暴露
久々の投稿。
こっちもオチはつけておかないと。
カツーン! カツーン!
採掘場にピッケルの音が響き渡る。
見渡すだけでも数十人のプレイヤーが、岩山を削り切る勢いで鉱石を掘り出していた。
彼らの目的は鉄鉱石。
正式サービス開始直後こそ貴重品だったが、今ではそれほど値は張らない。
「ふう……マサさん、あとどれ位要るの?」
「ん? そうだな、30個もあれば十分かな」
「了解~」
「さ、あとちょっと」
リエ達女性陣とヒデとマサは鉄鉱石発掘にきていた。
ちなみにタクはレアモンスター『パンゴリル』の噂を聞くと出て行ってしまった。
「実在するなら俺がコロス」との言葉を残して。
彼は類人猿が嫌いなのだ。
思わずぶん殴りたくなる方向で。
フィオもそれについて行った。
曰く「どうせ石しか出てこない」とのことだ。
こちらは己というものをよく知っているが故の発言だろう。
そんな訳で残りのメンバーが鉄鉱石を集めに来たのだ。
さて、ではなぜ鉄鉱石が必要なのか?
それは海のボスモンスター情勢に変化があったのが事の発端である。
まず、プレイヤー達がこれまでのアタックで集めた情報を分析した結果、『ラハブ』『モビィ・ディック』『クラーケン』の現時点での討伐は不可能と判断された。
よって、ターゲットは西の大亀『アスピドケロン』という事になる。
アスピドケロンも決して弱くは無い。
しかし、攻撃は体当たりか水中からの浮上攻撃が中心で、遠距離に攻撃できる強力な飛び道具を持たない。
更に防御力は高いが動きはそれ程敏捷でないし、一撃で船を沈められるわけでもない。
戦力さえ十分ならば討伐は可能であると判断されたのだ。
そして作戦会議の結果、討伐に参加するパーティは必ずある道具を持ち込むことが義務付けられた。
それが大きな鉄製のイカリである。
大型船を停留させられるだけのサイズのイカリを、杭で甲羅に打ち込む。
更に鎖にはブイも着けておき、水中のアスピドケロンの位置を掴む。
これが作戦の概要であった。
アスピドケロンの体当たりは、船に接近してガンガンとぶつかって来る攻撃である。
モビィ・ディックの砲弾のような体当たりと違い、背中に飛び乗るだけの隙があるのだ。
飛び乗る事に成功すれば、後は水中に潜られる前に杭を打ち込みまくる。
動きを封じられれば後はタコ殴りでK.Oしてしまえばいい。
何度か実験が行われ、成功率はかなり高いとのことだ。
フィオたちも自分で何度か試しているので、討伐作戦には参加する予定だ。
そして現在、参加料となるイカリの作成に必要な鉄を集めているというわけだ。
購入した方が早いのだが、皆同じ事を考えるので鉄鉱石は急速に値上がりしている。
そして船の建造依頼を出したので資金に余裕が無い。
となると、自分たちで掘るしかないという事になる。
「マサさんはしばらく忙しくなるね」
「船っていつ完成するんだろ?」
「もう一回くらい亀さんに挑んで練習しておこうかな」
「パンゴリル、ホントにいるのかな?」
3人寄れば姦しいというが、女性四人の雑談は留まる事を知らない。
それでもピッケルを振るう手は正確なのだから彼女たちも生粋のゲーマーである。
程なくして鉄鉱石は十分量集まった。
「よし、じゃあ俺とマサはホームに戻るけどリエちゃん達はどうする?」
「ん~、もう少し掘って行こうかな?」
「お兄さんにはそのうち必要になるだろうし」
「ああ、ギアね。了解」
ヒデとマサは鉄鉱石を持ってホームに戻る。
4人娘の目の前には石の山が残されていた。
ただの石もそれなりに使い道はあるのだが、マサが残していったという事は今のところ必要ないのだろう。
「これどうする?」
「兄貴へのお土産かな」
「正確にはギア君ね」
現在フィオはまだギアを呼び出せない。
だが、呼び出せるようになったとしてもギアは最初は『ウッド・ゴーレム』である。
彼を『ストーン・ゴーレム』に強化するには大量の石が必要なのだ。
と、そんな会話をしていた時、こちらに近づいてくる者達がいた。
