亀狩り開始
船を使った戦闘訓練を行う事しばらく、ついにアスピドケロン討伐戦が開始された。
出航する船団は大きく分けて2種類の船が存在した。
1つは外部に装甲板を貼り付けて強度を増した大型船だ。
搭乗人数も多く、内部はブロック構造になっているのでダメージにも強い。
機動力は低いがボスの体当たりを誘う囮なので問題は無い。
もう一つは中型から小型の高速船。
機動力はあるが体当たりを受けたら沈没確定である。
しかし、先端にはパージ可能なイカリ付きの衝角が付いていたりと、攻撃的なギミックを搭載している物が多い。
大型船がボスを引き付けている間に小型船が攻撃、あるいは乗員が甲羅に乗り込みイカリ付きの杭をぶち込む。
これが基本戦術である。
イカリで雁字搦めに縛り上げれば、後はタコ殴りにすればいい。
問題はボスがイカリを物ともしない場合だが、そこまでのパワーは無いというのが調査結果だ。
フィオ達の船は20人ほどが乗り込める中型の高速船。
当然アタッカー組である。
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「これも一種の釣りかね?」
「大型船がエサでイカリが糸ってか」
アスピドケロンが出現する海域までしばしの船旅。
フィオとマサは周囲の船団を見ながら適当な会話を続けていた。
ちなみにタクとヒデは動力源である。
女性陣もダイエットがどうとか言って偶に漕いでいる。
ゲームでダイエット? とか思うのだが言わぬが花だろう。
「着脱式衝角の設置、間に合って良かったな」
「まあ、イカリ自体は完成してたしな。付けるだけなら楽なもんよ」
当初は俺達も亀の甲羅に乗り込んで杭を打つつもりだった。
しかし、船の先端に使い捨ての着脱式衝角を設置、その衝角にイカリを仕込むという方法が知れ渡ったのだ。
センター・アインで勢力を伸ばすギルドから流れてきた技術らしい。
聞いてきたのはマサなので詳しい事は解らないが。
原理としては単純だ。
木製の箱を用意してイカリを中に入れる。
そして長めの杭を箱から突き出したら完成だ。
後はその箱を杭が前を向くように船の先端に設置する。
スピードに乗って船ごと体当たりすると、杭が刺さり箱は潰れて壊れる。
箱はそのまま船から外れ、壊れた箱からはイカリが水中に落ちる。
亀に飛び乗らなくてもイカリを撃ち込めるので有効そうな装置だ。
大型船では使えないが。
元ネタは三国志なんだとか。
古代中国の三国時代、中国南部の呉は水軍が精強だった。
その呉において、最高の水軍指揮官と言われた武将が使用した策の1つなんだとか。
船足の速い小型船にこの装備を搭載し、大型船を封じ込め火矢で止めを刺す。
呉は多勢に無勢の戦いでも、大型船中心の魏の水軍を何度も撃退したという。
大型船を亀に見立てれば確かに有効そうだ。
しかし、考案した連中は並みじゃない。
相手がモンスターか人間かというだけの問題じゃない。
知っていたとしても応用できるだろうか? 実行するだろうか?
発想が柔軟で自由すぎる。
……何故か憂鬱になってきたな。
何でだろう。
「お、伝達だ。陣形組み始めるってさ」
「ん、了解。おーい、減速だ!」
「おう!」
「あいよ!」
なんか漕ぎ手が板についてきたな、あの2人。
速度差から後方にいた大型船が前進し、高速船が左右に分かれていく。
俺たちの配置は右翼だったな。
そろそろ女衆にも声をかけるか。
「おーい! そろそろ出てこいよ!」
「「「「はーい!」」」」
船室からリエ達が出て来る。
当然フル装備だ。
「腕が鳴るわ!」
「いくら練習したって言っても水中は奴のホームグラウンドだ。落ちるなよ」
「水上移動ができたらねー」
「贅沢言っちゃだめだよ」
アメンボの指輪は発見されていないからな。
水上移動できるスキルも未発見だ。
水を凍らせれば? とか思う者もいるだろう。
だが、そんな強力な魔法は使えないし、氷の上を普通に動けるだろうか?
何? 板を浮かべて足場にしろ? どこの武術の達人だよ!
