年明けイベント
もうすぐ新年のイベントが開催される。
東西南北に存在する第2の町セカンド。
そこで新年から新しくコロシアムが稼働するのだ。
オープン初日は年明けイベントが行われる事になり、俺達も向かってみたわけだ。
残念ながらイベントに参加できるのは午年生まれの年男、年女だけだったので見物の為に客席に座っているのだが。
闘技場には腕に覚えのある午年のプレイヤーが続々と集まってくる。
それはいい。
「なあ、これどう思う?」
入場の際に渡された紙を手に友人達に尋ねる。
「怪しさマックスだな」
「悪い予感しかしないな」
「あの運営だしな」
うむ、ほぼ俺と同じ感想だ。
渡された紙にはこう書かれていた。
〈何人生き残るか予想を記入して下さい。前後賞、ニアピン賞ありです。〉
生き残るって何だよ。
どう考えても物騒なイメージしか湧かない。
周囲も同じように考えているのだろう。
心配そうに、あるいは期待を込めて参加者達を見ている。
〈それではこれより新年のイベントを開始いたします〉
参加者が1500人位になったころ、アナウンスが入った。
闘技場の広さには結構余裕がある。
〈1531名の参加者の皆さまは最後まで勝ち残った場合、全員に賞金が支払われます〉
〈見物席の皆さんは予想を記入して下さい〉
ふむ、イベントの内容が解らんと予想は難しいな。
ちょっと厳しめに100人にしておくか。
数字を入力すると用紙は消え去った。
さて、どうなる事やら。
〈イベント内容は簡単。闘技場の8つのゲートから十二支にちなんだモンスターが現れます。それを倒して下さい。では早速ゲートオープン!〉
ギギギギギ
ゲートが開くと1m位の影が飛び出した。
「あれは……」
「ポイズン・ラットか」
「すげえ数だな、おい」
まずは子のネズミ型か。
さほど強くは無いが数が尋常じゃない。
灰色の波のように参加者に襲いかかる。
「乱戦か。軽装の奴らにはきついな」
「毒があるしなあ」
「お? 新手だ」
今度はゲートからバッファローの様なモンスター『ワイルド・ブル』と石製の防具位なら噛み砕く兎『バイト・ラビット』が飛び出してきた。
雑魚ではあるのだが、数が多いしネズミに気を取られているので参加者は結構やられてる。
その後も暴れ羊、毒蛇、ゴリラ、大山猫などが続々と出現する。
最初以外は出てくる順番は特に十二支とは関係無い様だ。
「出てこなくなったな」
「大分モンスター減ってきたぞ」
凄まじい乱戦が落ち着き始めた。
生き残った参加者は1000人位か?
ネズミの毒の被害が大きかったみたいだな。
〈グルルル〉
〈コフー、コフー〉
〈バフ、バフ〉
「げ」
「おいおい」
続いてゲートから現れたのは3種類のモンスター。
氷の体毛を持つ犬『アイス・ドッグ』、炎の鬣を持つ馬『バーン・ホース』、岩の体を持つ猪『ロック・ボア』。
どれも今の段階ではかなりの強敵だ。
それが8つのゲートから1体ずつ、合計24体。
あっという間に闘技場は決戦の舞台となった。
「これは……」
「何というか……」
「酷いな」
情け容赦無い運営に、参加者を応援したくなる。
そして彼らは犠牲を出しながらも24体もの強敵を打ち破った。
残り人数は600人位だろうか。
「これで大体出たか?」
「後は酉と……」
「辰か」
「おい、あれ……」
ゲートから現れた8つの影。
うち4つは翼の無い小型のドラゴンの様な姿をしている。
亜竜の『アース・リザード』だ。
こいつも相当な強敵だ。
しかし
「マジ?」
「運営正気か?」
残りの4体のインパクトの前には霞んでしまう。
鶏の様な体、トカゲの様な尻尾。
恐るべきは石化能力を持つ嘴。
「「「「コカトリス……」」」」
4人がコカトリスを知っているのはβテスト経験者だからだ。
現在、少なくとも中央大陸ではコカトリスは未確認だ。
テスト時と強さが同じならフィールドボスより上だろう。
そもそも鋼の武器でダメージが通るのだろうか?
それが4体。
牙を剥くアース・リザード。
襲いかかるコカトリス。
参加者達も最後の力を振り絞り戦う。
その姿は見る物に感動を与えてくれた。
犠牲は大きかった。
フィールドに残った参加者達は100人にも満たない。
勝利の栄光を手にした勇者たちに、惜しみない拍手が送られる。
〈おめでとうございます。イベント達成者は86名。皆さんには賞金が贈られます〉
〈予想的中者は3名でした〉
俺は±10以上だったのでニアピンも無しか。
しかし、ここまでひどい難易度だなんて思うか?
お正月の祭りみたいなもんだろ。
〈それでは勝ち残った勝者の皆さんに追加イベントです〉
は?
まだ続くの、このイジメ。
〈明日より解放されるコロシアムでは、ユニークモンスターとの戦闘を楽しむ事もできます。今回はそのユニークモンスターに登場してもらいます〉
そういやパンフレットにそんなのがあった様な。
通常より遥かに強いユニークモンスター。
見事倒せたら賞金ってやつだっけ。
〈ではユニークモンスターのサブちゃんの入場です〉
「「「「「「「サブちゃん?」」」」」」」」
ガコン
突如、闘技場に巨大な穴が開いた。
いや、違う。
あれは地下への階段だ。
ズン ズン ズン
聞こえてくる足音。
振動する会場。
来る。
とてつもない何かが。
〈さあ、彼が『六刃の巨獣』。通称サブちゃんです!〉
ズズン
姿を現したのは大型トラックの様なサイズの巨獣。
全身は筋肉の鎧で覆われ圧倒的なパワーを宿しているのが解る。
頭部には捻れた2本の角、首周りには鬣。
βテストには登場しなかった、ドラゴンと並ぶ有名強豪モンスター。
獣の王ベヒーモス。
しかも額、両肘、両肩、尾の先端に巨大な刃が生えている。
ヘキサ・ブレイド、6つの刃か。
〈さあ、Sランクユニークモンスターであるサブちゃんの賞金は、なんと5000万。勝利すればあなた達の物です!〉
「「「「「「「勝てるかボケェ!!」」」」」」」
参加者達の絶叫。
うん、同感だ。
200万あれば最新の大型船を作れる。
5000万なんて馬鹿げた賞金、どんだけ強いんだよって感じである。
〈では、バトルスタート!〉
「「「「「「「ちょっと待てー!!」」」」」」」
もはや、罰ゲームにしか見えない。
サブちゃんが足をたわめて突進する。
速い! まるで猫科の猛獣の様な加速。
「「「「「「ぎゃああああああ!」」」」」」
「「「「「「助けてーーーーーー!」」」」」」」
始まったのは阿鼻叫喚の地獄絵図。
完全に処刑場と化した闘技場。
〈それでは皆さん。今年もRWOを楽しんで下さーい!〉
……こいつら。
絶対サブちゃんのお披露目の方がメインだったんだろ。
午年でなくて良かった……。
しまった。
再投稿したら干支が合わない……。