足りないモノ
「解る? 兄貴! 足りないのよ!」
「はあ……」
「えっと……」
熱弁を振るうmy妹。
時間はさかのぼる。
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正式サービス開始直後、俺は友人や妹たちと合流した。
βテストの時は1人で行動していたが、気心の知れた連中と一緒というのも良い物だ。
皆の種族はβテストの時と同じで、悪魔な俺はまたしても吊るし上げを食らった。
今度は面と向かってなので、ガラスのハートにヒビが入りそうだった。
それはさておき、全員がボーナスを貰っており、何と初期から鉄の武器を持っていた。
俺は凄い物を貰ったが、今はまだ使えないので原始人の石器みたいな槍だ。
貰ったボーナスについて話していると、ホームエリアは結構上位の景品だったらしいという事が判った。
そして妹に強引にパーティを組まされ、ホームエリアを占領されることになったわけだ。
女は怖いな……。
いや、リエが強引なだけか。
今までは個人で使っていたので最低限の設備しかなく、後は大自然だったホームエリア。
13体のモンスターがうろついているが、ある意味要塞より安全な魔王城だった。
フェイやネクロスなどは初期の種族に戻ってしまったが、成長したAIはそのままだ。
カリスなど、初期でもランク4の水晶竜だし。
共同所有になったことで、エリアは人数に合わせて広がった。
俺は早速施設を拡張し始めた(一応リーダーは俺だし)。
マサの為の工房も作ったし、人数分の部屋も作った。
鍛練場も広いし、うむ、結構いい出来だ。
実は俺は美術や工作は得意な方だ。
種族ペナルティでズタボロだったが、職人も向いているはずだ。
でもまあ、その辺はマサに任せよう。
マサはボーナスのちょっと性能の良い工具を設置し始めている。
そして、ホームが大体完成した所で妹が何故かヒートアップしたのだ。
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「ここはどこ?」
「ホームだろ」
「兄貴は何?」
「悪魔だけど」
何が言いたいんだ?
ていうか、大丈夫か? こいつ……。
皆、引いてるんだが、リエは構わずかっ飛ばす。
「兄貴は(元)魔王! なら、ここは魔王城!」
「その心は?」
「足りないのは……威厳よ!」
「「「「……」」」」
「リエちゃん……」
「昨日、興奮しすぎて眠れなかったのかな……」
「あははは……」
「何よ、このシンプルな建物!」
良いじゃないか、機能的で。
内部も解りやすく、使いやすい。
お客様に見せても好評価が貰えるはずだ。
「もっとこう……禍々しい感じじゃないと!」
「お前、何を期待しているんだよ」
人が苦労して作ったホームにケチを付けやがって。
そこまで言うなら……。
「ふむ、なら自分でやってみるか?」
「いいの? やる!」
建物にすっ飛んで行く妹。
それを見送った俺達は、庭の制作に取り掛かった。
日本風にするか、洋風にするか。
いや、もっと自然にって案もあるな……。
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暇だ……。
訓練場で友人たちとデュエルをする。
装備が圧倒的に負けているので、正直キツイ。
そして交流。
リーフやフェイ、ハウルやリンクスは妹の友人たちに大人気だ。
とはいえ、さすがに飽きる。
「……初日って普通、もっとモンスター相手にスキルアップに勤しまない?」
「リエを無視すると後が怖いんだよ」
「兄はつらいねえ……」
バン!
「出来たわ!」
訓練場のドアを蹴り開けて入ってきたリエ。
視線が集中すると、傲然と胸をそらした。
自信作の様だな。
「じゃ、行ってみようか」
そして、俺達はホームを見に行った。
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俺達の目の前には、残酷というか何というか、厳しい現実が待っていた。
そういえば、妹は美術の成績が良くなかった。
いわゆる『画伯』と呼ばれるタイプだ。
かつて修学旅行のイベントで、焼き物を作ってきた事があった。
丼、大皿、湯呑が全部同じ形だったのには驚愕した。
そして目の前の建物は……。
俺は無言でデザインを元に戻した。
「あああああーーーーーー!!!」
若干一名悲鳴を上げるが、他は静かに見守っている。
当然、止めようとはしない。
「何すんのよ! 私の力作を!」
「さて、行こうか」
「ちょっと、待ちなさいよ! コラー! 無視すんな!」
ゾロゾロと、ホームエリアを出ていくメンバー達。
うん、やっぱり機能美って良いよね。
威厳なんてどうでもいいじゃん。
さっきのは確かに圧倒されたけど、威厳とは違う圧倒のされ方だったし。
少なくとも客に「我が家です」って見せる気にはならない。
さあ、張り切って狩りに行きますかね。
「ほれ、行くぞリエ」
「うー、納得いかない~」
リクエストの多かった製品版。
本編エピローグ直後の出来事です。
正式サービスでようやく友人たちとの交流が。