羊たちの沈黙
センター・アインの町の広場で、5人のプレイヤーが虚ろな目をしていた。
男3人の女2人、計5人。
彼らは昨日手配書に載った犯罪プレイヤーだった。
正確には「元」が付くが。
彼らは数分前に襲撃を受け、負けた。
そして金、アイテム、経験値をごっそり失ったのだ。
5人はリアルの知り合いで、全員中学生だった。
RWOが発売したらPKプレイをやろうと決めていたが、特に深い理由が有った訳ではない。
ただ、なんとなくカッコ良いからとかそんな理由だった。
VRゲームによるPKは賛否両論だ。
殺人や傷害に対する心理的な防壁の低下を危惧する声は、もちろんある。
しかし、逆にゲームでそういった衝動を発散させることで、踏みとどまっている者もいるのでは、という意見もあるのだ。
この辺は難しい判断であり、RWOはPKは可能だが割に合わないという仕様になった。
さて、問題の彼らだが、実はβテストに参加した友人がいたのだ。
彼は参加前に「PKプレイヤーとして名を上げる」と息巻いていた。
しかし、βテストの結果を聞くと、立派な通常プレイヤーとして過ごしたという。
彼らは心変わりした理由を聞いたが、遠い目で「人の嫌がる事は、しちゃいけないんだよ…」と答えた。
ちなみに彼が参加したのは第3サーバーだった。
製品版でも友人はPKをやろうとしなかった。
それどころか彼らがPKするのを止めようとした。
彼らが聞き入れないと、諦めたように「アレが来る。絶対来る……」と言っていた。
その時は何のことかさっぱり解らなかったが。
自分達が少人数の職人プレイヤーを襲ってレッドになり、手配書に載った事を自慢すると、彼は顔色を青くした。
そして「もう仕方ない。洗礼を受けてこい」と訳の解らない事を言っていた。
だが翌日、襲撃を終えてアジトに戻ろうとすると、逆に襲撃を受けた。
鮮やかな手並みで。
自分たちのやり方が稚拙に思えるほどだった。
「やっぱりやられたな」
顔を上げると友人が立っていた。
その眼には理解と同情の色が浮かんでいる。
皆、口々に問い詰める。
「何よあれ?」
「PKKだよ。手配書に載ると一気に来る」
「載ったのまだ昨日だぞ……」
「どんな奴だった?」
事情を話すと友人は深くうなずいた。
「うん、間違いないな。やっぱりいたんだ」
「何のことだよ!」
そして語られる、あるプレイヤーの逸話。
βテストにおけるPK達の末路。
それを聞いて尚、PKを続けようと考えるほど執着する者はいなかった。
普通にプレイしていた友人と、ペナルティを食らった今の自分達。
その差はかなりの物になった。
PKをすれば即座に襲われる。
そして差は広がる。
その現実に彼らは屈した。
狩られる覚悟を持ってまで、PKにこだわる者は稀なのだ。
こうして悪魔は新たに5人のプレイヤーを更生させたのだった。
ちなみにPK欲求を発散させるための施設として、コロシアムのある町が存在するのだが、この時点ではまだ知られていなかった。
そして、当然の様に悪魔が降臨する事もしばらく後のことである。
前話の続き、惨劇の後です。