悪魔の敗北
「聞いた通りの賑わいだな……」
始まりの町センター・アインにやってきたタクとマサ。
2人の目的は木材の相場の調査であった。
最近、東西南北の港町が解放され、彼らも北の港町『ノース・ポート』に到達した。
これにより、いよいよ別大陸進出が現実味を帯びた。
しかし、その航路には大ボスモンスターが待ち構えている。
そして先日、30名ほどのプレイヤー達がイカダで白鯨『モビィ・ディック』に挑むという暴挙をやらかした。
当然イカダはあっさり沈められ全滅となったわけだが。
その結果、大ボスと戦うには頑丈、あるいは機動力のある船が必要と言う事が解ったのだ。
職人達は競う様に造船を開始し、大手ギルドも少しでも性能の良い船を手に入れようとする。
そうなると材料となる木材が大量に必要になったのだ。
依頼は半分以上が木材採取に埋め尽くされ、木材の転売で稼ごうとする輩も現れる始末だった。
4人はトレントやリビングオーク(豚ではなく樫)を狩りまくり木材を集めた。
そしてフィオとヒデはノース・ポートで卸先を探し、タクとマサは相場の調査をやっているのだ。
金に困っているわけではないが、自分達も船が必要になるかもしれないので金はあった方がいい。
ちなみにフィオはセンター・アインに行く事をかたくなに拒んだ。
『彼ら』の事を知っていた訳ではない。
ただの直感というか第6感に従ったのだ。
この野生の小動物にも匹敵する危険回避能力も、フィオの強さと言えるかもしれない。
後にフィオは語る。
『彼ら』が道を踏み外した原因は俺にもあるのかもしれない。
要望にホイホイ応え、暴走を止めようとしなかった。
さすがにヤバいと思った時、すでに手遅れだった、と。
「じゃ、見て回るか」
「おう」
2人と『彼ら』が接触する時、フィオの悲劇が始まる。
これはもう少し先の話だが。
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ノース・ポートを散策するフィオとヒデ。
大体の取引相手は絞り込んである。
後はセンター・アインの相場と比較して取引金額を決めるだけだ。
何しろ3000以上の木材だ。
慎重にもなる。
「俺らはどうする?」
「ん~、北はイカか……」
『クラーケン』は唯一βテストに登場している。
対処法は心得ているが、能力がテストの時と同じだとすると現時点では勝算は薄い。
奴が登場したのはラストの第3エリア、さすがに装備の質が不足だ。
「情報が集まるまで待つか」
「何なら偵察してきてもいいしな」
港には試作品の船が浮かび、テストが行われている。
『躁船』のスキルも登場し、それを鍛えているプレイヤーも多い。
町は非常に活気にあふれていた。
「ん? なあ、ヒデ。あれなんだ?」
「そういや、チラシが貼ってあったな。プレイヤー主催の大会だったか」
「へえ、バトルか?」
「いや、確かくじ引きで種目決めるんだとか」
試しに行ってみると参加者は結構多い。
1000人はいるだろうか。
「参加希望者募集中でーす!」
100人1ブロックで12ブロックの予定らしい。
商品は……船か?
「なんだか豪華な商品だな」
「お、あれって最近開発された新型だぞ」
展示されている上位者への賞品は船。
しかし1位の賞品は他の物とだいぶ違う。
オールの代わりに水車の様なものが両脇についているのだ。
「ふーん、レバーを回して水車を回転させるのか」
「スピードが全然違うらしいぞ」
「新型のお披露目でもあるってことか」
ふむ、船はあっても困らない。
タダならチャレンジしてみる価値も有るな。
「よし、出るか」
「了解。言うと思ったよ」
「第5ブロックか。そっちは?」
「第1。トップバッターだ」
振り分けの結果、俺は第5、ヒデは第1ブロックに決まった。
賞品が豪華なので、あの後すぐに定員は埋まった。
滑り込みセーフだったな。
〈第1試合を開始します〉
「よし、行ってくる」
「おう、頑張れ」
会場に向かうヒデ。
運営員が箱に手を突っ込みボールを取り出す。
〈第1試合は障害物競争です〉
これは前衛のヒデは有利だな。
斥候職なんかは独壇場かもしれない。
逆に後衛は不利だな。
魔法職のプレイヤーは早くも諦めムードだ。
上位10人が2回戦に進出できるようだ。
ヒデは7位、見事一回戦突破だ。
予想通り1位から5位まで斥候職。
後衛は全員落ちたようだ。
第2試合は砲丸投げ。
パワー系の前衛が勝ち残る。
第3試合は的当て。
弓や投具、魔法使いが勝ち残る。
第4試合は縄跳び。
プレイヤースキルの高い、操作の上手い奴が勝つ。
〈第5試合を開始します〉
お、出番だ。
さあ、どんと来い。
箱からボールが取り出される。
そこに書いてあったのは……。
〈第5試合は料理対決です〉
フィオ、1回戦敗退。
ヒデ「審査員生きてて良かったな」
フィオ「俺の所為じゃない……。俺は止めたんだ……」