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ノイズ

 ガノン軍団30人vsフィオ+リーフ&ネクロス。

唐突に始まったデュエル、普通なら賭けをやろうと野次馬が騒ぐところだ。

だが、今回はそんなプレイヤーはいない。

何故なら、賭けをしても成立はしないからだ。


 プレイヤー達からすれば結果は判り切っている。

ガノン達の勝率など1割も無い。

トップエースと職人の戦闘能力にはそれ位の差があるのだ。


 先日の大ボス戦に参加していたような猛者が数人いれば、まだ話は違っただろう。

だが、職人10人と鍛えたとはいえNPC20人程度では届かない。

何しろ相手は中ボスを単独で打ち取るような理不尽野郎なのだ。


「さて、それじゃあ報酬については良いな?」


「ああ。俺が買ったら恒久割引と技術提供」


「俺達が勝ったら定期的な協力と依頼の優先受注だ」


 どちらも口約束に過ぎないが、こういったところに人間性が出るものだ。

正式な契約じゃないから、と破り続ければ『信用できない人間』というレッテルが張られてしまう。

そうなった場合の周囲の目と言うのは、下手なペナルティより恐ろしいものだ。


 更に大半のプレイヤーが知らないとしても、NPCたちの信頼度には影響が出る。

彼らはある意味プレイヤーを写す鏡なのだ。


「じゃあ、始めるか」


「これっきりにしろよ」


 2人は距離を取り、ディスプレイを操作する。

ガノン達は全滅が、フィオは自身のHP全損が敗北条件だ。

カウントは進んでいき、0になる。


〈デュエル スタート〉


 アナウンスと同時に双方は動いた。


-------------------------------


「チッ、やっぱし実戦には向かねえな……」


 ガノンは戦闘には向かない。

それは自分自身がはっきりと理解していた。

目まぐるしく変化する状況に、頭の処理がついて行かないのだ。

また、戦術や戦略も知ってはいても実行できない。

今回だってそうだ。


「リーダー!?」


「駄目だ、遠すぎる! 囲むように召喚しないと効果が薄い!」


「近づかれたらアウトですって! うひゃっ!」


 慌てて身をかがめた部下の頭上、ほんの数十センチを雷弾が貫く。

回避できたのは偶然だろう。

遠距離でも十分アウトだ。


「ナンデスカ、イマノダンソクハ……」


「あいつのカスタム・バレットだ。バレットを圧縮して回転を加えて撃ってるんだよ」


 エージェント達は防御に徹しながら包囲しようとしている。

既に半数がやられているが、ネクロスの足止めには成功している。

フィオが単身突っ込んでくる。


 あと少しだ。

奇策は一度きり。

ショックから立ち直られれば後は無い。

焦って召喚して、耐えられたらお終いだ。


あと少し。


---------------------


「【ブレイズ】!」


ゴォッ!   


