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平行線

時間軸としてはリエ達が到着したあたりのフィオとガノン視点です。


アレ? 話自体は前回から進んでいない?

「どうだ? 俺の自慢のエージェント達は。スゲエだろ?」


「原理は知らんが確かにな……」


 クエストで一緒に戦ってくれるNPCは存在するが、彼らはあくまでゲストである。

自分の配下として鍛え、更に街中で対人攻撃が可能などバグとしか思えない。

だが、実行できたという事は現時点では違反ではないという事になってしまう。

フィオはそれ以上考えるのを止めた。


「で、随分と手の込んだことをしてくれたみたいだな」


「おう、お前の勘の良さには脱帽だ。だから周りから包囲網を敷かせてもらった」


「包囲網、ね」


 俺は狩りの獲物か! と内心毒づくフィオ。

ジロリと後ろを振り向くと、タクとマサが合掌して頭を下げていた。

思うところはあるが、話でしか聞いた事が無いのなら対処は難しい。


「この様子だと妹達にも接触してるな?」


「当然だろう。うちのグループには情報屋だっているんだぜ」


「随分と幅広いな……」


 フィオ達をここに連れてきた商人の商会は、自分達を『工房』の傘下と言った。

彼は武力ではなく影響力を高めるプレイを行ってきたのだろう。

その手腕は認めざるを得ない。


「大人しく鍛冶だけやってれば良かったものを……」


「数は力だって事だ」


「お前、他のプレイヤーにもそいつらをけしかけたりしてないか?」


「何度かやったな」


「運営からは?」


「エージェントはあんまり使うなって言われたな。そのうち修正されるのかもしれん。だが、だからこそお前に見せたかったんだよ」


「見せんで良い。大人しくしてろよ」


「苦労して育てたんだ、自慢したいんだよ! 使いたいんだよ!」


「子供か……」


 フィオも気持ちは解る。

苦労して作った自慢の装備。

使うなと言われても使いたいだろう。

ただ、使う物と相手は選んで欲しい。


「……そういや、こっちでも実験とかしたのか?」


「したさ。ただ、逃げる奴もいてなぁ。捕縛する人手としてエージェントを育てたんだよ」


「そりゃ、受けた依頼を一方的に破棄しようとしたならそいつが悪いが……。クレームは無かったのか?」


「さあな。少なくとも運営からの警告の焦点はそこじゃなかったぞ? 大体NPCに追っかけられたくらいでクレームつけるような奴が戦闘職につくか? そんなんじゃ人型モンスターと戦えないぜ」


