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亀の逆襲

 野球ドームのようなサイズのアスピドケロンに次々とプレイヤー達が乗り込んでいく。

ある者ははピッケルを使って甲羅を破壊し、またある者は太い杭をハンマーで打ち込んでいく。

背中から伝わる衝撃にボスも身もだえするが、2番船のプレイヤー達が注意を引いて邪魔をさせない。


カン カン カン


カツーン カツーン


 音だけ聞けば採掘場だな。

しかし、ここは海の上。

そしてボスとの戦場だ。


 打ち込まれたイカリは全部で30個近い。

これで動くのに支障なしとは言わないだろう。

むき出しになった部分に攻撃が加えられ始める。

上陸部隊は順調か。


〈クアァァァァン!〉


 ガゴォン!


 ボスの咆哮を聞き目を向ける。

するとボスはヒレの前足を不器用に使って2番船から離れようとしていた。

どうやら一度目のアタックは時間切れのようだ。

あちこちで上陸部隊に向かって声がかかる。


「おーい! 戻れ!」


「時間切れだぞ!」


「沈みたくないなら戻れ!」


「おっと。もうか」


「急げ急げ!」


 ボスがターゲットから離れる。

パターンから言うと、次に来るのは水中からの浮上攻撃だ。

だから早く避難しないと水没してしまう。

プレイヤー達は潮が引くように船に戻り、船もボスから離れていく。


「よっと、到着」


「ただいま戻りました!」


「全員戻ったな?」


「オッケーだよ、兄貴、ヒデさん」


「おっし、退避!」


 ボスの巨体が見る見る内に海へ沈んでいく。

さて、イカリの効果はどれほどの物かな?

リエ達が船に搭載されているレーダーを確認すると


「だいぶ遅いですね」


「イカリの効果アリみたいね」


 水中のボスの動きは明らかに鈍いようだ。

まあ、当然か。

あれだけ打ち込んで効果無しは詐欺だ。


ジャーン ジャーン


ガン ガン


プオーン  プオーン


「挑発が始まったな」


 小型の高速船に乗った部隊がボスのヘイトを引き付けようとする。

浮上攻撃は小型船なら回避可能なのだ。

逆に大型船が狙われると厄介だ。

金属の装甲が張ってあっても、浮上の勢いをつけた体当たりを船底に食らえば耐えられるとは思えない。

それに逃げ遅れたプレイヤーの救助もまだ途中だ。

ボスにはしばらく迷ってもらいたいところだ。


「俺らもドラ鳴らすか?」


「いや、ここはプロに任せよう」


 うちには専門のタンク職がいない。

戦闘時は攻め攻めで、前衛は回避が基本だ。

ヘイトコントロールは小型船で盾を打ち鳴らしたり、角笛を吹いている皆さんに任せた方が良いだろう。


「ねえ、動力……じゃなくて兄貴!」


 ぶん殴るぞ、手前……。

俺だって思うだけで口にはしないのに。

いや、考えてることが同じ時点で同類なのか?