トン  カシャリ


 中級火属性魔法の炎の波に隠れる様に、フィオとネクロスが駆け出す。

更にフィオは後方の商人達に向けて、最速の雷属性を更に高速化させたバレットを撃ち込む。

バレットのサイズが小さくなったので当てにくいが、そのスピードと貫通力は凄まじい。

当たらずとも牽制には十分だ。


「はい、邪魔」


〈キュー!〉


 フィオを囲もうとするエージェント達。

しかし、リーフの額の宝石が閃光を放ち、彼らの目を眩ませる。

閃光はフィオの後ろで放たれたのでフィオは何ともない。

アンデッドのネクロスはそもそも盲目にならない。


「はい、1、2……」


「うぐ!?」


「あが!?」


 目の見えないエージェント達を。無慈悲に狩っていくフィオとネクロス。

あっと言う間に8人が倒される。

ここまでわずか数秒しか経っていない。

残酷なまでの戦力差であった。


「何だ逃げるのか。ネクロス、そいつらを頼む」


〈キュキュ!〉


 ブレイズに押されるように後退した商人達。

彼らを追撃すべくフィオは駆け出す。

ついでとばかりにエージェントを1人切り伏せ、更にリーフのブレスが1人の顔面を直撃する。

残り10人となったエージェント達。

ようやく目が見えるようになるが、彼らの前にはネクロスが立ちふさがる。


「小細工はさせないぞ?」


 ガノン達は職人だ。

その本領はアイテムの使用にある。

デュエルでそれを生かし切れるとは思えないが、警戒はしておくべきだろう。

と言うか、使わせなければ良いのだ。


 大ボス戦で使用された杭打機や、お馴染みのタル爆弾など強力な攻撃アイテムは確かに存在する。

しかし、あれらは対モンスター用であり、動き回るプレイヤーにそうそう当てられるものではない。

杭打機は設置に時間がかかる。

タル爆弾はブン投げるために相当な筋力を要求される。

この距離ならもうチェックメイトだ。


「よし、今だ!」


「おっと!?」


 職人の一人が決死の顔で立ち塞がった。

全身を隠す大盾を構えているが、明らかに使いこなせていない。

間違いなく時間稼ぎ。

フィオは跳躍して盾を飛び越え、ついでとばかりに後ろから首を刎ねる。

目を閉じていた職人は何が起きていたかも解らなかっただろう。

しかし


「召喚オーブ?」


 フィオを半円形に包囲する職人達の手。

そこに握られているのは召喚のオーブだった。


「そんな物使ったところで……」


 召喚のオーブは野生のモンスターと契約を結んで呼び出す物。

つまり、呼び出されたモンスターは野生のモンスターと同じ強さしかないのだ。

フィオにとっては雑魚モンスターが9体増えた所でどうという事は無い。

戦力的には。


ビッグ・モス


ポイズン・モス


ニードル・モス


ポイズン・モス


ポイズン・モス


フォレスト・モス


ポイズン・モス


ビッグ・モス


ポイズン・モス


 9体の巨大蛾がフィオの眼前に出現した。

ポイズン・モスが多いのも狙っての事だ。

硬直するフィオ。


「「「召喚!」」」


 背後から聞こえた声。

ブリキ人形の様にフィオが振り向くと、そこにはボロボロのエージェントが3人同じく巨大蛾を従えていた。


「~~~~~~~!?!?」


 声にならない声を上げるフィオ。

しばらく口をパクパクさせていたが、突然プツンと糸が切れたように俯いてしまった。

そして、そのまま動きを止めてしまう。


「よし、チャンスだ!」


 ガノンの掛け声で職人たちは一斉に攻撃用マジックアイテムを用意し、エージェント3人は武器を構える。

総勢12体の蛾も一斉に突撃する。

だが


ザザッ


 彼らは気付かない。


ジジジッ


 俯いたフィオの目からは光が消えている。


〈キュ?〉


 単身敵を迎撃しようとしたリーフは気付いた。


 フィオのアバターにノイズが走り、所々ぶれている事に。


------------------------


 ネクロスは双刀を握りしめて駆ける。

エージェント7人を打ち取ったが、その隙に3人が抜けてしまった。

主人が彼らごときに負けるはずもないが、それでも失態だ。


 しかし、目にした光景はネクロスの予想外のものだった。

敵に囲まれ棒立ちになった主人。

召喚されたらしい周囲のモンスターは雑魚ばかりだ。

容易く倒せるはずなのになぜ?

流石のネクロスも危機感を覚える。

しかも


ザザッ


 何が起きているのか解らない。

主人の全身のいたる所にノイズが走っているのだ。

そしてモンスターが一斉に襲い掛かった時、主人が消えた。


ポテン


 今まで主人がいた場所には呆然としたリーフだけが残されている。

主人が消えてフードから落ちたのだろう。

そもそも、なぜリーフの姿が見えるのか?

それは寸前まで存在し、視界を遮っていたはずのモンスターが全て消え去っていたからだ。

そう、12体のモンスターが一瞬で倒されたのだ。


 主人は既に生き残りのエージェント3人の眼前に立っていた。

ネクロスは混乱する。

主人とネクロスでは、近接戦闘能力やアバターの性能自体は実は大差がない。

あんなスピードで動くことは主人にも不可能なはずだ。


 いや、そういう次元の話ではない。

今の動きはネクロスにも認識できなかったのだ。

動きの軌跡も何も見えず、画面が切り替わったように移動していた。

訳が分からない。


 そんなネクロスの、いや、その場にいる者全ての混乱を無視し、フィオは虚ろな目を眼前のエージェント達に向ける。


ザザッ


 その全身はいたる所にノイズが走り、ぶれていた。


策士策に溺れる。


バーサーカースイッチを入れてしまいました。

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