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海路開放

土日と出かけてたら遅れてしまった……。


上野駅で安保反対署名集めてたなあ……。

9割9分9厘の人にスルーされてたけど。

 アスピドケロンがカプサイシンショックに悶える少し前、すでに周囲の船は突撃を開始していた。

イカリさえ処理してもらえれば接近は可能。

その後のパニックは更なる隙。

今、生き残った全プレイヤーが手負いのボスに襲い掛かる。


「なあ、何で亀が悶えてるんだ?」


「毒、は効かないし……、解らんなぁ」


「どうでも良いって。チャンスはチャンスだ!」


 ボスのもがき苦しむ姿に疑問はあれど、有利になるなら問題無し。

餓えた獣のごとくボスに群がる。


「お、あいつら生きてる」


「マジで特攻するとは思わなかったね……」


「やる気というか気迫というか、とにかくスゲエな」


 もちろん大破した2番船から脱出した『大航海時代』のメンバーは先に攻撃を加えていた。

MVPはほぼ間違いないが、彼らに安全策という言葉は存在しない様だ。

親の仇のように背中に攻撃を加えている。

当然フィオ達も突っ込む。


「漕げ! 漕げ! 漕げー!」


「全速力だ動力源!」


「誰が動力源だコラァ!」


「タクさん! 喋ってないで漕いでください!」


「バランス崩れてます!」


「あ、すいません……」


 何だか哀れなやり取りが行われはしたが。


------------------


 《西部海路のエリアボス『アスピドケロン』が討伐されました》


 《討伐戦参加プレイヤーには報酬が贈られます》


 《また、戦闘不能プレイヤーの報酬は80%になります》


 高らかに討伐完了アナウンスが響き渡る。

瀕死の亀は最早敵ではなかったわけだ。

現在ログイン中の全プレイヤーが、このアナウンスを聞いている事だろう。

しかし、やられた連中も意外に報酬が減額されていないのは良い事だと思う。

下手に大幅減にするとビビって戦わない奴が出る恐れがあるからな。


 《アップデート開始》


 《現在より24時間後に西部海域が解放され、探索が可能となります》


 《西部海域にインスタントダンジョン『無人島』『沈没船』『海底洞窟』が配置されます》


 《インスタントダンジョンは一定時間で消滅しますが、ランダムで何度でも発生します》


 ほうほう、インスタントダンジョンね。

βテストにはなかったな。

新たに導入されたシステムってわけか。

海の男たちが大歓声あげてるし。


 《48時間後にアップデートが完了します》


 《西大陸『フォレシア』が解放され、中央大陸『リバースゲート』との航路が解放されます》


 《西大陸最大の港『フォレスト・ポート』が解放されます。転移門への登録が完了することで、次回から直接の転移移動が可能となります》


 ようやく新大陸か。

簡単な情報は公式サイトで公開されていたな。



 西大陸『フォレシア』。

東部の港『フォレスト・ポート』を中心としたいくつかの町以外は、ほとんど全て森となっている。

自然系のダンジョンが無数に存在し、インスタントダンジョンも何十個と発生する。

モンスターも動物、植物、昆虫が中心で精霊系も出るらしい。

アンデッドや敵対的な亜人モンスターなど人型の敵が出ないのは、そういうのが苦手なプレイヤーに喜ばれるだろうな。

気にもならない俺だが決して異常者ではない。

……はずだ。


 他にも古代遺跡なども僅かに存在し、「これぞ冒険!」と言えるエリアだろう。

そして森という環境は、妖精系や獣人系を選んだプレイヤーに多少のボーナスが付く場所でもある。

まあ、他の種族にマイナスが付くわけじゃないし、ボーナスと言っても微々たる物のようだけど。

徐々にアップデートも行われるみたいだし、全エリアが解放されても人気は落ちないだろうな。


 ……しかし、何だろう?

西大陸、森と遺跡と冒険者?

何で聞いた事あるように感じるんだ?

これがデジャヴってやつか?