「む、それは、まあ……」


 中央大陸にはゴブリン、オーク、コボルトなどの人型モンスターが当然のように出現する。

基本的に連中は群れを成しており、その数が3ケタ近くなることも稀にある。

街中でNPCに追いかけられるのは確かに恐怖だろうが、少なくとも痛めつけられたり殺される事は無い。

ついでに言えば、今回の相手が何者で、なぜ追いかけてきているのかもハッキリしている。


 NPCに追い回された程度でトラウマになるようなら、戦闘職など止めて職人や商人になるか、もっとヌルくて優しいゲームをやればいい。

サメ型モンスターに襲われて海が怖くなった。

槍で突かれて先端恐怖症になった。

こういったクレームは0にはならないが、運営が対応することはほとんど無い。


 リアリティを追及する以上、これは避けては通れない道である。

よって、この手のゲームをプレイするという時点で、そういった覚悟はできているはずと判断されるのだ。

当然VRマシンやゲーム購入時の利用規約にも説明がある。

VRマシン自体も命にかかわるようなフィードバックや精神的ショックに対するセーフティが万全なので、後は利用者次第となっているのだ。


「まあ、それはひとまず置いておこう。本題だ。なぜ俺を狙う?」


「お前が逃げるからだろ。水臭いじゃねえか。俺とお前の仲だろう?」


「本音は?」


「実験用モルモットを雇ったはいいんだが、お前に比べるとどうもな。思ったように進まないから時間もかかるし、余計な実験を増やす事になるんだ」


「モルモット言うなマッド野郎……」


 『装備の性能検証』という名の実験クエスト。

何度か行われたそれは、実は結果は出せたが過程に問題があった。

ガノンが想定したより進捗が遅く、時間、資材、資金、全てが余計にかかってしまったのだ。

報酬もかなり高く設定していたので、赤字とはいかなくても元を取るには時間がかかってしまう。

試作品も渡しているから尚の事出費は多い。


 原因は実験に参加したプレイヤーの能力不足であった。

ガノン達は一般プレイヤーにフィオと同等のスペックを期待してしまった。

愚痴りながらも平然とこなす技量、どんなヤバそうな内容でもやってのけるクソ度胸。

それをいつの間にか当たり前と思い込んでいたのだ。


 数度の実験の後、依頼を受ける者が減ってきた時点で運営にはシミュレーターを要望した。

だが、最後の1回くらいはやはり実際にやってみなければならない。

かつての専属(彼ら的には)プレイヤー待望論は燃え上がった。

ならば確保するまでだ。

基本的に手段は択ばず。


「なあ、頼むって。実験手伝ってくれよ」


「断る。実験台はリアルだけで十分だ」


「俺たちの本気っぷりは見せただろ!」


「本気すぎて引くわ! 頭が沸いてるとしか思えんぞ!」


「追加で報酬は弾むからよ、な?」


「物で釣る気か……」


「ほら、お前んとこのドワーフ。あいつに技術指導したりさ」


「え? マジ!?」


「……マサ?」


 思わぬ申し出に友人を売りかけるマサ。

しかし、ギロリと自分を睨むフィオの眼光を見てサッと目を逸らす。

だが正直言ってガノンの申し出は魅力的だ。

基本的に技術やアイディアは人数が多い方が有利だ。

よって最大規模の職人ギルドである『工房』は最新の技術を有している。

多くのプレイヤーが試行錯誤して発展させた技術をタダで(マサにとっては、だが)教えてもらえる。

マサが思わず反応してしまったのは仕方がない事だろう。


「ぬう、このままじゃあ平行線だな……」


「いや、お前が諦めろよ」


「ここは一つ後腐れの無い方法で決めようじゃねえか」


「聞けって」


「俺はプレイヤー。お前もプレイヤー。ならば方法は一つ……」


「……」


「デュエルだ!」


「はあ!?」


 本気で驚くフィオ。

最強クラスの戦闘プレイヤーに、職人プレイヤーがデュエルで挑むなど正気の沙汰ではない。

ガノンとフィオなら100回戦ってもガノンに勝ち目はないだろう。


「おいおい、正気かよ」


「もちろんだ。ハンデはもらうがな」


「威張って言うな……」


 多少のハンデがあろうともフィオの負けなど有りえない。

自惚れではなく単なる客観的な事実だ。

ガノンの要求するハンデも勝敗を覆せるような内容ではなかった。


 勝負はガノン自身を含む職人10人と、戦闘NPC『エージェント』20人を含む30人vsフィオ。

だが、エージェント達の単純な戦闘能力は中の上程度。

職人たちに至っては下の中と言ったところだろう。


 何よりフィオの側に制約がない。

リーフによる援護はありだし使い魔召喚も可。

これでどうやって勝つつもりなのかフィオにはさっぱり解らない。


「まあ、いいか。手加減はしないぞ?」


「おう、そうしてくれ。力だけで戦いは決まらん。それを教えてやろう」


「ご自慢の兵器はまだ作れないだろ?」


「くくく、そうだな」


「……コール ネクロス」


 思わせぶりな態度のガノン。

フィオはあれこれ考える事を止める。

罠なら突き破る、それだけだ。


 呼び出したのはネクロス。

ヒデのおさがりの刀を振るっていた彼は、かつてとは異なる種族に進化した。

ムクロ武士モノノフ』、落ち武者のような外見だが神速の刀を操る強力なアンデッドだ。

ネクロスと並び、フィオは眼前の敵集団に意識を集中する。


 フィオと相対するガノン達も余裕があるわけではない。

戦闘態勢に入ったフィオとネクロスは、向かい合っているだけでも凄まじいプレッシャーを与えてくる。

頼みの綱は全員が手にしている召喚のオーブ。


 その中に封じられた虫系モンスターだ。


次回、遂に決着。

勝負の行方は?

……って、大体想像つきますよね。


フィオの勝利=利用時の値引き、マサへの技術指導 (タダで)

ガノンの勝利=装備性能実験への協力、素材収集の手伝い(格安で)


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