教授はもっともらしいこと言ってるけど、劇中でも言及されてる…
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