まあ、不可能とは言わないけど……。
「兄貴?」
「いや、何でもない」
少々思考が脱線してしまった。
3隻の大型船が横に並び、その左右にそれぞれ5隻の中型船。
大型船からは使い捨て前提の小舟も降ろされる。
当然イカリ衝角付きだ。
そして
「伝達きたぞ。中央2番船の正面だ」
「ヒデ、タク、何時でも行ける準備しろ!」
「出た!」
ドパァァァァン
〈クオォォォォン!〉
海を割って出現したのは小島のような大亀、大ボス『アスピドケロン』。
奴のターゲットは正面の2番船のようだ。
2番船は即座にイカリを降ろして船体を固定、奴の攻撃に備える。
1番船と3番船は左右に展開、右翼と左翼は全速力で後方に回る。
魔法や飛び道具が牽制に放たれるが相手のサイズがデカすぎる。
この距離では牽制になっているかも疑わしい。
大亀は2番船に接近し体当たり攻撃を仕掛ける。
ガンガンと凄まじい音が響き、2番船の装甲が歪んで軋む。
「よし、2人とも一度ストップだ。奴の動きが止まったら突撃する」
「ピッケルの準備オッケーだよ」
「よし。予備も忘れるなよ」
ボスの背中はがら空きだが甲羅のせいでダメージが通らない。
しかし、採掘場と同じようにピッケルで発掘すると甲羅が壊れていくのだ。
おまけに甲羅が素材として手に入るので一石二鳥。
周囲の船でもピッケルを構えたプレイヤーが、今か今かとその時を待っている。
ちなみに俺は船に残って漕ぎ手だ。
重量級武器を使うマサとタクは、他のチームの杭打ちを手伝う事になっている。
この討伐戦に参加した全チームがイカリ衝角を用意したわけではない。
それに、やはり背中にしっかり撃ち込んだ方が抜けにくいだろう。
なぜか甲羅から石ころが出てきそうな俺と、大太刀使いのヒデは適材適所で居残りというわけだ。
俺は甲羅が剥がれてから出撃という事になる。
こういった変則的な大規模戦闘では、いくら俺個人が強くても役に立てる時と立てない時がある。
取り敢えず今はまだ出番ではないという事だ。
〈クエエエエ!〉
ガコォォォン
2番船に接近した大亀が圧し掛かる様に船に組み付いた。
船はさらに軋むが持ちこたえ、沈む様子は無い。
おそらく内部では破損したブロックを封鎖して、浸水を抑えているのだろう。
ボスは首を伸ばして攻撃し、射程は短いが範囲は広い水の散弾を打ち始めている。
2番船の乗員が応戦している隙に1番、3番船がボスに接近、甲羅に乗り込み始めた。
よし、行くか。
「タク、ヒデ、全速力だ!」
「「了解!」」
「各員衝撃に備えて!」
「「「「ハイ!」」」」
フィオ達の乗る船は一気に加速しボスの後部、後ろ足と尻尾の中間付近に突き進む。
そして、船が潰れるような衝撃と共に、衝角はボスの側面に深々と突き刺さった。
甲羅には亀裂が走り、鉄の杭がガッチリと食い込んでいる。
潰れた先端部は切り離され、水中にイカリが沈んでいく。
「よし、上陸開始! 任せたぞ!」
ボスは2番船に気を取られているので動きが止まっている。
小舟に乗った6人はボスに向けて突っ込んでいく。
そして先に上陸したプレイヤーが降ろしてくれた縄梯子を使って上陸していく6人。
さて、ここまでは順調。
不測の事態が起きるとしたら、甲羅破壊後かHP減少時かな。
vs蛾かと思いきや亀が先でした。
βテスト以来の大規模戦闘となります。
戦術に関しては出自も込みで諸説ありますが、某国も西暦200年頃なら(それ程)嘘と改竄を繰り返してはいないでしょう。
あ、でもレッド〇リフは三国志を元にしただけのフィクションです。
周瑜と諸葛亮も『敵の敵だから味方』程度の関係で、周瑜は諸葛亮を隙あらば殺そうとしてました。
映画のような友情など存在していません。
まあ、反日二国の抗日神映画よりは遥かにマシですか。
あれは完全なファンタジーですから。