--------------------------


 同日のスタッフルーム


「第2サーバー『フォレシア』起動完了」


「第1サーバー『リバースゲート』への接続開始」


「アップデート準備完了」


「ふう、意外と早かったな……」


 スタッフたちは西大陸開放の準備を終え、しばしの休憩に入っていた。

βテストは1基のサーバーでテストを行った。

しかし、製品版は東西南北中央の5つの大陸を、5つのサーバーで動かすのだ。

48時間後には第1サーバーと第2サーバーが接続され、RWOの世界は2倍の大きさになる。


 仮想世界とは言え、地球並みの大きさの世界を動かすのだ。

有機コンピューターの超高速演算が無ければ不可能だっただろう。

将来的には脳に直接バイオチップを埋め込むことで、周辺機器を使用しない仮想ダイブも可能になるかもしれない。

そうなった時、電脳世界は本当の意味でもう一つの世界になるのだろう。

このゲームはその未来の先駆けなのかもしれない。


「おーい、手の空いた奴はこっちを手伝ってくれ……」


「あれ、まだ終わってなかったんだ」


「さすがと言うか、なんと言うか強敵でな……」


 手の空いているスタッフがゾロゾロと集まる。

表示されていたのはNPCの魂とも言える基本プログラムだ。

アルゴリズムの不具合を調整しているのだが、予想外に難航していた。


「うーん、やっぱりネックはネクロス君か……」


「リーフ君もだ」


「あまり削りすぎると性能自体が落ちるしな……」


 使い魔のデータを基に構成されたNPCの人格データ。

そこに残された忠誠心という名のバグ。

倫理やルールを時に無視させ、本来なら行えないはずの行動を行わせてしまう原因。

修正はなかなか困難であった。


「ガノン君への警告は?」


「やってはいますが、明確な違反でもないのに何度もやるのは……」


「そうは言っても、彼があのエージェントを動かすとバグの存在が知られるリスクが高まるだろ」


「少し大人しくしていてもらわないと。少なくとも修正が終わるまではね」


 ガノンの行為は過激だが、本来ならば罰せられるようなレベルではない。

RWOではPKや犯罪プレイが、リスクこそ膨大だが禁止はされていないのだ。

目に余るほど悪質な場合は運営が介入しているが、よくあるいざこざ程度ならプレイヤーやNPC達に解決させる方法を取っている。

具体的には、賞金首にしたり商品を売らなかったりという手が取られている。


 VRMMOの運営のスタンスは2種類に分かれる。

1つは明確に細かくルールを定め、違反者は容赦なく運営の手で処分するタイプ。

もう1つは大まかなルールだけを定め、後はプレイヤーやNPCにまかせて、彼らの手に負えない場合に手を下すタイプだ。


 前者は低年齢層のプレイヤーや、対人戦に忌避感を持つユーザーに人気である。

代わりに自由度は下がり、プレイヤーのスタイルがある程度制限統一されるので物足りないという者も現れる。

後者は自由度は高いが、プレイヤー全体のモラルが低いと世紀末状態になってしまい、新規プレイヤーが遊び辛くなってしまうというリスクがある。

大抵の場合、有力プレイヤーが集まって自治組織を形成し、治安を守ることになるのだが。


 RWOはペナルティを大きくして犯罪プレイを抑止してはいるが、基本的には後者よりだ。

リアルな冒険を追及すると、どうしても自由度を優先することになってしまうのだ。

NPCの盗賊は襲ってくるし、人型のモンスターも出現する。

人によってはとてもプレイできないだろう。


 しかし、RWOが人気なのはそこが原因の一つなのだ。

曰く『最近のゲームはヌルい』。

過剰なほどのセーフティと厳格な禁止事項。

それ自体が悪いわけではないが、どのゲームも似たようなシステム、似たような難易度になってしまう原因でもあった。


 ゲームに慣れた実力者、ベテランプレイヤー程不満を募らせた。

彼らには現行のゲームが、仲良くゴールする小学校の運動会のように感じられたのだ。

RWOはそういったユーザーたちの受け皿となることも想定している。

故に過保護に対応するわけにはいかないのだ。


 実際、フィオの様に犯罪プレイヤーを喜んで狩る犯罪プレイヤーバスターは何人もいる。

βテスト時と同様に悪さをするプレイヤーは、NPCからの好感度が減りプレイしにくくなる。

そして犯罪は禁止されていないが報復も禁止されていない。

被害者たちが結託して反撃に出る事もあったし、相談を受けた実力者が助力した事もあった。

今のところプレイヤーの自治はある程度うまくいっていると言えた。


「でも市場操作は本当に止めさせましょうよ」


「ああ、あれはね……」


 ガノンの実験の一環。

運営が介入するラインの調査。

その過程で彼は自身のネットワークを使い、一種の談合によって商品の値段を操作したのだ。

彼の指示で上下する物価。

さすがに運営も黙っていられなかった。


 将来的にはともかく、現時点ではあまりにも早すぎる。

まだ5分の1しか稼働していない状況でやられるのは影響が大きすぎる。


 操作金額がほんの数ゴールドだった事、彼の意図が実験だった事、禁止条項が存在しなかった事などが考慮されペナルティは警告で済んだ。

ガノンも2度と行わないことを誓約した。


 しかし、いくらリアリティが売りとは言えゲームでここまでやるだろうか?

しかも、目的が実験で内容が運営の介入ラインの調査である。

スタッフが彼の底知れなさを実感した瞬間でもあった。

そして、ガノンに対して『ある対処』を検討することになった原因でもあった。


「でも彼、また何かしようとしてますよ」


「……エージェントを使おうとしてるのか?」


「もちろんです。しかも」


「しかも?」


「相手は佐と……じゃなくて、フィオ君です」


「「「「「……」」」」」


 スタッフたちは真剣に、大マジで作業を開始する。

間に合え。

それが彼らの祈りだった。

プログラムの修正さえ終わればエージェントは無力化される。

余計なトラブルも起きない。




 だが、彼らの必死の努力は、ほんの数時間だけ間に合わなかった。




西大陸開放! そして近づく決戦の時!

って、ガノンは自分では戦う気ないですけどね。


ガノンが受けた警告の原因が明かされました。


ゲーム内での談合……何考えてるんでしょうね。


エージェントによるプレイヤー捕縛は、運営がNPCのプログラムバグを知られたくないという事がメインの口止め警告だったわけです。

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