「こんにちは」
「はあ、どうも」
「御用ですか?」
「ああ、いえ。懐かしい名前が聞こえたんで」
2人の男性プレイヤーはセンター・アインで店を開いている商人と名乗った。
ここには鉄鉱石の仕入れに来たのだという。
「懐かしい名前ですか?」
「はい。ギアと聞こえたので、もしかするとフィオさんの知り合いかな、と」
「あ、もしかしてあなた方は……」
「ええ、第3サーバーのβテスターです」
「彼には色々とお世話になりました」
6人は簡単に自己紹介すると、採掘をしながら雑談に花を咲かせる。
2人はリエがフィオの妹という事に驚き、4人はβテスト時代のフィオの暴れっぷりに呆れかえる。
お互いの近況を話していたところで商人は不意に尋ねた。
「そういえばお兄さんはどちらに?」
「兄貴はいつも、あちこちフラフラしてるんですよね」
「今日は仲間のタクさんに付き合ってサル退治です」
「ほう……」
商人2人の目が鋭くなるが4人は気付かず話し続ける。
この場にフィオがいれば即座に4人をホームに帰らせていただろう。
だが、彼は今ここにいない。
「タクさんはサル嫌いだからね」
「私はゾンビが苦手だけどね」
「おや? そのタクさんは苦手なモンスターをわざわざ狩りに?」
「いえ、タクさんは苦手なんじゃなくて嫌いなんですよ」
「ぶん殴りたくなる方向で」
「ああ、成程」
そして2人は核心に切り込んだ。
相応のリスクを負う事は承知の上。
マナー違反と拒絶される可能性が高い。
しかし、自然にサラリと発された問いにリエたちは違和感を抱けなかった。
兄の知人と思い込んでいるという事もあるが、熟練の恐るべき話術であった。
詐欺師も真っ青である。
「そういえばフィオさんの苦手な物ってあるんですか?」
「兄貴の?」
「はい。そういった話を聞いた事が無いんで」
「え~っと、お兄さんは納豆が嫌いなんでしたっけ」
「生ものも好きじゃなかったような……」
「いえ、そうじゃなくてですね……」
見当外れの回答に落胆する2人。
やはりそう上手くはいかないかと諦めかけたその時、女神の託宣が発せられた。
「あ、そうだ。兄貴は蛾が苦手よ」
フィオにとっては疫病神の呪言であった。
リエはこういった誘導尋問に耐性が無かったのだ。
「……が? あの虫の蛾ですか?」
「うん、あの蝶の親戚の」
「トンボもあんまり好きじゃないんだっけ?」
「うん。昔オニヤンマに噛まれたらしくてね」
商人2人は目を合わせ頷きあう。
今この時、悪の秘密結社にフィオのトップシークレット情報が露見してしまったのだ。
それに気付かずリエは暴露を続ける。
元より会話好きでお喋りなリエ。
このノリの軽さを心配して兄は傍にいたのだ。
せめてヒデとマサが残っていれば止められただろう。
だから、商人たちは2人が帰ったことを確認してから話しかけたのだ。
「小学生くらいの時かな、兄貴ドクガに触っちゃったんだよ」
「うわぁ……」
「痛かっただろうね……」
「うん、すんごい腫れてさ。1週間くらいかな? 相当キツかったみたい」
「成程、それで蛾が苦手に……」
「うん、見るだけで嫌だって。粉が着いただけで大騒ぎするくらいだもん。夏なんか絶対に夜は外に出ないし」
「ああ~、そんな理由があったんだ」
「お祭りなんかも渋ってたもんね」
「ふむ、彼にそんな弱点が……」
「修学旅行のキャンプなんか地獄だったみたいだしね」
「なるほど……」
しばらくすると、商人2人はかなりの量の鉄鉱石を掘り出した。
戦闘職の4人より採掘スキルが高いのだろう。
彼らは話し相手になってくれたお礼に、と4人に鉄鉱石を分けると「急用ができたから」と足早に去って行った。
4人は臨時収入に大喜びする。
自分達の犯した大罪を自覚する事無く。
「リーダーに至急連絡を」
「有力かつ重要な証言が得られた」
悪魔の弱点ついに知られる。
忘れていた読者も多いのではないだろうか?
ロトン・モスはフィオにとっては、ある意味ラスボスだったのです。