いやいや、そうじゃなくて


「来たか?」


「うん、結構な数」


 ボスが水中に潜るとダメージに比例して増援が現れる。

レーダーにはかなりの水中モンスターが映っているようだ。

こいつらに襲われる水中に落ちたプレイヤーは、かなり悲惨な事になるワケだ。

幸いプレイヤーの救助は完了している。


「乱戦になるかな……」


「狙いはボスだ。無理に全滅させる必要はないぞ」


「! 来ます、ボスの浮上攻撃!」


 どうやら挑発に負けて小型船の一隻を狙ったようだ。

だが、遅い。

イカリによって鈍足化した攻撃では高速艇は捉えられない。

船が避難した空白地帯にボスが浮上する。

海面が波打ち船が揺れる。


「うわっと!」


「落ちるなよ!」


 すでに水面下には雑魚モンスターがスタンバイ状態だ。

落ちれば袋叩きにされてK.Oされてしまうだろう。

さて、次は……。


「おお、また2番船か」


「勇敢ですね」


 攻撃を外して怒り狂うボス。

その正面に再び2番船が立ちふさがる。

どうやら2番船はこの戦いで使い潰すようだ。


 再び始まる亀ヘッドと2番船のガチバトル。

その隙に他の船はボスの甲羅に接舷し、攻撃部隊が乗り込んで行く。

ここまではさっきまでと同じだ。

しかし


「油断するなよ……」


「どこから来る……」


 船に残った俺とヒデは緊張感に包まれていた。

甲羅の上ではパワー系のプレイヤーが背中を攻撃し、スピード系のプレイヤーが水から飛び出してくる雑魚モンスターを倒している。

問題は雑魚モンスターが現れるのが、ボスの背中だけではないということだ。


「来たぞ! 左舷だ!」


「ウツボとエビか……」


 水中から飛び出した海産物モンスターが船に乗り込んでくる。

決して強敵ではないが、放っておくと船を齧って壊そうとするので無視できないのだ。

ボスの背中から退避したら船が沈んでました、では話にならないからな。

湧き続ける雑魚を延々相手にしてしていると、再び時間切れとなった。

さて、あと何サイクルかな……。


----------------------


「戻れー! 時間だぞー!」


 甲羅をほとんど剥がされたボスの背中。

マサと交代して上陸していた俺は攻撃の手を止めて船に戻る。

雑魚モンスターの襲撃は激しくなり、上陸しているのは俺とヒデとタクだけだ。

マサと妹達の計5人で船を守っているが、船も損傷し始めている。


「戻ったぞ。離れてくれ」


「はい!」


「オッケです!」


 漕ぎ手はアキとハルの姉妹。

双子だけあってさすがに息が合っている。

バックでボスから距離を取るとボスは水中に姿を消す。

そろそろ瀕死と言ってもいいころなんだがな。


「2番船は限界っぽいね」


「良く持った方だろ」


 与えたダメージはともかく、戦闘への貢献という意味ではMVPは彼等だろう。

ここまでの戦闘で8割以上ボスを引き受けていたのだ。

代償として船は満身創痍だが。

修理できるんだろうか?


「あれ? 変だよ」


「どうした?」


「ほら見て」


 リエに促されレーダーを見ると雑魚の反応が消えていく。

そしてボスの反応が全く動いていない。


「もしかして倒した?」


「いや、それは無いと思うが……」


 倒したなら討伐アナウンスが入るだろう。

某ゲームの飛竜みたいに寝てるのか?

仮にそうだとすると、水中に攻め込む必要がある。

さすがにそれは無いと思いたいが……。


「おい! 何だあれ!」


「2人とも! 全速離脱!」


 ヒデとマサの叫び声。

双子は指示通り全速力でボスの反応から離れる。

そして海に発生していたのは


「あれって……」


「渦潮か……」


 ボスの反応の真上の海上には巨大な渦潮が発生していた。

近くにいた船は必死に離れようとする。

しかし、小型船や推力の不足している船、損傷の酷い船は離れきれない様だ。


 そして渦潮の中心にゆっくりとボスが浮上してくる。

頭と四肢と尻尾をボロボロの甲羅に引っ込め、某カメ怪獣の様に凄まじい勢いで回転している。

穴からはジェット噴射のように水が吹き出している。

上陸どころか近づく事さえ困難だろう。


「おいおい、何だよこれ……」


「こんなのアリかよ……」


「これじゃ、どうやって倒せばいいのよ……」


 さすがに呆然とする仲間達。

だが、奴の甲羅はもうボロボロだ。

背中に向かって遠距離攻撃を加えればダメージは与えられるはずだ。


 同じように考えたのか、渦から脱出しきれなかった船が逆にボスに接近し始めた。

あの状態ではボスも攻撃できないはず。

そして船が遠距離攻撃の射程内にボスを捉えた。

だが


グシャ!


バギ!


ガゴォ!


「は?」


「え?」


 小型船が一瞬で打ち砕かれた。

中型船の先端が食い千切られたように粉砕された。

あっと言う間に船は沈没し、プレイヤー達は渦潮に呑まれてしまった。

何が起きた?

ボスが何かしたようには見えなかった。

レーダーには雑魚の反応は無い。


「あっ! あれっ!」


「黒い何かがボスから伸びてる?」


「そうか! イカリだ!」


 ボスの回転に合わせて周囲を旋回する黒い影。

それは鎖でボスと繋がったイカリであった。

ボスに絡まるどころか、今や鉄壁の防壁にして武器と化してしまっている。


 イカリがボスの動きを見事に封じていたのは確かだ。

そしてボスの奥の手は今回初めて目にした。

作戦ミスだと切り捨てるのは酷な話だろう。

とは言え


「どうやって突破する?」


「俺たちの船じゃ無理だな……」


 高性能だが俺たちの船は木製だ。

近づけばあっと言う間に沈められてしまうだろう。

やれるとすれば……。


 そう思い、ある方向に目を向ける。

そこには覚悟を決めたようにボスに向かって進み始める大型船が。

それはすでに限界が近い2番船であった。


奥の手を出したボスに特攻する船。

モブだけど、このレイドのヒーローは君たちだ!


大亀というと、どうしてもガ〇ラのイメージが……。

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